置き引き・スリは窃盗罪?遺失物等横領罪との違いと刑罰を解説

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はじめに

カフェで席を取るために置いたままのカバン、電車の網棚に少しの時間だけ置いた荷物、あるいは混雑した場所で他人のポケットからそっと抜き取られる財布…。これらはすべて、「置き引き」や「スリ」と呼ばれる、私たちの身の回りで起こりうる身近な犯罪です。

これらの行為は、一般的に「窃盗罪」にあたります。一方で、道に落ちていた財布を拾って、そのまま自分のものにしてしまう行為は、「遺失物等横領罪(いしつぶつとうおうりょうざい)」という、窃盗罪とは異なる別の犯罪が成立する可能性があります。

これら2つの犯罪は、どちらも「他人の物を自分のものにする」という点では同じように見えますが、法律上は明確な一線が引かれています。その境界線を決めるのが、「占有(せんゆう)」という、少し難しい法律上の概念です。

この記事では、「置き引き」や「スリ」がなぜ窃盗罪になるのか、そして「遺失物等横領罪」とは何が違うのか、その境界線とそれぞれの刑罰の重さについて解説します。

注:本稿は2025年6月1日に施行される改正刑法に基づき、従来の「懲役刑」を「拘禁刑」として記載しています。

Q&A

Q1. コンビニのトイレの個室に、前に使った人が置き忘れた財布がありました。これを持ち帰ったら、窃盗罪ですか?それとも遺失物等横領罪ですか?

このケースでは、「窃盗罪」が成立する可能性が高いです。ポイントは、その財布が誰の「占有」下にあったかです。忘れ物の持ち主の占有は離れていますが、判例では、コンビニのトイレのような管理された空間内にある忘れ物は、新たにそのお店の管理者(店長など)の占有に移転したと解釈されます。したがって、その財布を持ち去る行為は、店長の占有を侵害する行為と見なされ、遺失物等横領罪ではなく、より重い窃盗罪が適用されるのです。

Q2. 「置き引き」と「スリ」では、どちらの罪が重くなりますか?

どちらも同じ「窃盗罪」ですが、一般的に「スリ」の方が、より悪質と見なされ、重く処罰される傾向にあります。置き引きは、持ち主が注意を怠っていたという側面も情状として考慮される余地がありますが、スリは、被害者が身につけている物を、その隙を突いて巧みに盗み出すという、きわめて計画的かつ悪質な手口です。そのため、逮捕・勾留される可能性も高く、裁判になった場合の刑罰も、置き引きより重くなるのが通常です。

Q3. 盗んだ財布からお金だけを抜き取って、財布自体は近くのゴミ箱に捨ててしまいました。この場合、罪は重くなりますか?

はい、より不利な情状として考慮される可能性が高いです。罪証を隠滅しようとした、と見なされるからです。財布を捨てるという行為は、自分が犯人であることを隠そうとする意図の表れであり、反省していないと評価されます。また、財布自体や中に入っていたカード類なども含めた全ての被害額について、被害弁償をする責任を負うことに変わりはありません。むしろ、悪質な犯行後の行動として、より厳しい処分につながるリスクがあります。

解説

「他人の物を盗る」という行為が、どのような場合にどの犯罪になるのか。その分かれ目である「占有」の概念を中心に、詳しく見ていきましょう。

1. 窃盗罪と遺失物等横領罪を分ける「占有」というカギ

この2つの犯罪を区別する、たった一つの、しかし決定的な違い。それは、盗られた物が、その時点で「他人の占有下にあったかどうか」です。

  • 窃盗罪(刑法第235条)
    「他人の財物を窃取した」場合に成立します。ここでのポイントは、その財物が、窃取された時点で「他人の占有下にあった」ということです。
    【刑罰】10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
  • 遺失物等横領罪(刑法第254条)
    「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した」場合に成立します。こちらのポイントは、その物が、横領された時点で「誰の占有下にもなかった」ということです。正式には「占有離脱物横領罪」といいます。
    【刑罰】1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金もしくは科料

ご覧の通り、法定刑には極めて大きな差があります。他人の支配を積極的に破って物を奪う「窃盗」は、誰の支配下にもない物を自分のものにする「遺失物等横領」よりも、はるかに悪質と評価されるためです。

「占有」とは何か?

「占有」とは、物に対する事実上の支配・管理を意味します。物理的に手に持っている状態はもちろんのこと、社会通念上、その人の支配が及んでいると見なされる状態も広く含まれます。例えば、自宅の庭に置いてある自転車は、あなたがその時家にいなくても、あなたの占有下にある、と評価されます。

2. 置き引き・スリが、なぜ「窃盗罪」になるのか?

この「占有」の考え方を当てはめると、置き引きやスリがなぜ窃盗罪になるのかが分かります。

  • 置き引きの場合
    カフェのテーブルに置かれたスマートフォン、図書館の机の上のカバン、電車の網棚の荷物…。これらは、たとえ持ち主がその場を少し離れてトイレに行っていたり、眠っていたりしても、社会通念上、まだその持ち主の事実上の支配が及んでいると判断されます。その支配(占有)を侵害し、持ち去る行為だからこそ、「窃盗罪」が成立するのです。
  • スリの場合
    他人の衣服のポケットや、身につけているカバンの中にある財布やスマートフォンは、言うまでもなく、その持ち主の最も強い占有下にあります。その支配を、相手に気づかれないように、あるいは気づく間もなく破って奪い取る行為は、窃盗罪の中でも特に悪質な態様と評価されます。

3. では、遺失物等横領罪が成立するのはどんなケース?

遺失物等横領罪が成立するのは、その物が、持ち主の意思に基づかずにその占有を離れ、かつ、他の誰の占有下にも入っていない「占有離脱物」となった場合です。

  • 道端に落ちている財布やスマートフォン
    持ち主が落としたことに気づかず、その場を立ち去ってしまった場合、その財布は持ち主の占有を離れます。これを拾って警察に届けず、自分の懐に入れてしまった場合、遺失物等横領罪が成立します。
  • 乗り捨てられた(ように見える)自転車
    駅前などに長期間放置されている自転車を、勝手に自分のものとして乗り始めた場合も、この罪にあたります。(ただし、施錠されている場合は、窃盗罪が成立する可能性もあります。)

4. 境界線が難しいケース【占有の移転】

判断が難しいのが、Q1で挙げたような、管理された施設内での忘れ物のケースです。

  • コンビニやスーパーのトイレ、商業施設の試着室、ホテルの客室など
    これらの空間は、施設の管理者(店長や支配人など)が、排他的に支配・管理している場所です。

このような場所にある忘れ物は、たとえ元の持ち主の占有は離れていても、新たにその施設の管理者の占有に移転したと解釈されます。

したがって、これを発見した第三者が自分のものにしてしまう行為は、管理者の占有を侵害する「窃盗罪」にあたるのです。

一方で、誰でも自由に出入りできる公園のベンチの忘れ物などは、管理者の占有が認められにくく、遺失物等横領罪が成立する可能性が高いでしょう。このように、占有の有無は、具体的な場所や状況によって、法的な判断が分かれる複雑な問題なのです。

弁護士に相談するメリット

置き引きや遺失物横領の疑いをかけられた場合、弁護士はあなたの行為が法的にどう評価されるべきかを的確に判断し、あなたを守るための活動を行います。

占有の有無を争い、より軽い罪を目指す

事案の詳細な状況を分析し、発見場所の管理状況などから、「他人の占有は及んでおらず、占有離脱物であった」と主張することで、重い窃盗罪ではなく、より刑罰の軽い遺失物等横領罪の適用を求め、有利な処分を目指します。

早期の示談交渉による、不起訴処分の獲得

窃盗罪、遺失物等横領罪のいずれのケースでも、被害者の方との示談の成否が、その後の処分を決定づける最も重要な要素です。弁護士が代理人として迅速に被害者の方と連絡を取り、被害弁償と謝罪を行うことで、不起訴(起訴猶予)処分を勝ち取ることを目指します。

被害者不明の場合の、最善の対応

遺失物横領などの場合、被害者が誰か分からないこともあります。そのような場合でも、弁護士は、警察に自首する手続きをサポートしたり、被害弁償金相当額を法務局に預ける「供託」を行ったり、あるいは慈善団体へ「贖罪寄付」をしたりすることで、あなたの反省の態度を客観的な形で示し、検察官に寛大な処分を求めます。

まとめ

「置き引き」や「スリ」は、他人の占有を侵害する窃盗罪。道に落ちている物を自分のものにする行為は、誰の占有下にもない物を横領する遺失物等横領罪。この2つを分けるのは、「占有」の有無という、一見すると分かりにくい法律上の概念です。

そして、その境界線の判断は、具体的な状況によって異なり、きわめて専門的です。特に、施設内の忘れ物は、安易に「落とし物」と判断すると、窃盗という重い罪に問われかねません。

もし、あなたが他人の物を意図せず手にしてしまい、どうすればよいか分からずにいるのなら、どうか一人で悩まず、すぐに弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。あなたの行為がどの罪にあたるのかを的確に判断し、最善の解決策をご提案します。

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