はじめに
酒の席での口論、路上での些細な言い争いから、ついカッとなって手を出してしまい、相手に怪我をさせてしまった…。きっかけは、ほんの些細なことかもしれません。しかし、「喧嘩両成敗」という言葉は、残念ながら法律の世界では通用しません。
相手に怪我を負わせたという事実がある以上、あなたは「傷害罪」の加害者として、警察の捜査対象となり、ある日突然、逮捕されてしまう可能性があります。逮捕されれば、会社や学校に行けなくなり、家族に心配をかけ、これまでの平穏な日常は一瞬にして崩れ去ります。
傷害罪で逮捕されてしまったら、その後はどうなるのか。どうすれば前科がつくことを回避し、社会生活への影響を最小限に抑えることができるのか。
この記事では、喧嘩が原因で傷害事件を起こし、逮捕されてしまった後の具体的な手続きの流れと、不起訴処分を勝ち取り、人生を再スタートさせるための最善の対処法について解説します。
Q&A
Q1. 喧嘩で逮捕されました。相手も殴ってきたのに、なぜ私だけが逮捕されるのですか?
喧嘩で双方が手を出している場合でも、警察が双方を同時に逮捕するケースはまれです。怪我の程度が重い方、あるいは先に手を出したと見なされた方が、一方的に逮捕されることは珍しくありません。また、相手がすぐに被害届を提出し、あなたがその場を立ち去っていた場合なども、あなたが加害者として先に逮捕される可能性があります。相手も手を出してきたという事実は、後の捜査や裁判で「正当防衛」や「過剰防衛」を主張したり、示談交渉を有利に進めたりするための重要な事情となりますが、逮捕そのものを免れる理由にはなりにくいのが実情です。
Q2. 相手の怪我は、血も出ていないような軽い打撲です。それでも逮捕されるのですか?
はい、逮捕される可能性は十分にあります。逮捕するかどうかの判断は、怪我の重さだけで決まるわけではありません。警察は、犯行態様の悪質性(凶器を使ったか、一方的だったかなど)、加害者が反省しているか、そして逃亡や証拠隠滅のおそれがあるか、といった点を総合的に考慮します。たとえ怪我が軽くても、あなたが現場から立ち去っていたり、住所不定であったり、あるいは取り調べに対して非協力的な態度をとったりすれば、「逃亡・証拠隠滅のおそれあり」と見なされ、逮捕に至るケースは少なくありません。
Q3. 傷害罪で逮捕されたら、会社に連絡されてクビになってしまいますか?
警察が、捜査の一環として会社に連絡(在籍確認など)をすることはありますが、事件の内容を詳細に話したり、逮捕の事実を積極的に伝えたりすることは通常ありません。しかし、逮捕後に勾留され、身体拘束が長引けば、必然的に会社を無断で長期間欠勤することになります。 これが原因で、就業規則に基づき、解雇(懲戒解雇など)されてしまうリスクは非常に高くなります。逮捕されても、早期に身柄が解放されれば、会社に知られることなく、あるいは穏便に処理できる可能性は残ります。そのためには、一刻も早い弁護士による対応が重要です。
解説
「ただの喧嘩」が、人生を揺るがす「傷害事件」に変わる瞬間。その後の流れと正しい対処法を学びましょう。
1. 「喧嘩」が「傷害事件」となり、逮捕に至るまで
喧嘩が傷害事件として扱われる、決定的なきっかけ。それは、相手が病院へ行き、医師から「診断書」を取得して、警察に提出することです。
- 殴る、蹴る → 打撲、骨折、脳震盪
- 突き飛ばす → 転倒による擦り傷、捻挫、脱臼
- 罵声を浴びせ続ける → PTSD、急性ストレス障害
これらの「傷害」が診断書によって客観的に証明され、被害届と共に警察に提出された時点で、あなたの行為は「ただの喧嘩」ではなく、刑法204条に定められた「傷害事件」として、本格的な捜査の対象となります。
そして、前述のQ2で解説したように、怪我の程度や犯行態様の悪質性、そしてあなたの身元や態度などを考慮した上で、警察が「逮捕の必要がある」と判断すれば、逮捕状に基づき、ある日突然、あなたの日常は終わりを告げるのです。
2. 傷害罪で逮捕された後の流れ【タイムリミットとの戦い】
逮捕されてからの手続きは、法律で厳格な時間制限が定められており、まさに時間との戦いとなります。
- 逮捕 ~ 送致(最大48時間)
逮捕されると、警察署に連行され、留置場で身柄を拘束されます。この間、事件についての詳細な取り調べが行われます。そして、逮捕から48時間以内に、事件は検察庁に引き継がれなければなりません(送致)。 - 送致 ~ 勾留請求(最大24時間)
事件の送致を受けた検察官は、自らもあなたを取り調べます。そして、送致から24時間以内に、引き続き身柄を拘束して捜査する必要があるとして「勾留(こうりゅう)」を裁判官に請求するか、あるいは身柄を釈放するかを判断します。
逮捕からここまでの最大72時間が、長期の身体拘束を避けるための最初の、そして最大の正念場です。 - 勾留決定(最大20日間)
裁判官が検察官の請求を認め、勾留が決定されると、原則として10日間、さらに捜査が必要な場合は最大10日間延長され、合計で最長20日間も、警察の留置場で生活しなければならなくなります。この期間が、あなたの社会生活(仕事、学校、家庭)に致命的なダメージを与えるのです。 - 検察官による最終処分(起訴・不起訴)
勾留期間が満了するまでに、検察官は、あなたを刑事裁判にかける「起訴」とするか、裁判にはかけずに事件を終了させる「不起訴」とするか、最終的な処分を決定します。
3. 前科を回避するための、最も有効な対処法
傷害事件で前科がつくことを回避し、平穏な日常を取り戻すためのゴール。それは、「不起訴処分(特に起訴猶予)」を勝ち取ることです。そして、そのための最も有効な鍵となるのが、被害者との示談交渉です。
① 一刻も早く、示談交渉を開始する
これが、傷害事件の弁護活動において、最も優先すべきことです。逮捕されたら、考えるべきは言い訳ではなく、まず被害者への謝罪と賠償です。
- 弁護士に依頼する
逮捕直後、すぐに弁護士に依頼し、被害者との示談交渉に着手してもらいます。加害者本人や家族が直接交渉することは、被害者の感情を逆なでし、ほぼ不可能です。 - 示談の内容
示談交渉では、誠心誠意の謝罪を伝えるとともに、怪我の治療費、慰謝料、仕事を休んだ分の休業損害などを支払うことを約束します。 - 目指すべきゴール
最終的に、示談書に「被害届を取り下げます」「加害者の処罰を望みません(宥恕します)」という文言を入れてもらうことを目指します。
② 勾留を阻止し、早期の身柄解放を目指す
逮捕後の72時間以内に示談交渉を開始し、たとえ示談成立まで至らなくても、「現在、弁護士を通じて誠実に示談交渉を進めています」という事実を検察官や裁判官に示すことができれば、「当事者間で解決の見込みがあるなら、あえて身柄を拘束する必要はない」と判断され、勾留を阻止できる可能性が高まります。早期に釈放されれば、会社や学校への影響も最小限に抑えることができます。
③ 自分に有利な事情を主張する
示談交渉と並行して、あなたにとって有利な事情を法的に主張することも重要です。
- 正当防衛・過剰防衛
相手から先に攻撃されたという事実があれば、その点を主張します。 - 喧嘩の経緯
相手側にも挑発などの非があったことを、客観的な証拠(目撃者の証言など)に基づいて主張します。 - 反省の態度
深く反省し、二度と過ちを繰り返さないという誓約書や、家族による監督計画書などを提出します。
弁護士に相談するメリット
傷害罪で逮捕されたという危機的状況において、弁護士はあなたの味方となります。
- 逮捕直後の迅速な接見と的確なアドバイス
逮捕後、ご家族ですら面会できない空白の時間に、弁護士はすぐに駆けつけ、取り調べへの対応策を授け、孤独と不安の中にいるあなたを精神的に支えます。 - 被害者との円滑な示談交渉
加害者に対して強い怒りや憎しみを抱いている被害者との間に、冷静な第三者である弁護士が入ることで、初めて話し合いのテーブルが設定されます。弁護士は、被害者の心情に最大限配慮しながら、円満な示談成立を目指します。 - 勾留阻止による早期の社会復帰
弁護士は、示談交渉の進捗状況をリアルタイムで検察官や裁判官に伝え、意見書を提出するなどして、勾留を阻止し、あなたの早期の身柄解放を実現するために全力を尽くします。 - あなたに有利な法的の主張の組み立て
喧嘩の状況を詳細に聞き取り、防犯カメラ映像などを分析した上で、正当防衛や過剰防衛といった、あなたに有利な法的主張を組み立て、捜査機関に訴えます。
まとめ
ほんの些細なきっかけで始まった喧嘩が、傷害罪での逮捕という、あなたの人生を根底から覆しかねない事態に発展します。逮捕後の手続きは、刻一刻と、あなたに不利な方向へと進んでいきます。
その流れを食い止め、前科をつけずに事件を解決するためのポイントは、検察官が起訴・不起訴を決定する前に、いかに早く被害者との示談を成立させられるか、という点になります。
そして、その専門的かつ繊細な示談交渉は、あなたご本人やご家族では決して行うことができません。カッとなって手を出してしまったという事実を真摯に受け止め、深く反省したのなら、一刻も早く弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。それが、あなたの人生をやり直すための第一歩です。
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