職務質問中の警察官への暴行|公務執行妨害罪の刑罰と示談の可否を解説

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はじめに

路上で警察官から「すみません、少しよろしいですか」と、職務質問を受けた。急いでいる時や、特に理由もなく呼び止められたと感じた時、ついイライラしてしまい、カッとなって警察官の腕を振り払ったり、胸を突き飛ばしたりしてしまう…。

このような、公務執行中の公務員に対する暴行・脅迫行為は、単なる暴行罪では済みません。それは、「公務執行妨害罪」という、国の正当な公務の執行を守るための、より重い罪に問われることになります。

公務執行妨害罪は、社会の秩序を維持するという重要な目的を持つため、警察や検察も厳しい姿勢で臨むことが多く、安易に考えれば起訴され、前科がつく可能性も十分にあります。

また、「相手は警察官だから、示談なんてできないだろう」と、諦めてしまう方も少なくありません。

この記事では、公務執行妨害罪がどのような場合に成立するのか、その刑罰の重さ、そして多くの方が疑問に思う「示談」の可否と、その場合の交渉相手について解説します。

Q&A

Q1. 警察官の身体に直接触れていなくても、公務執行妨害罪になることはありますか?

はい、なります。 公務執行妨害罪における「暴行」は、公務員に直接向けられたものである必要はなく、間接的なものでも成立します。例えば、取り調べ中に机を強く叩いて威嚇する、パトカーを蹴飛ばす、警察官が作成中の書類を破り捨てるといった行為も、公務員の職務執行に対する不法な有形力の行使として、「暴行」にあたると判断される可能性があります。

Q2. 警察官の職務質問があまりに執拗で、違法だと思ったので抵抗しました。それでも罪になりますか?

もし職務執行が「違法」であったと認められれば、罪にはなりません。 公務執行妨害罪が成立する大前提は、その公務が「適法」であることです。例えば、何ら理由もなく一方的に腕を捻り上げるような違法な職務質問や、令状のない違法な逮捕行為に対して抵抗したとしても、公務執行妨害罪は成立しません。しかし、その「適法性」の判断はきわめて難しく、裁判でも大きな争点となります。 ご自身の判断で「違法だ」と決めつけて抵抗することは、結果的に公務執行妨害罪と認定されるリスクが高く、きわめて危険です。

Q3. 公務執行妨害罪で逮捕されたら、起訴される可能性は高いですか?

示談などの適切な対応を取らなければ、起訴される可能性は低くありません。公務執行妨害罪は、国の法秩序に対する挑戦と見なされるため、捜査機関は厳しい態度で臨む傾向があります。しかし、逆に言えば、被害者である警察官個人との間で示談が成立し、警察官から許し(宥恕)を得ることができれば、検察官もあえて起訴する必要はないと判断し、不起訴(起소유예)となる可能性が非常に高い犯罪類型でもあります。つまり、その後の対応次第で、結果は大きく変わります。

解説

国家の作用を妨害する罪、「公務執行妨害罪」。その成立要件と、解決への道を詳しく見ていきましょう。

公務執行妨害罪(刑法第95条1項)が成立する3つの要件

公務執行妨害罪は、刑法第95条1項に定められています。

「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の拘禁刑若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」

この犯罪が成立するためには、以下の3つの要件が必要です。

要件①:公務員が「職務を執行するに当たり」

警察官による職務質問や現行犯逮捕、交通違反の取り締まり、消防士による消火活動、市役所職員による税金の滞納処分など、公務員が正当な権限に基づいて、公務を遂行している最中であることが必要です。

要件②:その公務員に対して「暴行又は脅迫」を加えること

  • 暴行
    公務員に向けられた不法な有形力の行使です。前述の通り、身体への直接的な接触に限りません。公務員が使用している物(パトカー、書類など)への攻撃も含まれます。
  • 脅迫
    「殴るぞ」「家族の住所は分かっているんだぞ」などと、相手を怖がらせるような害悪を告知することです。

要件③:結果は不要(抽象的危険犯)

重要なのは、実際に公務の執行が妨害されたという結果までは必要ないという点です。公務員に対して暴行や脅迫を加えた時点で、公務が妨害される「危険性」が生じたと見なされ、犯罪は成立します。例えば、警察官を突き飛ばしたが、警察官はびくともせず、職務の遂行に何ら支障がなかったとしても、公務執行妨害罪は成立するのです。

全ての抵抗が罪になるわけではない 「適法な公務」の壁

この犯罪の成立を阻む、最も重要な反論が「警察官の行為は、そもそも適法な職務執行ではなかった」という主張です。違法な公務に対しては、国民は服従する義務はなく、それに対する抵抗行為は罰せられません。

しかし、その「適法」か「違法」かの境界線の判断はデリケートです。

  • 職務質問の場合
    職務質問は、あくまで「任意」が原則です。しかし、判例では、相手を停止させるために肩に手をかける、進路に立ちふさがるといった、ある程度の有形力の行使は、事案の必要性や緊急性に応じて「任意性を害さない説得行為」として適法と認める傾向にあります。
  • 逮捕の場合
    無令状での逮捕は、現行犯逮捕や緊急逮捕といった、法律で厳格に定められた要件を満たさない限り違法です。

ご自身の思い込みで「これは違法だ!」と判断して抵抗することは、大きなリスクを伴います。

公務執行妨害罪における「示談」の重要性と、その相手方

「相手は国(警察)だから、示談はできない」と思われがちですが、それは間違いです。公務執行妨害罪においても、示談は可能であり、不起訴処分を勝ち取るために重要な意味を持ちます。

なぜ示談が重要なのか?

公務執行妨害罪は、形式的には「国の公務」という社会全体の利益を保護する犯罪です。しかし、その実質を見ると、暴行や脅迫を受けた「公務員個人」もまた、被害者であるという側面を持っています。

そのため、その公務員個人の被害感情が、示談によって回復されれば、検察官は「被害者である公務員も許しているのであれば、あえて国として処罰する必要性は低い」と判断し、不起訴(起訴猶予)とする可能性が高まります。

ただし、公務員は一般的に示談に応じない傾向がありますので、示談が成立するとは限られない点はご留意ください。

示談交渉の進め方と難しさ

また、加害者やその家族が直接、警察官本人に謝罪や示談の申し入れをすることは、事実上困難です。

交渉のルートは、弁護士が代理人として、担当警察署の署長や警務課といった窓口を通じて、公式に謝罪の機会を申し入れる、という形になります。

警察組織としては、安易に示談に応じると「公務が軽んじられる」という懸念から、示談に消極的な姿勢を示すことも少なくありません。そのため、交渉は一般の刑事事件よりも難航しやすく、弁護士の経験や交渉力が問われる場面となります。

弁護士に相談するメリット

公務執行妨害罪で捜査の対象となった場合、弁護士のサポートが重要です。

  • 職務執行の適法性を法的に検討・主張する
    事件当時の状況を詳細に分析し、警察官の職務質問や逮捕行為が、判例に照らして本当に「適法」であったかを厳しく検討します。もし違法性の疑いがあれば、その点を強く主張し、犯罪の不成立を求めます。
  • 困難な「警察官との示談交渉」を実現する
    個人では不可能な、警察官本人との示談交渉のテーブルを、弁護士が公式なルートで設定します。豊富な経験に基づき、警察組織の感情にも配慮しながら、粘り強く交渉し、示談成立を目指します。
  • 不起訴処分の獲得に向けた検察官への働きかけ
    示談が成立したという事実を、嘆願書と共に検察官に提出し、不起訴処分が相当である旨の意見書を提出します。本人の反省の深さや、家族の監督体制など、有利な情状を積み重ね、起訴を回避するために全力を尽くします。

まとめ

職務質問中の警察官にカッとなって手を出してしまう。その一瞬の行為は、「公務執行妨害罪」という、あなたが思う以上に重い罪に問われます。

しかし、諦める必要はありません。公務執行妨害罪は、被害者である警察官個人との示談が成立すれば、不起訴となる可能性ある犯罪です。

ただし、その示談交渉は難易度が高く、専門家である弁護士の介入なくしては困難です。

もし、あなたが警察官に暴行を加えてしまい、公務執行妨害罪の疑いをかけられているのであれば、事態を深刻に受け止め、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。私たちが、困難な示談交渉を実現させ、あなたの前科回避と社会復帰のために、全力でサポートします。

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