薬物事件に示談は存在しない?それでも弁護士に依頼する意味を解説

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はじめに

窃盗や傷害といった多くの刑事事件では、被害者の方と話し合い、謝罪と賠償を尽くす「示談」を成立させることが、不起訴処分や刑の減軽を勝ち取るための、最も重要で効果的な弁護活動となります。

では、覚醒剤や大麻などの薬物事件の場合はどうでしょうか。

結論から言うと、薬物事件には、基本的には「示談」という概念が存在しません。 なぜなら、薬物事件には、暴行事件の被害者のように、損害賠償を請求する権利を持つ、特定の個人としての「被害者」がいないからです。

「示談ができないのであれば、弁護士に依頼しても意味がないのではないか?」
「刑を軽くするために、一体何をすればよいのか?」

このように、途方に暮れてしまう方も少なくないでしょう。

この記事では、薬物事件に「示談」が存在しない理由と、それでもなお、弁護士に依頼することが、実刑判決を回避し、あなたの未来を守るために重要である理由について、解説します。

Q&A

Q1. 薬物事件には、本当に被害者はいないのでしょうか?家族も被害者とは言えませんか?

法律上の「被害者」という意味では、存在しない、と解釈されます。刑事手続きにおける「被害者」とは、犯罪行為によって直接的に権利を侵害され、損害賠償請求権を持つ人のことを指します。薬物事件は、本人の心身や、社会全体の法秩序を害する犯罪であり、特定の個人の権利を直接侵害するものではないため、法律上の被害者はいないのです。

もちろん、ご家族が受けた精神的・経済的な苦痛は計り知れず、事実上の「被害者」であることは間違いありません。そのご家族の苦しみや悲しみを、本人がどう受け止め、償おうとしているかを裁判で訴えていくことは、本人の反省の深さを示す上で重要です。

Q2. 示談ができないのであれば、弁護士費用を払ってまで私選弁護人を頼むメリットは何ですか?国選弁護人で十分ではないでしょうか?

示談ができないからこそ、私選弁護人の専門的な活動がより重要になります。示談という分かりやすい切り札がない薬物事件では、いかにして本人の更生意欲と、再犯しないための具体的な環境が整っているかを、客観的な証拠で示せるかが、執行猶予を勝ち取るための全てとなります。

そのためには、逮捕直後から迅速に動き出し、専門の医療機関や回復支援施設との緊密な連携、ご家族との綿密な打ち合わせ、そしてそれらを説得力のある書面にまとめる、きめ細やかで手厚い弁護活動が不可欠です。薬物事件に特化した経験豊富な弁護士を自ら選べる私選弁護人への依頼は、国選弁護人とは比較にならない大きなメリットがあります。

Q3. 弁護士に依頼すれば、必ず執行猶予が取れますか?

必ず執行猶予が取れる、というお約束はできません。最終的な判決を下すのは、裁判官だからです。特に、営利目的の事案や、同種前科が多数ある事案では、実刑判決となる可能性は高くなります。

しかし、弁護士に依頼することで、執行猶予を獲得できる可能性を、最大限に高めることができます。弁護士は、あなたにとって最善の結果を得るために、あらゆる法的手段と情状弁護を尽くします。たとえ結果が実刑となったとしても、その刑期を少しでも短くするための活動を、最後まで諦めずに行います。

解説

1.なぜ、薬物事件に「示談」という概念がないのか?

示談が成り立たない理由は、薬物犯罪が「国家的法益」や「社会的法益」を侵害する犯罪と位置づけられているからです。

  • 国家的法益:国の薬物取り締まりという、正当な行政作用を害すること。
  • 社会的法益:薬物の蔓延によって、国民全体の保健衛生や、健全な社会生活の平穏を害すること。

このように、被害者が「国」や「社会全体」であるため、特定の個人に謝罪し、示談金を支払って許してもらう、というプロセスが成り立たないのです。

また、薬物を使用する行為は、加害者自身の心身を破壊する行為でもあります。この点からも、損害賠償を求める相手方(被害者)を想定しにくい犯罪であることがわかります。

2.示談に代わる、執行猶予を勝ち取るための「情状弁護」

示談ができない薬物事件で、執行猶予付き判決などの寛大な処分を得るためには、被告人が二度と薬物に手を出さない、と裁判官に確信させられるだけの、客観的で具体的な証拠を積み重ねていく必要があります。これが、薬物事件における「情状弁護」の中心となります。

弁護士は、主に以下の3つの柱で、あなたに有利な情状を形成していきます。

① 薬物依存からの脱却に向けた、具体的な取り組みの開始

「もう二度とやりません」という言葉は、薬物事犯の被告人が誰もが口にする言葉であり、裁判官は聞き飽きています。重要なのは、その言葉を裏付ける「行動」です。

  • 専門の医療機関での治療:薬物依存を「病気」として捉え、精神科や心療内科の専門医の診察を受け、治療を開始します。
  • 回復支援施設への入寮・通所:ダルク(DARC)やNA(ナルコティクス・アノニマス)といった、薬物依存からの回復を支援する民間の施設や自助グループに繋がり、同じ苦しみを持つ仲間と共に専門的なプログラムに参加します。

② 薬物との関係を完全に断ち切るための環境調整

再び薬物に手を染める機会を、物理的に排除するための環境を作ります。

  • 薬物仲間との関係清算:これまでの薬物仲間との連絡先をスマートフォンから全て消去し、SNSのアカウントを削除するなど、交友関係を完全に断ち切ったことを具体的に示します。
  • 住環境の変更:薬物を使用していた場所や、入手先が近い場所から引っ越し、家族の元に身を寄せるなど、生活環境を刷新します。

③ 家族による、厳格な監督体制の構築

ご家族のサポートは、裁判官に「社会内で更生できる」と判断してもらうための、きわめて重要な要素です。

  • 監督計画書の作成:ご家族が、釈放後の被告人の生活をどのように監督していくのか(定期的な尿検査の実施、金銭管理、交友関係のチェックなど)を、具体的な「監督計画書」として作成し、裁判所に提出します。
  • 情状証人としての出廷:裁判では、ご家族に情状証人として出廷してもらい、法廷で「家族全員で、本人を支え、二度と過ちを犯させません」と、裁判官に直接誓約してもらいます。

3.示談がないからこそ、弁護士の存在意義がある

示談ができない薬物事件において、弁護士は、単に法律的な手続きを代行するだけではありません。あなたの更生への道のりを具体的に説明し、それを裁判官に伝える翻訳者としての重要な役割を担います。

意味①:更生への「道筋」を設計し、案内する

逮捕され、孤立しているご本人や、どうしてよいか分からず混乱しているご家族に対し、弁護士はまず、適切な医療機関や回復支援施設を紹介し、そこへ繋げるハブ(中継拠点)となります。逮捕されている間に、保釈後すぐに入寮できる施設を探し、予約を取るといった、具体的な更生の環境を、先回りして整えていきます。

意味②:更生の「取り組み」を、法的な「証拠」へと変換する

ご本人やご家族が行っている上記の様々な取り組みを、弁護士は、医師の診断書、施設の入所証明書、家族の陳述書や監督計画書、本人の反省文といった、裁判で通用する「客観的な証拠」の形にまとめ上げます。

意味③:更生の「物語」を、法廷で説得的に主張する

そして、最終弁論の場で、これらの証拠を基に、「被告人は、自らの依存症という病と真摯に向き合い、専門家の助けを借りて、これだけの具体的な努力を始めている。家族も、これだけの覚悟をもって彼を支えようとしている。彼に必要なのは、刑務所での画一的な処遇ではなく、社会の中で専門的な治療を継続し、人との繋がりの中で立ち直るチャンスである」と、裁判官の心を動かす、説得力のある主張を展開します。

まとめ

薬物事件には、たしかに「示談」という、分かりやすい解決の切り札は存在しません。しかし、だからといって、弁護士の役割がないわけでは決してありません。

むしろ、示談というカードが使えないからこそ、本人の更生への真摯な取り組みを、いかに客観的な証拠として積み上げ、それを裁判官に説得的に伝えられるかという、より専門的で、人間的な弁護活動が求められるのです。

弁護士の役割は、あなたの更生への決意を、執行猶予付き判決という「社会でやり直すためのチャンス」へと繋げるサポーターとなることです。

薬物事件で逮捕され、人生に絶望しているのであれば、どうか一人で苦しまないでください。私たちが、あなたの再起のための道筋を示します。

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