窃盗の常習犯(累犯)になると刑罰は重くなる?執行猶予はつかないのか解説

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はじめに

万引きや置き引きといった窃盗は、クレプトマニア(窃盗症)という病的な要因が背景にあることも多く、一度罪を犯してしまうと、自分の意思だけではやめられず、繰り返してしまう傾向が強い犯罪の一つです。

初犯であれば、被害店舗と示談が成立し、罰金刑や執行猶予付き判決で済んだかもしれません。しかし、その猶予期間中に、あるいは刑の執行を終えて間もなく、二度、三度と窃盗を繰り返してしまった場合、事態は比較にならないほど深刻になります。

日本の刑法には、「累犯(るいはん)」という規定があり、前科がある者が再び罪を犯した場合、その刑罰を重くすることが定められています。特に、窃盗を繰り返す「常習性」は、裁判官の心証を著しく悪化させ、実刑判決、つまり刑務所に行かなければならない可能性を飛躍的に高めるのです。

この記事では、窃盗の常習犯や累犯になってしまった場合に、刑罰がどれほど重くなるのか、そして執行猶予が付かなくなるのか、その厳しい現実と、それでも実刑を回避するための道筋について解説します。

Q&A

Q1. 窃盗の前科が1回あります。次に万引きで捕まったら、必ず実刑判決になりますか?

必ず実刑になるとは限りませんが、そのリスクは高くなります。前回の窃盗事件からどれくらいの期間が経っているか、今回の被害額や犯行態様、そして何よりも被害者との示談が成立しているか、といった要素によって判断は変わります。しかし、裁判官は「一度チャンスを与えたのに、また同じ過ちを犯した」と、きわめて厳しい目で見ることになります。実刑判決を回避するためには、初犯の時とは比較にならないほどの、徹底した弁護活動が必要不可欠です。

Q2. 「常習累犯窃盗」という言葉を聞きました。通常の窃盗罪とどう違うのですか?

「常習累犯窃盗」は、「盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律」という特別な法律に定められた、きわめて重い犯罪です。これは、過去10年間に窃盗罪などで3回以上、拘禁刑6ヶ月以上の刑を受けた者が、さらに常習として窃盗を行った場合に適用されます。通常の窃盗罪の法定刑が「10年以下の拘禁刑…」であるのに対し、常習累犯窃盗罪は「3年以上の有期拘禁刑」と、刑の下限が定められています。執行猶予が付くのは原則として「3年以下の拘禁刑」の判決なので、この罪で起訴されると、裁判官が特別な事情で刑を3年以下に減軽しない限り実刑判決となる厳しい犯罪です。

解説

一度ならず、二度、三度…。窃盗の繰り返しが、なぜこれほどまでに重く罰せられるのか。その法的根拠と、厳しい現実を見ていきましょう。

1. なぜ、窃盗の繰り返し(常習性)は重く罰せられるのか?

裁判所が、窃盗を繰り返す被告人に対して厳しい姿勢で臨むのには、明確な理由があります。

  • 規範意識の欠如・強い非難
    一度、刑事罰という形で国から警告を受けたにもかかわらず、再び罪を犯すという行為は、「社会のルールを守る意識(規範意識)が著しく低い」と評価されます。その更生意欲のなさは、強い社会的非難の対象となります。
  • 社会内での更生への不信感
    罰金刑や執行猶予付き判決は、「刑務所ではなく、社会生活を送りながら更生するチャンス」を与えるものです。そのチャンスを自ら放棄したと判断され、「社会内での更生はもはや困難であり、刑務所での専門的な矯正教育が必要である」と、裁判官に考えられてしまうのです。

2. 刑罰が法律上、加重される「累犯(るいはん)」の規定

前科がある場合の刑罰の加重は、単なる裁判官の心証の問題だけではありません。刑法には、明確な加重規定が存在します。

  • 累犯(刑法第56条)
    以下の条件を満たす場合に、「累犯」として扱われます。
    • 拘禁刑に処せられた者が、その執行を終わり、又は執行の免除を得た日から、5年以内に更に罪を犯したとき。
  • 累犯加重(刑法第57条)
    累犯にあたる場合、新たに犯した罪について言い渡される拘禁刑の長期(上限)が、法律で定められた刑の2倍になります。
    • 窃盗罪の法定刑は「10年以下の拘禁刑」ですが、累犯窃盗の場合、その上限が2倍の「20年以下の拘禁刑」の範囲で処断されることになります。
  • 再度の執行猶予の原則禁止(刑法第25条2項)
    前に拘禁刑以上の刑(執行猶予付きを含む)に処せられた者が、その執行猶予期間中に再び罪を犯した場合、原則として、再び執行猶予を付けることはできません。これが「再度の執行猶予の禁止」という、非常に厳しいルールです。ごく例外的に再度の執行猶予が認められるケースもありますが、そのハードルはきわめて高いのが現状です。

3. 実刑必至?「常習累犯窃盗」の恐怖

さらに、窃盗を何度も繰り返す者には、「盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律(盗犯等防止法)」という、刑法より重い刑罰を定めた特別法が適用されることがあります。

常習累犯窃盗(盗犯等防止法第3条)

  • 対象者
    過去10年間において、窃盗罪・強盗罪などで3回以上、拘禁刑6ヶ月以上の刑に処せられたことがある者。
  • 要件
    上記の対象者が、さらに「常習として」窃盗などを行った場合。
  • 法定刑
    3年以上の有期拘禁刑

この犯罪の最も恐ろしい点は、法定刑の下限が「3年」と定められていることです。日本の法律では、執行猶予を付けることができるのは、言い渡される判決が「3年以下の拘禁刑」の場合です。

つまり、常習累犯窃盗罪で起訴されてしまうと、裁判官が法律上の減軽事由(情状酌量など)を適用して、刑を3年以下にまで減らさない限り実刑判決となり、刑務所に行かなければならないのです。

4. それでも実刑を回避するための、残された道筋

窃盗の常習犯となってしまい、実刑判決が濃厚な状況でも、諦めるべきではありません。執行猶予を勝ち取るためには、初犯の時とは比較にならない、徹底した更生への取り組みを示す必要があります。

  1. 全ての被害者との示談成立
    これが大前提です。複数の被害者がいる場合、その全てと示談を成立させ、被害弁償を尽くす必要があります。一つでも示談が成立しなければ、実刑の可能性は格段に高まります。
  2. 窃盗症(クレプトマニア)の専門的な治療の開始
    窃盗を繰り返してしまう背景に、「窃盗症」という病気があることを、本人も家族も正面から認め、専門の医療機関での治療やカウンセリングを直ちに開始することが不可欠です。「自分の意思ではやめられない病気だからこそ、刑務所ではなく、社会内で治療を継続させるべきだ」と、裁判官に訴えるのです。
  3. 家族などによる鉄壁の監督体制の構築
    釈放された後の生活について、家族がどのように本人を監督し、二度と万引きができない環境を作るのかを、具体的な「監督計画書」として裁判所に提出します。例えば、「金銭管理は全て家族が行う」「一人での外出はさせない」といった、厳しい監督体制を誓約します。

弁護士に相談するメリット

窃盗の常習犯となってしまった方の弁護は、きわめて専門的な知見と経験が求められます。

  • 実刑回避への、具体的な道筋の提示
    常習窃盗の事案で執行猶予を勝ち取るためには、「示談」「治療」「監督」の三本柱が不可欠です。弁護士は、この方針に沿って、ご本人とご家族が何をすべきかを具体的に示し、その活動を法的な主張へと結実させます。
  • 困難を極める示談交渉
    常習犯に対しては、被害店舗の処罰感情も厳しく、示談交渉は難航します。弁護士は、粘り強く交渉し、全ての被害者との示談成立を目指します。
  • 専門医療機関との緊密な連携
    クレプトマニア治療の実績が豊富なクリニックやカウンセラーと連携し、ご本人を適切な治療へとつなげます。そして、医師の診断書や治療への取り組み状況を、裁判で最も有利な証拠として提出します。
  • 裁判官の心を動かす、最後の情状弁護
    法廷で、これまでの過ちを真摯に反省し、病と向き合い、家族の支えのもとで今度こそ更生するという本人の固い決意を、具体的な証拠と共に裁判官に伝え、最後のチャンスである執行猶予付き判決を求めます。

まとめ

窃盗を一度、また一度と繰り返してしまった場合、法律は「累犯」として、あなたに厳しい罰則を科します。再度の執行猶予は原則としてなく、常習累犯窃盗罪が適用されれば、実刑判決は目前に迫ります。

しかし、道が完全に閉ざされたわけではありません。全ての被害者との示談、専門的な治療、そして家族の協力。この3つを揃え、弁護士と共に「今度こそ本気で更生する」という強い決意を裁判官に示すことができれば、実刑を回避できる可能性は残されています。

「もう後がない」という崖っぷちの状況だからこそ、どうか一人で絶望せず、すぐに窃盗事件の常習事案に関する弁護経験が豊富な、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。

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