はじめに
検察官から「起訴(公判請求)しました」と告げられた。それは、いよいよ「刑事裁判」という、非日常的な手続きが始まる合図です。
法廷、裁判官、検察官、証言台…。テレビドラマでしか見たことのない世界に、自分が被告人として立つことを想像し、これから何が起こるのか、どう対応すれば良いのか、強い不安を感じるのは当然のことです。裁判はどれくらいの期間がかかるのか、判決はいつ出るのか、何を準備すればいいのか、疑問は尽きないでしょう。
この記事では、日本の刑事裁判(第一審)が、起訴から判決まで、どのような流れで進んでいくのか、その全体像と各ステップで何が行われるのかを解説します。
Q&A
Q1. 起訴されてから、最初の裁判(第一回公判)までは、どのくらい時間がかかりますか?
一般的には、起訴から約1~2ヶ月後に第一回公判が開かれることが多いです。起訴されると、被告人や弁護人のもとに裁判所から「起訴状」が届きます。その後、弁護人が裁判所と日程を調整して、公判期日が決まります。罪を認めている簡単な事件では1ヶ月程度で開かれることもありますが、争点が多い複雑な事件では、準備に時間がかかり2ヶ月以上先になることもあります。
Q2. 裁判は1回で終わるのですか?
事件の内容によって異なります。罪を認めており、争点がない「自白事件」の場合、1回の公判で審理がすべて終わり、その日のうちに結審(審理の終了)し、後日判決が言い渡されるケースが多いです。一方で、無罪を主張したり、事実関係を争ったりする「否認事件」の場合は、複数回の公判が必要になります。証人尋問などが多くなると、公判が月1回程度のペースで何回も開かれ、審理が長期化します。
Q3. 裁判で無罪になる確率はどのくらいですか?
日本の刑事裁判における有罪率は、99.9%以上と言われています。この数字だけを見ると絶望的に感じるかもしれません。しかし、これには理由があります。検察官は、裁判で有罪にできると確信した事件しか起訴しない(嫌疑不十分なら不起訴にする)ため、起訴された時点である程度、有罪の証拠が固まっている事件が多いのです。だからといって、諦める必要はありません。検察官の証拠に不備があれば、それを追及することで、無罪判決を勝ち取ることは可能です。
解説
それでは、起訴から判決まで、刑事裁判がどのように進むのか、時間軸に沿って具体的に見ていきましょう。
ステージ1:起訴から第一回公判まで【裁判の準備期間】
裁判は、法廷の場で突然に始まるわけではありません。公判に向けた準備期間が重要です。
- 起訴(公判請求)
検察官が裁判所に「起訴状」を提出することで、裁判が始まります。この日から、それまで「被疑者」と呼ばれていた立場は、「被告人」に変わります。 - 弁護人との打ち合わせ
起訴後、裁判所から被告人のもとへ起訴状謄本が届きます。これを受け、弁護人と詳細な打ち合わせを行います。この準備期間が、裁判の行方を左右するといっても過言ではありません。- 認否の決定
起訴状に書かれている内容(公訴事実)を認めるのか、それとも争うのか(否認するのか)を決定します。これが裁判全体の基本方針となります。 - 証拠の検討
検察官が裁判で提出を予定している証拠の一覧を開示請求し、その内容を精査します。不利な証拠にどう反論するか、こちらに有利な証拠はないかなどを検討します。 - 弁護方針の策定
認否や証拠を踏まえ、裁判で何をどのように主張していくか、具体的な戦略を立てます。
- 認否の決定
ステージ2:公判期日【法廷での審理】
いよいよ裁判当日。公判は、主に「冒頭手続」「証拠調べ手続」「論告・弁論」という3つのパートで構成されています。
① 冒頭手続(裁判のオープニング)
- 人定質問
裁判官が、法廷にいるのが間違いなく被告人本人かを確認するため、氏名、生年月日、住所などを尋ねます。 - 起訴状朗読
検察官が立ち上がり、起訴状を読み上げます。これにより、被告人がどのような罪で裁判にかけられているのかが、法廷にいる全員に明確に示されます。 - 黙秘権等の告知
裁判官が被告人に対し、「終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる」といった黙秘権などの権利があることを説明します。 - 罪状認否
裁判の方向性を決める最初の山場です。裁判官が被告人と弁護人に対し、起訴状の内容について認める点、争う点を尋ねます。ここで「間違いありません」と認めれば「自白事件」として、「〜という点は違います」と争えば「否認事件」として、その後の審理が進められます。
② 証拠調べ手続(事実の取り調べ)
- 検察官による冒頭陳述
検察官が、これから証拠によって証明しようとする事実(犯行の動機、計画、実行行為など)のストーリーを説明します。 - 証拠の取り調べ
検察側、弁護側の双方が、それぞれの主張を裏付ける証拠を提出し、その内容を法廷で明らかにしていきます。- 書証・物証
供述調書や実況見分調書、凶器や被害品などが証拠として取り調べられます。 - 証人尋問
事件の目撃者や被害者、専門家などが証人として出廷し、検察官や弁護人の質問に答えます。相手方の証人に対しては、反対尋問を行い、証言の矛盾点や不合理な点を追及します。
- 書証・物証
- 被告人質問
被告人自身が証言台に立ち、弁護人や検察官、そして裁判官からの質問に答えます。これは、被告人が自らの言葉で、事件についての言い分や反省の気持ち、今後の更生の決意などを裁判官に直接伝えることができる、きわめて重要な機会です。
③ 論告・弁論(最終プレゼンテーション)
- 検察官の論告・求刑
証拠調べが終わると、検察官が最終的な意見を述べます。これを「論告」といいます。事実認定と法律解釈についての意見を述べた後、締めくくりとして「よって、被告人を懲役〇年に処するのが相当と思料する」といった形で、相当と考える刑罰の重さを具体的に述べます。これを「求刑」といいます。 - 弁護人の最終弁論
次に、弁護人が被告人のために最後の弁論を行います。無罪を主張する事件であれば検察官の主張の矛盾点を指摘し、罪を認めている事件であれば、示談が成立していることや深く反省していることなど、被告人に有利な事情をすべて挙げ、寛大な判決を求めます。 - 被告人の最終陳述
最後に、被告人自身が話す機会が与えられます。ここで反省や謝罪の言葉、将来への誓いなどを述べて、すべての審理が終了(結審)します。
ステージ3:判決言渡し
結審から約1〜2週間後、判決期日が指定され、再び法廷に呼び出されます。裁判官が判決の主文(「被告人を懲役〇年に処する。この裁判が確定した日から△年間その刑の執行を猶予する」など)と、その結論に至った理由を言い渡します。
弁護士に相談するメリット
刑事裁判という専門的な手続きを、有利に進めるためには弁護士の力が不可欠です。
- 一貫した裁判戦略の立案と実行
起訴前の段階から関与することで、捜査段階の供述との一貫性を保ちながら、最適な弁護方針を立て、裁判の最後まで責任を持って実行します。 - 被告人に有利な証拠の収集・提出
示談書はもちろん、被告人の反省を示す反省文、家族からの嘆願書、再犯防止のための取り組みを示す資料などを準備し、裁判官の心証を良くするための「情状証拠」として効果的に提出します。 - 専門的な法廷技術
検察側の証人に対する鋭い反対尋問や、被告人質問で被告人の人間性や反省の情を効果的に引き出す技術、そして最終弁論での説得力のある主張など、専門家ならではの法廷技術で被告人を弁護します。 - 被告人と家族の精神的支柱
複雑な手続きを分かりやすく説明し、法廷での立ち居振る舞いをアドバイスするなど、裁判という大きなプレッシャーに立ち向かう被告人と、それを見守るご家族を精神的にサポートします。
まとめ
刑事裁判は、厳格なルールと手順に則って進められます。その流れを理解し、各ステップで何をすべきかを把握して万全の準備をすることが、望む結果を得るためには不可欠です。罪を認めるか争うかで、その流れや期間、準備すべきことは大きく異なります。
検察官から起訴されてしまったら、それは専門家である弁護士の助けが絶対に必要になったというサインです。一人で、あるいはご家族だけで悩まず、すぐに刑事裁判の経験が豊富な弁護士に依頼し、信頼できるパートナーとして二人三脚で裁判に臨むことが、あなたとあなたの家族の未来を守るための最善の道です。
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