はじめに
「知人の車に乗っていたら、知人の持ち物から違法薬物が見つかり、自分も一緒に逮捕されてしまった」
「同居しているパートナーが薬物を所持しており、自分も関与を疑われている」
このような状況で警察に介入された場合、たとえ自分自身が直接薬物を手に持っていなかったとしても、「共同所持(きょうどうしょじ)」の疑いで逮捕される可能性があります。
薬物犯罪において、この「共同所持」という概念は非常に重要であり、同時に一般の方には理解しづらい法的論点でもあります。「自分のものではない」「持っていたのは彼だ」という主張が直ちに通るとは限らず、捜査機関は厳しく追及を行います。
本記事では、薬物事件における「共同所持」が成立する法的要件、逮捕された場合の流れ、そして無実の証明や処分を軽くするために弁護士がどのような活動を行うのかについて解説します。
薬物の共同所持に関するQ&A
まずは、薬物の共同所持に関してよく寄せられる疑問に、Q&A形式で簡潔にお答えします。
Q1. 自分のポケットや鞄に入っていなかったのに、なぜ「所持」になるのですか?
法律上の「所持」とは、物理的に身につけていることだけでなく、「社会通念上の支配下にある状態」を指します。たとえ他人の鞄の中や車のダッシュボードにあっても、あなたがその薬物の存在を認識し、かつ自分の意思で管理・処分できる状態(共同して管理している状態)にあると判断されれば、共謀共同正犯として「共同所持」が成立します。
Q2. 相手が薬物を持っていることを知りませんでした。それでも罪になりますか?
薬物の存在や、それが違法なものであるという認識(故意)が全くない場合は、犯罪は成立しません。しかし、「知らなかった」と主張するだけで嫌疑が晴れるわけではありません。警察は、二人の関係性、当時の状況、尿検査の結果、過去の通信履歴などから、「知っていたはずだ(黙認していた)」という事実を立証しようとします。無実を証明するには、客観的な証拠に基づく反論が必要です。
Q3. 実際に持っていた人より、共同所持の自分の方が罪は軽くなりますか?
共同所持として「共同正犯」が成立する場合、原則として実際に所持していた主犯格の人物と同等の刑罰が科されます。「自分は見ていただけ」「頼まれて預かっただけ」という認識であっても、法律上は対等な共犯者として扱われることが一般的です。ただし、関与の度合いが従属的であることなどを裁判で主張し、量刑において考慮を求めることは可能です。
解説:薬物犯罪における「共同所持」とは
ここからは、なぜ「自分のもの」ではないのに逮捕・起訴されるのか、その法的な仕組みと実務上の判断基準について解説していきます。
1. 「共同所持」の法的根拠
日本の刑法には「共同所持」という罪名が独立して存在するわけではありません。これは、覚醒剤取締法や大麻取締法などの「所持罪」と、刑法60条の「共同正犯」の規定を組み合わせた概念です。
刑法第60条(共同正犯)には、「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする」と定められています。つまり、複数人が協力して一つの犯罪を行った場合、全員がその犯罪を行った本人(正犯)として扱われ、全員に同じ刑罰が適用されるのです。
薬物事件においては、以下の2つの要件が満たされた場合に、共同所持が認められます。
- 共同加工の意思(共謀)
「一緒に薬物を持とう」「この薬物を二人で管理しよう」という意思の疎通があること。明示的な言葉がなくても、状況から「暗黙の了解」があったと認定されることもあります。 - 共同所持の事実(実行行為)
共謀に基づき、薬物を共同で実力的に支配・管理している状態にあること。
2. 共同所持が疑われる典型的なケース
実務上、共同所持で逮捕されるケースにはいくつかの典型的なパターンがあります。
車内での発見
最も多いケースの一つです。知人が運転する車に同乗中、職務質問を受け、車内のダッシュボードやシートの下、あるいは知人のバッグから薬物が発見された場合です。
車という密室空間では、同乗者も薬物の存在を認識しやすく、また使用する目的で一緒に移動していたと疑われやすいため、同乗者も現行犯逮捕される事例が多々あります。
居宅やホテルでの発見
同棲している部屋や、一緒に滞在しているホテルの一室から薬物が発見された場合です。テーブルの上に無造作に置かれていたり、共有の引き出しに入っていたりする場合、「同居人も当然知っており、自由に使える状態だった」とみなされ、共同所持が問われます。
受け渡し現場や路上
路上で知人が薬物を購入する現場に立ち会っていたり、知人が薬物を隠し持っている状態で一緒に歩いていたりする場合も、その前後の行動(一緒に使用する場所を探していた等)によっては共同所持とみなされることがあります。
3. 捜査機関が注目する「証拠」
警察や検察は、単に「一緒にいた」というだけでなく、以下のような要素を総合的に考慮して、共同所持の成立を立証しようとします。
- 人間関係: 友人、恋人、売人と客など、二人の関係性や親密度。
- 薬物の位置: 薬物が発見された場所が、自分からも手の届く範囲だったか、隠し場所を共有していたか。
- 尿検査の結果: 逮捕後の尿検査で陽性反応が出た場合、「自身も使用していた=薬物の存在を認識し、管理に関与していた」という強力な証拠となります。
- 通信履歴: LINEやメールなどで、薬物の購入や使用に関するやり取り、隠語を使った会話が残っていないか。
- 指紋・DNA: パケ(薬物を入れる小袋)や吸引器具から、自分の指紋やDNAが検出されるか。
- 供述内容: 相手方(主犯格)が「あいつも知っていた」「二人で使うつもりだった」と供述しているかどうか。
4. 逮捕後の流れとリスク
薬物事件、特に共同所持の事案では、逮捕後の身体拘束が長期化しやすい傾向にあります。
- 逮捕(最大72時間): 警察署に留置され、取調べを受けます。
- 勾留(最大20日間): 検察官が裁判所に請求し、認められればさらに長期間拘束されます。
- 接見禁止: 薬物事件は、共犯者との口裏合わせ(証拠隠滅)が行われるリスクが高いと判断されるため、弁護士以外との面会や手紙のやり取りが禁止される「接見禁止」処分が付くことが一般的です。
- 起訴・裁判: 証拠が固まれば起訴され、刑事裁判となります。
特に「否認」をしている場合(「知らなかった」と主張している場合)、捜査機関は自白を引き出すために厳しい取調べを行うことが多く、保釈も認められにくくなるため、精神的に追い詰められるリスクが高まります。
弁護士に相談するメリット
薬物の共同所持で逮捕された、あるいは家族が逮捕された場合、直ちに弁護士に依頼することには計り知れないメリットがあります。特に「身に覚えがない」場合や「関与が薄い」場合、初動の対応が生涯を左右すると言っても過言ではありません。
1. 「故意の不存在」を主張し、不起訴を目指す
もしあなたが本当に薬物の存在を知らなかった、あるいは知っていたけれど自分のものではなく、止めることもできなかったという場合、その旨を法的に正しく主張する必要があります。
弁護士は、捜査機関の見立てに含まれる矛盾点を指摘し、客観的証拠(指紋がないこと、薬物が隠されていた場所の特殊性など)に基づいて「共同所持の意思も事実もなかった」ことを訴えます。
取調べにおいて、誘導に乗せられて不利な調書(「なんとなく気づいていたかもしれない」といった曖昧な供述)を作成されないよう、具体的なアドバイスを行います。これにより、嫌疑不十分による不起訴処分の獲得を目指します。
2. 接見禁止の解除・保釈請求
前述の通り、薬物事件では家族との面会すら禁じられることが多々あります。
弁護士は、裁判所に対して「証拠隠滅の恐れがないこと」や「家族のサポートがあること」を主張し、接見禁止の一部解除(家族のみ面会可能にするなど)を求めます。
また、起訴後には速やかに保釈請求を行い、早期の身柄解放に向けて尽力します。社会復帰を早めるためにも、身柄拘束の期間を短くすることは重要です。
3. 量刑の減軽に向けた活動(情状弁護)
万が一、事実関係を争わない場合(実際に共同所持をしていた場合)であっても、弁護士の役割は重要です。
主犯格との関係性において従属的であったこと、薬物依存からの回復プログラムへの参加を誓約していること、家族による監督体制が整っていることなどを裁判官に示し、執行猶予付き判決など、少しでも軽い処分となるよう活動します。
特に、薬物事件は再犯率が高い犯罪であるため、単に反省の弁を述べるだけでなく、「二度と手を出さないための具体的な環境作り」を提示できるかが、判決に大きく影響します。
4. 違法捜査への対応
薬物事件の捜査では、職務質問や所持品検査、令状執行の過程で、警察官による違法な捜査(令状のない無理な捜索や、任意捜査の限界を超えた留め置きなど)が行われることがあります。
弁護士は、捜査記録を精査し、違法な手続によって収集された証拠の排除を求めることができます。重大な違法性があれば、証拠能力が否定され、無罪判決につながるケースもあります。
まとめ
薬物の共同所持は、自分自身が直接手を下していなくても、その場に居合わせ、状況に関与していたとみなされれば成立する重い犯罪です。「知らなかった」「自分のものではない」という言い分は、しっかりとした証拠と法的論理で裏付けられなければ、捜査機関や裁判所には通用しません。
特に、逮捕直後の取調べは孤独で過酷なものです。不利な供述調書が一度作成されてしまうと、後から覆すことは困難を極めます。だからこそ、一刻も早い弁護士の介入が必要です。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、薬物事件を含む刑事事件の解決に豊富な実績を有しています。
「家族が逮捕された」「警察から呼び出しを受けている」など、不安な状況にある方は、一人で抱え込まず、直ちにご相談ください。
私たちは、依頼者様の権利を守り、最善の結果を得るために、専門知識を駆使して全力でサポートいたします。
ご自身の、あるいは大切なご家族の未来を守るために、まずは専門家である弁護士にお話しください。
刑事事件は時間との勝負です。
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本記事は一般的な法律知識の解説であり、具体的な事案の解決を保証するものではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。
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