はじめに
刑事事件において、被害者との「示談」は、不起訴処分や刑の減軽を目指す上で極めて重要な要素です。しかし、加害者となってしまった方の中には、「被害者に謝罪し、賠償したい気持ちはあるが、まとまった示談金を用意することが経済的に難しい」という悩みを抱えている方も少なくありません。
「お金がないから示談は諦めるしかない」と判断するのは尚早です。適切な手順と誠意ある対応、そして法的に有効な書面を作成することで、分割払いが認められるケースも存在します。
この記事では、示談金が一括で支払えない場合の対処法、分割払いを認めてもらうための交渉のポイント、そしてその際に重要となる「債務承認弁済契約」について解説します。
Q&A
示談金に関するよくある疑問
まずは、示談金の支払いや分割払いに関して、多くの方が抱く疑問にお答えします。
Q1. 示談金の分割払いは法的に認められますか?
はい、被害者(相手方)の合意があれば可能です。
法律上、示談金(損害賠償金)は一括払いが原則という決まりはありません。しかし、あくまで当事者間の合意が必要であり、被害者が「一括でなければ応じない」と主張した場合は、強制的に分割にすることはできません。
Q2. 示談金を払わずに放置するとどうなりますか?
刑事処分が重くなるリスクに加え、民事訴訟を起こされる可能性があります。
示談が成立しない場合、検察官は「被害回復がなされていない」と判断し、起訴(裁判にかけること)や、より重い求刑をする可能性が高まります。また、刑事手続きとは別に、被害者から損害賠償請求訴訟を起こされ、給与や財産の差し押さえを受けるリスクも生じます。
Q3. 「債務承認弁済契約書」とは何ですか?
分割払いの約束を確実にするための重要な契約書です。
「私(加害者)には支払い義務があること」を認め、具体的な支払い方法(回数、金額、期限など)を取り決めた書面です。分割払いでの示談においては、被害者の安心感を担保するために、この書面の作成が必要となります。
詳細解説
示談金が払えない場合の法的実務と交渉フロー
示談金を用意できない場合でも、誠意ある対応と法的な枠組みを用いた提案によって、解決の道が開けることがあります。ここでは具体的な流れと法的根拠について解説します。
1. 示談金が払えないことのリスクと現実
まず理解しておくべきは、被害者にとって「分割払い」はリスクが高いという点です。「途中で支払いが止まるのではないか」「加害者が逃げるのではないか」という懸念を抱くのは当然のことです。
刑事事件の実務において、示談金の一括払いは、被害者に対するもっとも明確な謝罪と被害回復の証明となります。したがって、分割払いを申し出るということは、「原則からは外れたお願いをしている」という謙虚な姿勢が不可欠です。
しかし、資力がないことを理由に示談を完全に放棄すれば、前述の通り刑事処分の軽減という機会を失います。自身の経済状況を正直に開示し、実現可能な計画を提示することが第一歩となります。
2. 分割払い交渉を成功させるためのポイント
分割払いを被害者に受け入れてもらうためには、単に「お金がない」と伝えるだけでは不十分です。以下の要素を具体的に提示する必要があります。
- 頭金(一時金)の用意
全額は無理でも、親族から借り入れるなどして、示談金総額の一部を「頭金」として即座に支払う姿勢を見せることが重要です。これにより、誠意と支払い能力の一部を証明できます。 - 具体的かつ現実的な返済計画
現在の収入と支出を精査し、「毎月〇日に〇万円を支払う」という具体的で無理のない計画を立てます。実現不可能な高額設定は、すぐに支払いが滞り、かえって心証を悪くする原因となります。 - 連帯保証人の選任
可能であれば、親族などに連帯保証人になってもらいます。万が一、本人が支払えなくなった場合に代わりに支払う人がいることは、被害者にとって大きな安心材料となり、合意形成を後押しします。
3. 「債務承認弁済契約書」の作成と条項
分割払いで合意する場合、口約束ではなく、書面を作成します。これを「債務承認弁済契約書(さいむしょうにんべんさいけいやくしょ)」、あるいは示談書の中にその条項を盛り込みます。
この契約書には、主に以下の内容を記載します。
- 債務の承認: 加害者が被害者に対して、損害賠償義務があることを認める文言。
- 支払い条件: 総額、分割回数、各回の支払額、支払期日、振込先。
- 期限の利益喪失約款(きげんのりえきそうしつやっかん):
これは非常に重要な条項です。「支払いを〇回(通常は1回または2回)怠った場合、分割払いの権利(期限の利益)を失い、直ちに残額を一括で支払わなければならない」という取り決めです。これがあることで、被害者は支払いが滞った際に即座に残金全額を請求できるようになります。
遅延損害金: 支払いが遅れた場合のペナルティ(利息など)について。
4. 「公正証書」による作成の推奨
分割払いの期間が長期にわたる場合や、金額が大きい場合は、単なる私的な契約書ではなく、公証役場で「執行認諾文言付公正証書(しっこうにんだくもんごんつきこうせいしょうしょ)」を作成することを推奨します。
この公正証書を作成しておくと、もし支払いが滞った場合、被害者は裁判を起こすことなく、直ちに加害者の給与や預貯金を差し押さえる(強制執行)ことができます。
加害者にとってはプレッシャーとなりますが、被害者にとっては強力な担保となるため、これを作成することを条件に分割払いに応じてもらえるケースが多くあります。
弁護士に相談するメリット
示談金の資金繰りに困っている場合こそ、弁護士への相談が重要です。
1. 被害者との冷静な交渉と信頼の醸成
加害者本人が「お金がないので分割にしてほしい」と伝えても、被害者感情を逆なでし、拒絶される可能性が高いです。弁護士が代理人となることで、客観的な経済状況を説明し、法的拘束力のある書面作成を約束することで、被害者に安心感を与え、交渉をまとめることができます。
2. 将来の紛争を予防する完璧な書面の作成
不完全な示談書や契約書は、後々のトラブルの元となります。弁護士は、「清算条項(これ以上の請求をしないという約束)」を含め、双方にとって公平かつ法的に有効な契約書(債務承認弁済契約書)を作成します。これにより、支払いを完了した後に再び請求されるといったリスクを回避できます。
3. 刑事弁護活動との連動
示談交渉の経過や、分割払いであっても被害弁償の合意ができた事実は、検察官や裁判官に対して有利な情状として主張できます。弁護士は、示談の成立を的確に捜査機関や裁判所に報告し、不起訴処分や執行猶予の獲得に向けて活動します。
まとめ
示談金が一括で支払えないからといって、諦める必要はありません。大切なのは、被害者に対する誠実な謝罪の気持ちと、それを形にするための具体的な行動です。
- 被害者の合意があれば、分割払い(長期の支払い)も可能です。
- 交渉には、頭金の準備や連帯保証人の検討など、誠意を示す材料が必要です。
- 「債務承認弁済契約書」や「公正証書」を作成し、不履行時のリスクを担保することが合意への鍵となります。
経済的な問題が絡む刑事事件の解決には、高度な交渉力と専門知識が求められます。ご自身だけで悩まず、できるだけ早い段階で弁護士にご相談ください。
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