はじめに
自動車やバイクを運転中に人身事故を起こしてしまった場合、被害者への救護措置や警察への連絡が済んだ後、加害者が次に直面するのは「これから自分はどうなるのか」という大きな不安です。
「罰金はいくらになるのか」「免許は取り消されてしまうのか」「刑務所に入らなければならないのか」といった疑問は、事故の当事者にとって深刻な悩みとなります。特に、人身事故は物損事故とは異なり、被害者の怪我の程度や過失の度合いによって、課される責任の重さが大きく変わります。
本記事では、人身事故を起こしてしまった方を対象に、刑事処分の行方を左右する「罰金の相場」や、運転免許に関わる「違反点数」の仕組みについて解説します。これからの手続きを正しく理解し、適切な対応をとるための参考にしてください。
人身事故に関するQ&A
まずは、人身事故の当事者がもっとも気にかける疑問について、簡潔にお答えします。
Q1. 人身事故の罰金はどのくらいになりますか?
一般的な「過失運転致死傷罪」の場合、罰金刑となるケースの多くは数十万円から50万円程度が相場とされています。ただし、これはあくまで目安であり、被害者の怪我の程度(全治までの期間)や、加害者の過失割合、過去の前科・前歴によって変動します。重傷事故や飲酒運転などの悪質なケースでは、100万円以下の罰金、あるいは拘禁刑が科される可能性もあります。
Q2. 人身事故を起こすと必ず免許停止や取り消しになりますか?
必ずなるとは限りませんが、可能性は高いと言えます。人身事故の場合、事故の原因となった交通違反の「基礎点数」に加え、被害の結果に応じた「付加点数」が加算されます。これらを合計した点数が一定の基準を超えると、免許停止(免停)や免許取り消しの行政処分を受けることになります。例えば、全治15日未満の軽傷事故であっても、違反内容によっては免許停止の基準に達することがあります。
Q3. 警察沙汰になっても「前科」をつけない方法はありますか?
日本の刑事司法において、検察官によって「起訴」され、有罪判決(略式命令による罰金刑を含む)を受けると前科がつきます。しかし、被害者との示談が成立している場合や、事故の態様が軽微である場合などには、検察官の判断で「不起訴処分」となることがあります。不起訴となれば裁判は行われず、前科もつきません。早期に弁護士に相談し、適切な弁護活動を行うことが重要です。
人身事故で問われる「3つの責任」
人身事故を起こした場合、加害者は法律上、性質の異なる3つの責任を同時に負うことになります。まずはこの全体像を理解しましょう。
民事上の責任(損害賠償)
被害者が被った損害をお金で償う責任です。治療費、慰謝料、休業損害、車の修理費などが含まれます。通常は加入している自賠責保険や任意保険を使って対応しますが、保険会社任せにせず、誠意ある対応が求められます。
行政上の責任(免許の処分)
公安委員会による運転免許に対する処分です。違反点数が加算され、その累積点数に応じて「免許停止」や「免許取り消し」の処分が下されます。これは将来の交通安全を確保するための措置であり、刑事罰とは別の手続きで進みます。
刑事上の責任(刑罰)
国が犯罪として捜査し、刑罰を科す責任です。警察と検察が捜査を行い、起訴されると裁判所が刑罰(拘禁刑、罰金)を決定します。本記事で詳しく解説する「罰金」は、この刑事上の責任に含まれます。
人身事故の刑事処分と罰金相場
ここでは、刑事責任の中心となる罪名と、気になる罰金の相場について解説します。
適用される主な罪名
人身事故の多くは、以下の法律に基づいて処罰されます。
過失運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律 第5条)
一般的な不注意による事故の多くがこれに該当します。
- 法定刑:7年以下の拘禁刑、または100万円以下の罰金
危険運転致死傷罪(同法 第2条、第3条)
飲酒、薬物、高速度、妨害運転(あおり運転)など、悪質で危険な運転により事故を起こした場合に適用されます。
- 法定刑(負傷):15年以下の拘禁刑
- 法定刑(死亡):1年以上の有期拘禁刑(最高20年)
※危険運転致死傷罪には罰金刑がなく、起訴されれば公開の裁判となり、実刑判決を受ける可能性が高まります。
罰金額の決定要因と相場(過失運転致死傷罪)
罰金の額は、裁判官(略式手続の場合は簡易裁判所)が個別の事情を考慮して決定します。明確な料金表があるわけではありませんが、実務上の傾向(相場)は存在します。
主な判断要素は以下の通りです。
- 被害の結果(怪我の程度)
全治までの期間が長いほど、罰金額は高くなります。 - 過失の程度
前方不注意、信号無視、一時不停止など、加害者の不注意がどの程度重大だったかが問われます。 - 示談の成立有無
被害者と示談が成立しており、被害者から「処罰を望まない(嘆願書など)」という意思が示されている場合、減額や不起訴の可能性が高まります。
【罰金の目安(初犯・過失運転致死傷罪の場合)】
- 全治15日未満(軽傷)
不起訴(お咎めなし)〜 罰金10万円〜20万円程度 - 全治1ヶ月前後
罰金20万円〜30万円程度 - 全治2ヶ月〜3ヶ月
罰金30万円〜50万円程度 - 重傷(後遺障害が残るような場合)または死亡事故
正式裁判(公判請求)となる可能性が高く、罰金ではなく拘禁刑が求刑されるケースが増えます。ただし、過失が小さい場合などは50万円〜100万円の罰金となることもあります。
※これらはあくまで一般的な傾向であり、具体的な事案によって異なります。
「略式起訴」と「罰金」
人身事故の罰金刑の多くは、「略式手続(略式起訴)」によって決まります。これは、公開の法廷で裁判を開く代わりに、書面審理のみで罰金を科す手続きです。
加害者が罪を認め、略式手続に同意した場合にのみ行われます。裁判所に行く必要がなく早期に解決しますが、「前科がつく」という点では通常の裁判と同じです。
行政処分と違反点数の仕組み
次に、運転免許に関わる「点数」の仕組みと、それがどのように処分につながるかを解説します。
点数計算の基本構造
人身事故の点数は、以下の2つの合計で決まります。
基礎点数
事故の原因となった交通違反に対する点数です。
- 安全運転義務違反(前方不注意や安全不確認など):2点
- 信号無視:2点
- 携帯電話使用等(保持):3点
など。
付加点数(交通事故の付加点数)
被害者の怪我の程度と、加害者の責任の重さ(専ら加害者の不注意か、被害者にも不注意があったか)によって決まります。
【付加点数の目安】
(※「専ら違反者の不注意」の場合)
- 死亡事故:20点
- 重傷(治療期間3ヶ月以上または後遺障害):13点
- 重傷(治療期間30日以上3ヶ月未満):9点
- 軽傷(治療期間15日以上30日未満):6点
- 軽傷(治療期間15日未満):3点
免許停止と取り消しの基準
計算された合計点数と、過去3年間の「前歴(免許停止などの処分歴)」の回数によって、処分が決まります。
【前歴0回(初めての処分)の場合】
- 6点 〜 14点:免許停止(期間は30日〜90日)
- 15点以上:免許取り消し(欠格期間1年〜)
【シミュレーション例:追突事故で相手が全治2週間の怪我(前歴なし)】
- 基礎点数(安全運転義務違反):2点
- 付加点数(軽傷・治療期間15日未満・専ら過失):3点
- 合計:5点
→ この場合、前歴がなければ6点に達しないため、ギリギリで免許停止にはなりません(ただし、あと1点で免停となる要注意状態です)。
【シミュレーション例:一時不停止で相手が全治1ヶ月の怪我(前歴なし)】
- 基礎点数(指定場所一時不停止等):2点
- 付加点数(治療期間30日以上・専ら過失):9点
- 合計:11点
→ 6点を超えているため「免許停止60日」の処分対象となります。
処分を軽減する「意見の聴取」
免許停止(90日以上)や免許取り消しに該当する場合、処分が決定する前に「意見の聴取」という手続きが行われます。ここで事故の経緯や反省の情、車が必要な事情などを主張することで、処分が軽減(例:取り消し→長期停止、停止期間の短縮など)される可能性があります。
事故発生から刑事処分までの流れ
人身事故を起こした後、どのようなプロセスを経て罰金などの処分が決まるのか、時系列で確認しましょう。
- 警察による捜査
実況見分や取り調べが行われます。ここで作成される「実況見分調書」や「供述調書」は、後の刑事処分や過失割合の認定に大きく影響します。 - 送致(送検)
警察から検察庁へ事件の書類・証拠が送られます。身柄拘束(逮捕)されていない在宅事件の場合、後日、検察庁から呼び出しがあります。 - 検察官による取り調べ
検察官が、被疑者(加害者)の話を聞き、最終的に起訴するかどうかを判断します。 - 起訴・不起訴の決定
- 不起訴:裁判にならず、前科もつきません。
- 略式起訴:書面審理で罰金刑が確定します。
- 公判請求(正式起訴):法廷での裁判が開かれます。拘禁刑などの重い処分が予想される場合です。
- 判決・処分の確定
略式命令であれば罰金を納付して終了。正式裁判であれば判決(執行猶予付き、実刑など)が言い渡されます。
人身事故を弁護士に相談するメリット
「保険会社が対応してくれるから大丈夫」と考えがちですが、保険会社が代行するのはあくまで「民事上の示談(賠償金の話)」だけです。刑事処分や行政処分への対策は、保険会社は行ってくれません。
ご自身の今後の人生を守るために、弁護士に相談するメリットは非常に大きいと言えます。
不起訴処分や罰金の減額を目指せる
検察官が起訴・不起訴を判断する際、もっとも重視するのは「被害者との示談状況」と「被害者の処罰感情」です。
弁護士は、保険会社の示談交渉とは別に、刑事弁護の観点から被害者にアプローチし、謝罪とともに「宥恕(ゆうじょ)条項(=加害者を許すという意思表示)」を含む示談の成立を目指します。これが成立すれば、不起訴や罰金の減額を得られる可能性が高まります。
早期の身体拘束からの解放
逮捕されてしまった場合、弁護士は逃亡や証拠隠滅の恐れがないことを主張し、早期の釈放(勾留の阻止・取り消し)を働きかけます。これにより、職場や学校への影響を最小限に抑えることができます。
取り調べへの適切なアドバイス
警察や検察の取り調べで、あやふやな記憶のまま不利な供述調書にサインをしてしまうと、後から覆すことは困難です。弁護士は、取り調べにどう対応すべきか、黙秘権をどう使うべきかなど、法的な観点から具体的なアドバイスを行います。
行政処分の軽減に向けたサポート
意見の聴取において、処分の軽減を求めるための意見書作成や、当日の同席(補佐人として)などのサポートを行います。仕事で車が不可欠な方にとって、免許取り消しを回避できるか、停止期間が短くなるかは死活問題です。
まとめ
人身事故を起こしてしまった場合、民事・行政・刑事という3つの重い責任がのしかかります。特に刑事処分(罰金や懲役)と行政処分(免許点数)は連動しており、事故の結果や対応の仕方によって、最終的な結果が大きく異なります。
- 罰金相場:軽傷なら12万〜30万円、重傷ならそれ以上が目安。
- 違反点数:基礎点数+付加点数で計算され、6点以上で免停、15点以上で取り消し。
- 重要なポイント:被害者との示談成立や反省の態度が、処分の重さを左右する。
「警察の言う通りにしていれば大丈夫だろう」と安易に考えず、早い段階で専門家の助言を仰ぐことが、将来のリスクを減らす最善の方法です。
人身事故の加害者となってしまい、今後の処分に不安を感じている方は、交通事案に豊富な実績を持つ弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。私たちは、あなたの権利を守り、再出発を支援するために全力を尽くします。
次にあなたがすべきこと
まずは、ご自身の事故状況(怪我の程度、違反内容)を整理し、不起訴の可能性や免許処分の見通しについて、弁護士の無料相談などを利用して確認することをお勧めします。当事務所では、刑事事件に関する初回相談を受け付けております。お一人で悩まず、まずはお問い合わせください。
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