はじめに
検察官に起訴されてしまった後も、多くの場合、身体拘束は「起訴後勾留」として継続されます。裁判が終わるまで、場合によっては数ヶ月から1年以上もの間、留置場や拘置所での不自由な生活を強いられることは、ご本人にとっても、その帰りを待つご家族にとっても、肉体的・精神的に大きな苦痛となります。
この、起訴後の長期にわたる身体拘束から、保証金を納付することを条件に一時的に解放されるための制度が「保釈」です。保釈が認められれば、自宅から裁判所に通い、社会生活を維持しながら、裁判の準備に集中することができます。
この記事では、どうすれば保釈を勝ち取ることができるのか、そのための条件、必要となる「保釈金」の相場、そして具体的な申請手続きの流れについて解説します。
Q&A
Q1. 保釈金は、だいたいどのくらい用意すればよいのでしょうか?
保釈金の額は、事件の性質や被告人の経済力などによって裁判官が個別に決定するため、一概には言えません。しかし、一般的な相場としては150万円から300万円程度になるケースが多いです。例えば、窃盗や傷害などの一般的な事件であればこの範囲に収まることが多いですが、否認事件や大規模な経済事件などでは、これより高額になる傾向があります。弁護士に依頼すれば、事件の内容からおおよその相場を予測することが可能です。
Q2. 支払った保釈金は、裁判が終わったら返ってくるのですか?
はい、返ってきます。 ここは非常に重要なポイントですが、保釈金は国に納める罰金とは全く性質が異なります。あくまで、被告人が裁判から逃げたり、証拠隠滅をしたりしないことを約束させるための「担保金(人質のようなもの)」です。そのため、保釈中に定められた条件(裁判所からの呼び出しに応じる、関係者に接触しない等)を守り、裁判が終了すれば、判決内容が実刑であったとしても、全額が返還されます。
Q3. どんな事件でも保釈は認められるのですか?
残念ながら、どんな事件でも認められるわけではありません。法律には、保釈を原則として許可しなければならない「権利保釈」が定められていますが、そこにはいくつかの除外事由があります。例えば、過去に重い罪で有罪判決を受けたことがある場合や、常習性がある場合などです。実務上、検察官が最も強く反対してくる理由は「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」というものです。否認事件や共犯者がいる事件では、この点を理由に保釈が認められにくくなる傾向があります。しかし、そのような場合でも、弁護士の活動によって保釈が許可される可能性はあります。
解説
起訴後の生活を大きく左右する「保釈」。その制度を詳しく理解し、実現への道をさぐりましょう。
1. 保釈とは?- 起訴後の被告人のための解放制度
保釈とは、起訴された後、勾留されている被告人について、一定の保証金(保釈金)の納付を条件として、その身体拘束を解く制度です。
ここで絶対に押さえておくべき重要なポイントは、保釈は「起訴された後」の被告人のみが利用できる制度であるという点です。起訴される前の「被疑者」の段階では、残念ながら保釈を請求することはできません。
保釈には、法律上、大きく分けて以下の3つの種類があります。
- 権利保釈(必要的保釈)
後述する法律上の除外事由に当てはまらない限り、裁判所が原則として許可しなければならない保釈です。弁護人は、まずこの権利保釈を主張します。 - 裁量保釈
権利保釈の除外事由に該当してしまった場合でも、裁判官が「保釈を許可することが適当である」と裁量で判断した場合に認められる保釈です。被告人の健康状態や、身体拘束が長引くことによる社会的・経済的な不利益の大きさなどを考慮して判断されます。 - 義務的保釈
不当に勾留が長引いた場合に、法律上、裁判所が保釈を許可しなければならなくなる制度ですが、適用されるケースはまれです。
2. 保釈が認められるための「壁」と、それを乗り越える方法
保釈請求が認められるためには、検察官が主張する「壁」を乗り越えなければなりません。特に重要なのが、権利保釈の除外事由である「罪証隠滅のおそれ」です。
権利保釈の主な除外事由
- 死刑、無期もしくは短期1年以上の懲役・禁錮にあたる重大犯罪である
- 過去に、死刑、無期もしくは長期10年を超える懲役・禁錮の有罪判決を受けたことがある
- 常習として長期3年以上の懲役・禁錮にあたる罪を犯した
- 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある
- 被害者やその親族、証人などに対し、身体や財産に害を加えたり、脅迫したりするおそれがある
- 氏名または住居が分からない
検察官は、保釈に反対する際、ほぼ必ず「被告人を釈放すれば、共犯者と口裏合わせをしたり、被害者を脅して証言を変えさせたりする危険がある」として、「罪証隠滅のおそれ」を主張してきます。
この検察官の主張に対し、弁護人は「もはや罪証隠滅のおそれは具体的には存在しない」ことを、説得的に反論していく必要があります。例えば、「共犯者はすでに逮捕・起訴されている」「被害者との示談が成立しており、接触する必要がない」「重要な証拠はすべて検察官が押収済みである」といった事実を具体的に主張します。
3. 保釈金の相場と、万が一払えない場合の対処法
- 保釈金の目的と相場
保釈金は、被告人に「もし逃亡したり、証拠隠滅をしたりすれば、このお金は没収されてしまう」という心理的なプレッシャーを与え、保釈中の遵守事項を守らせるための担保です。
その額は、犯罪の性質や被告人の資産状況などを考慮して、裁判官が「没収されたら困る」と思える額を決定します。一般的には150万円~300万円が相場ですが、あくまでケースバイケースです。 - 保釈金が返還されるタイミング
保釈の条件を守り、裁判が終了すれば、保釈金は指定の口座に全額返還されます。実刑判決を受けて刑務所に収監される場合でも、判決言渡し後に家族などが手続きをすれば返還されます。 - 保釈金が用意できない場合
親族などから借金をして工面するのが一般的ですが、どうしても用意できない場合は、「日本保釈支援協会」や「全国弁護士協同組合連合会」といった、保釈金の立替支援を行っている機関を利用する方法があります。これらの制度を利用するには審査が必要ですが、弁護士がその手続きをサポートします。
4. 保釈を勝ち取るための手続きの流れ
保釈は、以下のステップで進められます。
- 弁護人による保釈請求書の提出
起訴後、弁護人が速やかに裁判所に対して保釈請求書を提出します。この際、身元引受人(通常は家族)が作成した身元引受書や、示談書など、保釈を認めてもらうのに有利な資料を添付します。 - 裁判官による検察官への意見聴取
保釈請求書を受け取った裁判官は、担当の検察官に対し、保釈についての意見を求めます。検察官は通常、「反対」または「厳格な条件を付すべき」という意見を出してきます。 - 裁判官による判断(許可 or 却下)
裁判官は、弁護人の請求書と検察官の意見書を比較検討し、保釈を許可するかどうかを決定します。 - 保釈許可決定と保釈金の納付
裁判官が保釈を許可すると、保釈金の額が伝えられます。弁護人から連絡を受けた家族などが、裁判所の会計課に現金で保釈金を納付します。 - 釈放
保釈金の納付が確認され次第、被告人が勾留されている警察署や拘置所に釈放の連絡が入り、被告人はその日のうちに釈放されます。
弁護士に相談するメリット
保釈の実現可能性は、弁護士の活動にかかっていると言っても過言ではありません。
- 説得力のある保釈請求書の作成
保釈を認めてもらうには、裁判官に対し「罪証隠滅や逃亡のおそれがない」ことを、いかに具体的に、説得力をもって主張できるかが鍵です。弁護士は、これまでの経験と法的な知識に基づき請求書を作成します。 - 検察官の反対意見への的確な反論
検察官がどのような理由で反対してくるかを予測し、それに対する有効な反論をあらかじめ準備しておくことで、保釈の許可率を高めます。 - 迅速な手続きの遂行
起訴されたら即座に請求書を提出するなど、スピーディーに手続きを進めることで、一日も早い身柄解放を目指します。 - 却下決定に対する不服申し立て
万が一、保釈請求が却下されても、諦めません。その決定に対して不服を申し立てる「準抗告」や、事情が変わったとして再度保釈を請求するなど、粘り強く活動を続けます。
まとめ
保釈は、起訴後の長期にわたる身体拘束から解放され、被告人としての防御権を十分に確保し、社会生活へのダメージを最小限に抑えるための、きわめて重要な制度です。
保釈を勝ち取るための最大のポイントは、裁判官に「この人を釈放しても、逃げたり証拠を隠したりする心配はない」と確信させることです。そのためには、専門家である弁護士による、説得力のある主張と迅速な手続きが不可欠となります。
検察官から起訴されたら、それは身体拘束がさらに長期化する危険信号です。すぐに弁護士に相談し、保釈に向けた準備を始めることが、ご本人とご家族の平穏な生活を取り戻すための第一歩です。
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