はじめに
駅のホーム、満員電車内。ある日突然、「この人、痴漢です!」と腕を掴まれ、周囲の視線が一斉に自分に突き刺さる…。痴漢事件は、このように何の前触れもなく、あなたやご家族の平穏な日常を破壊します。
痴漢事件における逮捕の形態は、その場で取り押さえられる「現行犯逮捕」が圧倒的に多いですが、防犯カメラの映像などから身元が特定され、後日、警察が自宅にやってくる「後日逮捕」のケースも決して少なくありません。
いずれの形で逮捕されたとしても、その後の最大72時間が、身柄拘束が長期化するか、早期に釈放されるか、ひいては前科が付くかどうかの運命を左右するきわめて重要な時間となります。
この記事では、痴漢で逮捕されてしまった後の手続きの流れを、「現行犯逮捕」と「後日逮捕」の2つのケースに分け、それぞれの特徴と対処法について解説します。
Q&A
Q1. 痴漢の現行犯で捕まりましたが、すぐに釈放されることはありますか?
はい、可能性はあります。痴漢事件の中でも、行為が比較的軽微で、被疑者が素直に事実を認めており、定職に就いているなど身元が確かな場合、警察限りで事件を終結させる「微罪処分」として、その日のうちに釈放されることがあります。ただし、これはあくまで例外的なケースです。多くの場合は、警察署で一通りの取り調べを受けた後、検察庁に事件が送致されます。逮捕直後に弁護士に依頼し、迅速に示談交渉を進めることで、検察官が勾留請求をせずに釈放と判断する可能性を高めることができます。
Q2. 痴漢をしたかもしれないのですが、その場で誰にも捕まりませんでした。もう安心でしょうか?
いいえ、決して安心はできません。被害者の方が、後日警察署に被害届や告訴状を提出することがあります。警察は、駅や車両内の防犯カメラ映像を解析したり、あなたが使ったICカード(SuicaやPASMOなど)の利用履歴を照会したりして、犯人を特定する捜査を行います。証拠が固まれば、裁判官に逮捕状を請求し、ある日突然、警察があなたの自宅や職場にやってきて後日逮捕(通常逮捕)される可能性があります。
Q3. 痴漢で逮捕されたら、会社や学校に知られてしまいますか?
逮捕されたからといって、警察が自動的に会社や学校に連絡することはありません。しかし、逮捕後に勾留され、身体拘束が長引くと、無断欠勤・欠席が続くことになり、結果的に知られてしまう可能性が高くなります。また、事件がニュースで実名報道されれば、隠し通すことは困難になります。弁護士に依頼し、早期の身柄解放を実現すること、そして被害者との示談を成立させて事件が大きくならないようにすることが、社会的リスクを最小限に抑えるためのポイントです。
解説
痴漢事件における2つの逮捕パターン。それぞれの流れと注意点を詳しく見ていきましょう。
ケース1:現行犯逮捕された後の流れ
痴漢事件で最も多いのが、この現行犯逮捕のケースです。
ステップ①:取り押さえ ~ 警察署への連行
電車内や駅のホームで、被害者本人や周囲の乗客、駅員などによって腕を掴まれ、身柄を取り押さえられます。その後、駅員室などに連れて行かれ、通報を受けて駆けつけた警察官によって警察署へと連行されます。この際、任意での同行を求められることもありますが、事実上の強制に近い場合がほとんどです。
ステップ②:警察による取り調べ(逮捕後~48時間以内)
警察署に到着すると、弁解録取手続(言い分を聞く手続き)が行われた後、留置場に入れられ、本格的な取り調べが始まります。いつ、どこで、どのような痴漢行為をしたのか、動機は何だったのかなど、詳細な事情聴取が行われ、その内容は「供述調書」に記録されます。
逮捕から48時間以内に、警察は事件を検察庁に引き継ぐ「送致」という手続きをしなければなりません。
ステップ③:検察官による判断(送致後~24時間以内)
事件の送致を受けた検察官は、自らも被疑者を取り調べ、警察の捜査内容と照らし合わせます。そして、送致を受けてから24時間以内(逮捕から合計で最大72時間以内)に、引き続き身柄を拘束して捜査する必要があるとして「勾留請求」をするか、あるいは身柄を「釈放」するかを判断します。
ステップ④:勾留決定、または釈放
検察官が勾留請求をすると、被疑者は裁判所に連れて行かれ、裁判官による勾留質問を受けます。ここで裁判官が勾留を認めると、原則として10日間の身体拘束が始まります。さらに、捜査が終わらない場合は、最大10日間延長され、合計で最大20日間、留置場で生活しなければならなくなります。
ケース2:後日逮捕(通常逮捕)される場合の流れ
その場では捕まらなかったものの、後日、警察が逮捕状を持ってやってくるケースです。
後日逮捕に至るきっかけ
- 被害者が恐怖でその場では声を上げられず、後日、冷静になってから警察に被害届を提出した。
- 駅のホームや改札、車両内に設置された防犯カメラに、犯行の様子や被疑者の顔、服装などが鮮明に記録されていた。
- 被疑者が利用したICカードの乗降履歴や、チャージ時の防犯カメラ映像などから個人が特定された。
逮捕までの捜査
警察は被害届を受理すると、上記のような客観的証拠の収集・分析を進め、被疑者の特定に全力を挙げます。証拠が固まり、被疑者が罪を犯したと強く疑われるに至ると、裁判官に逮捕状を請求し、その許可を得て逮捕に踏み切ります。
逮捕当日からその後の流れ
ある日の早朝、自宅のインターホンが鳴り、ドアを開けると複数の捜査員が立っている…後日逮捕は、このように突然やってきます。捜査員から逮捕状を提示され、その場で逮捕・連行されます。
その後の流れ、つまり警察署での48時間、検察庁での24時間、そして勾留請求という手続きは、現行犯逮捕の場合と全く同じです。
後日逮捕を回避するために
もし、ご自身が痴漢行為をしてしまい、後日逮捕されるかもしれないという強い不安がある場合、弁護士に相談の上で自首するという選択肢があります。自ら出頭して罪を認めることで、捜査機関が「逃亡や証拠隠滅のおそれはない」と判断し、逮捕せずに在宅事件として扱ってくれる可能性が生まれます。
弁護士に相談するメリット
痴漢で逮捕されてしまった場合、弁護士の迅速な対応がその後の運命を大きく左右します。
逮捕直後、誰よりも早く駆けつける「接見」
逮捕後の最大72時間は、たとえ家族であっても面会することはできません。しかし、弁護士は、逮捕直後からいつでも、警察官の立ち会いなくご本人と面会(接見)できます。取り調べへの対応策を授け、孤独と不安の中にいるご本人を精神的に支える、きわめて重要な役割を果たします。
勾留を阻止するための「示談交渉」
痴漢事件において、勾留を阻止し、不起訴処分を勝ち取るための最も有効な手段が、被害者との示談です。弁護士は、逮捕直後から速やかに被害者側と連絡を取り、真摯な謝罪と適切な賠償を行うための示談交渉を開始します。勾留請求がなされる前に示談がまとまれば、検察官が「身柄拘束の必要なし」と判断し、釈放される可能性が格段に高まります。
後日逮捕のリスクを低減する「自首同行」
後日逮捕されそうなケースでは、弁護士が自首に同行します。弁護士の付き添いがあることで、捜査機関に対して本人が捜査に協力する意思があることを強く示し、逮捕を回避して在宅事件として扱ってもらえるよう交渉します。
まとめ
痴漢事件における逮捕には、「現行犯逮捕」と「後日逮捕」の2つのパターンがありますが、どちらもその後の流れは同じであり、逮捕後の72時間が勝負となります。この限られた時間の中で、いかに迅速かつ適切な弁護活動を行えるかが、身体拘束が長期化するか、前科が付くかどうかの分かれ道です。
そして、そのための最も重要な鍵となるのが、被害者の方との示談交渉です。
痴漢で逮捕されてしまった、あるいは逮捕されるかもしれないという恐怖の中にいる方は、どうか一人で悩まないでください。一刻も早く、痴漢事件の弁護経験が豊富な弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。私たちが、あなたの社会復帰をサポートします。
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