暴行罪で被害届を出されたらどうする?示談で解決し前科を回避する方法

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はじめに

カッとなって相手の胸ぐらを掴んでしまった。口論の末、相手の肩を強く突き飛ばしてしまった。あなたにとっては「暴行」というほどのつもりがなく、その場はそれで収まったかもしれません。しかし、後日、相手が警察に「暴行された」と被害届を提出すれば、事態は一変します。

あなたは「暴行罪」の被疑者として、警察から捜査の対象となり、ある日突然、警察署への出頭を求める電話がかかってきたり、場合によっては逮捕されたりする可能性があるのです。

暴行罪は、傷害罪と比較すれば軽い犯罪とされていますが、有罪になれば拘禁刑刑も定められている立派な犯罪です。前科がつけば、今後の就職や資格、海外渡航など、人生の様々な場面で不利益を被る可能性があります。

しかし、暴行罪は、事件後の対応次第で、逮捕や前科がつくといった最悪の事態を回避できる可能性が十分に残されている犯罪でもあります。

この記事では、暴行罪で被害届を出されてしまった場合に、事件を穏便に解決し、前科をつけずに済ませるための、最も重要かつ有効な手段である「示談」について、その進め方と重要性を解説します。

Q&A

Q1. 相手は怪我もしていないのに、被害届を出すなんて大げさだ。無視してもいいですか?

無視すべきではありません。 暴行罪は、相手が怪我をしたかどうかは関係なく、不法な有形力を行使した時点で成立します。胸ぐらを掴む、突き飛ばすといった行為は、典型的な暴行です。被害者が恐怖を感じ、被害届を警察に提出した以上、それは法的に有効な「被害の申告」であり、警察は捜査を開始する義務があります。これを「大げさだ」と無視し、警察からの出頭要請にも応じなければ、「逃亡のおそれあり」と見なされ、逮捕されるリスクを高めるだけです。

Q2. 暴行罪の示談金は、いくらくらい払えばよいのでしょうか?

暴行罪の場合、相手に怪我がないため、傷害事件のように高額な治療費は発生しません。そのため、示談金は、主に暴行を受けたことによる精神的苦痛に対する「慰謝料」となります。金額は、暴行の態様(執拗さなど)や、被害者の処罰感情の強さによって変動しますが、一般的な相場としては10万円~30万円程度でまとまるケースが多いです。ただし、これはあくまで目安であり、個別の事情に応じて交渉することになります。

Q3. 示談さえすれば、提出されてしまった被害届は、必ず取り下げてもらえますか?

示談交渉のゴールとして、被害届を取り下げてもらうことを目指します。しかし、法律上、一度受理された被害届を「撤回」することはできません。そのため、実務上は、被害者の方に「被害届取下書(嘆願書)」を作成してもらい、それを警察や検察に提出します。この書面には、「加害者との間で示談が成立し、円満に解決したので、加害者の処罰を望みません」といった内容を記載してもらいます。これにより、被害届が出されたままであっても、被害者には処罰意思がないことを明確に示すことができ、不起訴処分につながるのです。

解説

被害届が出されても、まだ挽回のチャンスはあります。その鍵を握る「示談」について、詳しく見ていきましょう。

1. 「被害届」が出されると、何が始まるのか?

まず、被害届が警察に提出されると、どのような事態が進行するのかを正確に理解しましょう。

  • 被害届とは?
    犯罪の被害に遭ったという事実を、被害者が捜査機関(警察)に申告するための書類です。これにより、警察は初めて犯罪の発生を公式に認知します。
  • 捜査の開始
    警察は、被害届を受理すると、原則として事件の捜査を開始します。
    • 被害者から、より詳細な事情聴取を行う。
    • 目撃者がいれば、その人から話を聞く。
    • 現場周辺の防犯カメラ映像を収集・分析する。
    • これらの捜査で、あなたが加害者として特定される。
  • あなたへのアプローチ
    あなたが特定されると、警察からあなたの元へ電話があり、「〇〇の件で、お話をお伺いしたいので、警察署まで来てください」と、任意での出頭を求められます。この要請を無視し続けると、逮捕状が請求され、逮捕に至る可能性があります。

2. 前科を回避するためのポイント 「示談」とは?

暴行罪のような、被害者のいる犯罪では、検察官が起訴・不起訴の最終処分を決定する際に、「当事者間で問題が解決しているか」「被害者が加害者の処罰を望んでいるか」という点を、きわめて重視します。

「示談」は、この検察官の判断に直接働きかける、強力なカードともいえます。

示談の目的

  • 被害の回復
    慰謝料(示談金)を支払うことで、被害者が受けた精神的苦痛を金銭的に賠償し、被害の回復を図ります。
  • 処罰感情の緩和
    加害者が真摯に謝罪し、反省の態度を示すことで、被害者の「加害者を罰してほしい」という気持ちを和らげ、許し(宥恕)を得ることを目指します。

示談成立の効果

被害者との間で示談が成立し、特に被害者から「加害者を許しますので、刑事処罰は望みません」という明確な意思(宥恕)を示してもらえれば、検察官は「もはや当事者間で事件は解決しており、国が介入して刑事罰を科すまでの必要性はない」と判断し、不起訴(起訴猶予)処分とする可能性が高くなります。

不起訴処分となれば、刑事裁判は開かれず、前科がつくことも、罰金を支払うこともありません。まさに、示談は「事件の円満な解決」そのものなのです。

3. 前科回避に向けた、示談交渉の具体的な進め方とポイント

では、具体的にどのように示談交渉を進めればよいのでしょうか。

ステップ①:【必須】弁護士を通じて、被害者の連絡先を入手する

示談交渉の第一歩にして、最大の壁です。加害者本人が警察に頼んでも、個人情報保護を理由に、被害者の連絡先を教えてもらえることは絶対にありません。弁護士が、守秘義務を負う代理人として、捜査機関を通じて被害者の方に連絡を取ることの許可を得る必要があります。

ステップ②:弁護士による謝罪と、示談金の提示

弁護士が、あなたに代わって被害者の方に連絡を取り、まずは丁重に謝罪の意をお伝えします。その上で、示談の話し合いを開始し、暴行罪の相場(10万円~30万円程度)を参考に、事案に応じた示談金を提示します。

ステップ③:法的に有効な「示談書」の作成

交渉がまとまったら、その合意内容を書面にします。この「示談書」には、以下の条項を盛り込むことが重要です。

示談金の支払いに関する条項

  • 宥恕条項
    「乙(被害者)は、甲(加害者)を宥恕し、甲の刑事処罰を望まない」
  • 被害届取下条項
    「乙は、本件に関し提出した被害届を、速やかに取り下げる」
  • 清算条項
    「本件に関し、本示談書に定めるほか、甲乙間には何らの債権債務がないことを相互に確認する」
  • 接触禁止条項
    「甲は、今後、正当な理由なく乙に連絡、接触しない」

ステップ④:示談成立の報告

示談金の支払いを完了させ、署名・押印済みの示談書を弁護士が検察官に提出することで、示談が成立したことを正式に報告します。

弁護士に相談するメリット

暴行事件の解決において、弁護士の存在は重要です。

  • 被害届が出される前の「事件化の阻止」
    被害者が警察に行く前にご相談いただければ、弁護士が直ちに被害者と交渉し、被害届を提出する前に示談を成立させ、事件化そのものを防げる可能性があります。これが最も理想的な解決です。
  • 逮捕の回避
    すでに被害届が出されている場合でも、弁護士が迅速に示談交渉を進め、その状況を捜査機関に伝えることで、「当事者間で解決の見込みがあるため、逃亡や証拠隠滅のおそれはない」と判断され、逮捕を回避できる可能性が高まります。
  • 円滑な示談交渉の実現
    加害者に対して怒りや恐怖を抱いている被害者の方と、加害者本人が直接交渉することは不可能です。第三者であり、法律の専門家である弁護士が間に入ることで、初めて冷静な話し合いの土俵が整い、円満な示談成立の可能性が生まれます。
  • 将来のトラブルを完全に防ぐ
    弁護士が作成する法的に完璧な示談書により、示談成立後に「やはり慰謝料が足りない」などと、追加の要求をされるといった、将来の民事トラブルを未然に防ぎます。

まとめ

たとえ怪我をさせていなくても、胸ぐらを掴んだり、突き飛ばしたりした行為で被害届が出されれば、暴行罪として捜査が開始され、前科がつくリスクが現実に生じます。

そのリスクを回避するための最も有効で確実な方法は、検察官が起訴・不起訴の処分を決定する前に、被害者の方との間で示談を成立させることです。

そして、その示談交渉は、あなたご自身で行うことはできません。被害届を出されたと知った、あるいは出されるかもしれないと感じたときは、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談することもご検討ください。私たちが、迅速な示談交渉を通じて、事件の穏便かつ円満な解決を実現し、あなたの未来を守ります。

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