はじめに
少年が警察に補導・逮捕されると、多くの場合、事件は家庭裁判所に送致され、非行の有無や必要な保護処分の内容を決定するための「少年審判」が開かれます。その過程で、少年鑑別所に一時的に収容され、専門家による「鑑別」を受けることもあります。少年鑑別所は、少年の更生を目的とする少年院とは異なり、少年の性格や心身の状態を詳細に調査し、審判に必要な資料を収集することを主たる目的とする施設です。
本稿では、家庭裁判所と少年鑑別所において、どのような手続きが進行し、少年がどのような経緯で保護処分(保護観察や少年院送致など)を受けるに至るのかを解説します。成人の刑事裁判とは異なり、少年事件の手続きは原則として非公開で行われ、鑑別所での調査・診断も少年の健全な育成を目指す「保護主義」の理念に基づいて実施されます。
近年の重要な法改正として、民法の成年年齢引き下げに伴い、令和4年(2022年)4月1日から改正少年法が施行され、18歳及び19歳の少年は「特定少年」として位置づけられました。特定少年に対しても引き続き少年法が適用されますが、その処遇については17歳以下の少年と異なる特例が設けられています。例えば、検察官送致(逆送)の対象となる事件の範囲が拡大されたり、起訴された場合には実名報道が可能になったりするなど、より責任を問われる側面が強まっています。これらの法改正は、少年の保護と更生の必要性を考慮しつつも、年齢に応じた責任や被害者感情への配慮を求める社会的な要請を反映したものと言えます。
Q&A
Q1:少年鑑別所とは何ですか?
少年鑑別所は、家庭裁判所の決定(観護措置決定)により一時的に収容された少年について、医学、心理学、教育学、社会学などの専門的知識や技術に基づき、その資質の鑑別を行う施設です。鑑別の目的は、少年の非行の原因や性格傾向を明らかにし、最も適切な処遇方法(どのような教育や指導が更生に資するか)を見出すための調査を行うことです。少年院や刑務所のような刑罰を科す施設とは異なり、原則として2週間から4週間程度の比較的短期間収容され、その間に各種検査や面接、行動観察が行われます。鑑別の結果は報告書にまとめられ、家庭裁判所の少年審判における重要な資料となります。
Q2:全ての少年が鑑別所に入るわけではないのですか?
その通りです。少年鑑別所への収容(観護措置)は、家庭裁判所が審判を行うために必要があると認めるときに決定されます。具体的には、少年が住居不定である、証拠隠滅のおそれがある、自殺や逃亡のおそれがあるといった場合や、少年の性格や環境について詳細な専門的調査(鑑別)が必要と判断された場合に限られます。非行内容が比較的軽微であったり、在宅での調査や保護者による監護が十分可能であると判断されたりする場合には、鑑別所に収容されることなく、家庭裁判所調査官による在宅での調査(面談など)が進められます。
Q3:少年鑑別所ではどんなことをするのですか?
少年鑑別所では、収容された少年に対し、心理検査(知能検査、性格検査など)、専門職員による面接、行動観察、健康診断などを通じて、少年の性格特性、知能水準、心身の健康状態、非行に至った経緯や背景、依存症の有無、生活環境などを多角的に調査・分析します。これにより、その少年にとってどのような教育や処遇が更生のために最も適切であるかを見極めます。また、鑑別所での集団生活を通じて、規律ある基本的な生活習慣を体験させるという側面もあります。
Q4:家庭裁判所審判はどのように進行しますか?
家庭裁判所の少年審判は、成人の刑事裁判とは異なり、原則として非公開で行われます。審判廷には、裁判官、家庭裁判所調査官、少年本人、保護者、そして少年が依頼した付添人弁護士などが出席します。審判では、まず裁判官が少年に黙秘権を含む権利を告知し、非行事実の認否を確認します。その後、家庭裁判所調査官の調査結果や少年鑑別所の鑑別結果などが報告され、裁判官が少年や保護者、関係者から話を聞き、非行事実の有無、非行に至った経緯や動機、少年の性格や環境、更生の可能性などを総合的に審理します。重大な事件など、検察官が関与すべきと判断された場合には、検察官が出席することもあります。最終的に裁判官が、少年に対する保護処分(保護観察、児童自立支援施設送致、少年院送致など)または不処分などを決定します。
なお、18歳・19歳の「特定少年」の場合、家庭裁判所から検察官に送致(逆送)され、起訴された場合には、その後の刑事裁判は原則として公開の法廷で行われます。
Q5:少年が在宅で審判を受ける場合、どんな流れになるのでしょうか?
在宅で審判を受ける場合、一般的な流れは、警察などによる捜査を経て事件が家庭裁判所に送致された後、家庭裁判所調査官が少年や保護者と面談を行います。調査官は、少年の自宅や学校を訪問するなどして、生活状況や家庭環境、交友関係、非行に至った経緯などを調査し、社会調査報告書を作成します。この間、少年は鑑別所には収容されません。その後、家庭裁判所で少年審判が非公開で開かれ、調査結果などを踏まえて裁判官が処分を決定します。在宅事件の場合、弁護士(付添人)を選任し、被害者がいる事件では示談交渉を進めたり、少年の反省を深めるための活動を行ったりして、保護観察処分や不処分を目指すことが一般的です。
Q6:鑑別所に入る場合の期間はどれくらい?
少年鑑別所に収容される期間(観護措置の期間)は、原則として2週間です。ただし、特に継続の必要があるときは、1回に限り更新することができ、その場合の収容期間は通常4週間となります。さらに、一定の重大事件で証拠調べを行う必要があるなど、やむを得ない事由がある場合には、最大でさらに4週間(合計8週間)まで延長されることがあります。鑑別が終了すると、少年は家庭裁判所に戻り、審判を受けて最終的な処分が決定されます。したがって、鑑別所への収容は、あくまで審判のための調査期間であり、長期間にわたるものではありません。
Q7:鑑別所での態度や検査結果は審判で重要視されるのでしょうか?
はい、非常に重要視されます。少年鑑別所の専門職員(法務技官など)が作成する鑑別結果通知書(鑑別レポート)は、少年の性格特性、知能、心身の状態、非行の原因、再非行のリスクなどを専門的な見地から評価したものであり、家庭裁判所の裁判官が保護処分の種類や内容を決定する上で極めて重要な資料となります。鑑別所での生活態度や面接での受け答え、各種検査への取り組みなども観察・評価の対象となり、これらの情報が少年の更生の可能性や必要な処遇を見極める上で参考にされます。したがって、鑑別所での態度が悪かったり、問題行動が多かったりすると、より重い処分(例えば少年院送致)が選択される可能性が高まることがあります。
Q8:家庭裁判所の調査官はどんな調査をするのですか?
家庭裁判所調査官は、心理学、教育学、社会学などの専門知識を持つ裁判所の職員で、少年事件の調査を担当します。調査官は、少年本人や保護者、学校の先生など関係者との面談、家庭訪問、学校訪問などを通じて、少年の生育歴、家庭環境、学校生活の状況、交友関係、非行に至った経緯や動機、性格、価値観などを詳細に調査します。時には、少年の友人や近隣住民から話を聞くこともあります。これらの調査を通じて、非行の原因を分析し、少年が更生するためにどのような支援や環境調整が必要かを探り、再非行を防ぐための方策を検討します。調査結果は「社会調査報告書」としてまとめられ、処遇に関する意見とともに審判に提出され、裁判官の判断の重要な基礎となります。
Q9:被害者がいる事件の場合、少年鑑別所や家庭裁判所は被害者の意見も聴くのですか?
はい、少年事件においても被害者の権利への配慮が強化されています。以前は被害者の手続きへの関与は限定的でしたが、少年法の改正により、被害者やその遺族などが家庭裁判所の手続きに関与できる制度が拡充されました。
具体的には、以下のような制度があります。
- 意見の聴取・陳述
被害者は、家庭裁判所に対し、事件についての意見や現在の心境を述べることができます。これは、審判の場で裁判官に対して行う方法のほか、審判以外の場で裁判官や家庭裁判所調査官に対して行う方法もあります。 - 事件記録の閲覧・謄写
被害者は、一定の要件のもと、事件の記録(非行事実に係る部分や、少年の身上に関する供述調書、審判調書など)を閲覧したり謄写したりすることを申し出ることができます。これにより、事件の内容をより詳しく知ることが可能になります。 - 審判結果等の通知
被害者は、家庭裁判所に対し、審判の結果(処分内容など)や、少年及びその法定代理人の氏名・住居などの通知を求めることができます。 - 審判の傍聴
一定の重大な犯罪(故意の犯罪行為により人を死傷させた罪、強制性交等罪など)の被害者やその遺族は、家庭裁判所の許可を得て、少年審判を傍聴することができます。ただし、少年の健全な育成を妨げるおそれがある場合などは許可されないこともあります。 - 審判状況の説明
被害者は、審判期日の日時・場所、審判の経過、少年や保護者の陳述要旨などについて説明を受けることができます。これらの制度は、成人の刑事裁判における被害者参加制度とは異なる部分もありますが、少年事件においても被害者の声が手続きに反映される機会が増えています。示談や謝罪の有無と合わせて、被害者の処罰感情も、裁判官が処分を決定する際に間接的に考慮される要素となります。
Q10:家族や親が必ず付き添わないといけないのでしょうか?
はい、少年の保護者(親権者など)には、少年を監護する義務があります。そのため、警察や家庭裁判所からの呼び出しには、原則として保護者の同行が求められます。保護者が少年の手続きに協力し、監督・指導する意思と能力を示すことは、審判において少年にとって有利な情状として考慮される重要な要素です。逆に、保護者が非協力的であったり、監督能力に疑問符が付いたりすると、「家庭による監督が期待できない」と判断され、少年院送致などのより重い処分につながる可能性が高まります。弁護士が付添人として関与する場合、保護者と連携し、家族全体で少年を支え更生させる体制が整っていることを審判で具体的に示すことが、処分を軽くするためにも重要となります。
Q11:18歳・19歳の「特定少年」とは何ですか?扱いに違いはありますか?
「特定少年」とは、2022年4月1日に施行された改正少年法によって新たに定義された、18歳及び19歳の少年(男女を問わない)のことです。民法の成年年齢が18歳に引き下げられたことに伴い、少年法上の位置づけも見直されました。
特定少年に対しても、原則として少年法が適用され、家庭裁判所が事件を処理しますが、17歳以下の少年とは異なる特例が設けられ、より成人に近い、厳しい扱いを受ける場合があります。主な違いは以下の通りです。
- 原則逆送対象事件の拡大
特定少年が犯した事件のうち、検察官に送致して刑事裁判で処分を決めるべきとされる「原則逆送事件」の範囲が広がりました。従来の「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件」に加え、「死刑、無期又は短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件」(例:強盗罪、強制性交等罪、現住建造物等放火罪など)も原則逆送の対象となりました。 - 実名報道の可能性
特定少年が原則逆送事件などで検察官に送致され、起訴された場合(略式手続を除く)には、これまで少年法で禁止されていた実名や顔写真などの報道(推知報道)が解禁されます。 - 保護処分の種類の限定
特定少年に対する保護処分は、「6か月の保護観察」「2年間の保護観察」「少年院送致」の3種類に限定されます。少年院送致の場合、収容期間は3年以下の範囲で家庭裁判所が定めます。 - 「ぐ犯」規定の不適用
「ぐ犯」(虞犯:将来罪を犯すおそれがあること)を理由とする保護処分は、特定少年には適用されません。これらの変更は、特定少年が社会において責任ある立場に近づくことを踏まえ、その行為に対する責任をより明確に問うことを意図しています。
Q12:「特定少年」が起訴された場合、実名報道されるのですか?
はい、その可能性があります。改正少年法により、18歳・19歳の「特定少年」が犯した事件で、家庭裁判所から検察官に送致(逆送)され、その後、検察官によって正式に起訴(公判請求)された場合(ただし、書面審理のみで行われる略式手続による起訴を除く)には、これまで少年法第61条で原則禁止されていた、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によってその者が事件の本人であることを推知できるような記事や写真の報道(いわゆる「推知報道」)が解禁されることになりました。
これは、特定少年が刑事責任を問われる立場になった場合には、社会的な批判や論評の対象となり得るという考え方に基づくものです。ただし、法律上報道が「可能になる」ということであり、実際に報道機関が実名報道を行うかどうかは、各報道機関の判断に委ねられています。比較的軽微な事件ではなく、社会の関心が高い重大事件などで起訴された場合に、実名報道がなされる可能性が考えられます。
解説
家庭裁判所での手続きの流れ
少年事件が家庭裁判所に送致されると、以下のような流れで手続きが進行します。
事件送致
警察や検察庁は、少年(原則として14歳以上20歳未満の者)が罪を犯したと疑われる事件について、原則として全ての事件を家庭裁判所に送致します(全件送致主義)。14歳未満で刑法に触れる行為をした少年(触法少年)については、警察から児童相談所に通告または送致されるのが一般的です。
家庭裁判所調査官による調査
事件が送致されると、家庭裁判所調査官が中心となって、少年本人、保護者、学校関係者などから事情を聴取し、非行に至った経緯、少年の性格、生活環境、交友関係、保護者の監督能力などを詳細に調査します。この調査は、少年の更生に何が必要かを見極めるために行われ、その結果は社会調査報告書としてまとめられます。
観護措置
家庭裁判所は、審判を行うために必要があると認めるとき、少年を少年鑑別所に収容する「観護措置」を決定することができます。期間は原則として最長4週間ですが、特に継続の必要がある場合は最長8週間まで延長されることがあります。鑑別所では、専門家による心身の鑑別が行われます。
原則逆送
家庭裁判所は、調査・審判の結果、刑事処分を科すのが相当と判断した場合、事件を検察官に送致します(これを「逆送」といいます)。
- 17歳以下の少年の場合
16歳以上の少年が故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件は、原則として逆送されます。 - 特定少年(18歳・19歳)の場合
上記に加え、「死刑、無期又は短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件」(例:強盗罪、強制性交等罪、現住建造物等放火罪など)も原則逆送の対象となります。逆送された場合、検察官は、起訴するに足りる犯罪の嫌疑があると判断すれば、原則として起訴しなければなりません。その後の刑事裁判は、成人と同様に公開の法廷で行われます。この原則逆送の範囲拡大は、特定少年に対してより厳しい刑事責任を問うことを可能にするものであり、少年法の保護主義と刑事司法の応報的側面との間で、新たな均衡点を探る動きと言えます。これにより、特定少年が重大犯罪を犯した場合、成人と同様の刑事手続きに乗る可能性が格段に高まり、その後の人生に与える影響もより深刻なものとなり得ます。
少年審判
逆送されない事件については、家庭裁判所で少年審判が開かれます。審判は非公開で行われ、裁判官、家庭裁判所調査官、少年、保護者、付添人弁護士などが出席します。
審判の進行は、一般的に以下の通りです。
- 人定質問・黙秘権等の告知
裁判官が少年の氏名等を確認し、黙秘権などの権利を説明します。 - 非行事実の告知・意見聴取
裁判官が審理の対象となる非行事実を少年に告げ、それに対する少年の意見(認めるか、違う点があるかなど)を聴きます。付添人にも意見を求めます。 - 裁判官からの質問
裁判官が少年に対し、事件のこと、事件後の生活、今後の更生について質問します。保護者にも同様に質問がなされることがあります。 - 付添人・調査官からの質問
付添人や調査官からも、少年や保護者に対して質問が行われることがあります。 - 被害者の関与
- 意見の陳述
前述の通り、被害者は家庭裁判所に対し、心情や事件に関する意見を述べることができます。これは審判廷で行われることもあれば、審判外で裁判官や調査官に対して行われることもあります。
- 審判の傍聴
一定の重大事件の被害者等は、裁判所の許可を得て審判を傍聴できます。
- 記録の閲覧・謄写
被害者は、正当な理由がある場合、事件記録の閲覧・謄写を申し出ることができます。
- 審判結果等の通知・審判状況の説明
被害者はこれらの情報を得る権利があります。被害者関与の拡充は、少年事件手続きの透明性を高め、被害者の権利回復に資する一方で、審判運営において少年の福祉と被害者の感情とのバランスをどのように取るかという、より複雑な判断を裁判所に求めるものとなっています。
- 意見の陳述
- 少年の最終陳述
最後に少年が言っておきたいことを述べる機会が与えられます。
処分決定
審判の結果、裁判官は以下のいずれかの処分を決定します(詳細は「保護処分の種類」参照)。
- 不処分
- 保護処分(保護観察、児童自立支援施設等送致、少年院送致)
- 都道府県知事又は児童相談所長送致
- 検察官送致(逆送:上記4で詳述)
少年鑑別所の役割
少年鑑別所は、家庭裁判所の観護措置決定に基づき、少年を一時的に収容し、専門的な調査(鑑別)を行う施設です。その主な役割は以下の通りです。
短期収容と専門的調査
原則として2週間から4週間(最長8週間)という比較的短期間の収容中に、医学、心理学、教育学、社会学などの専門知識を持つ法務技官などが、各種心理検査、面接、行動観察、健康診断等を実施します。これにより、少年の知能、性格、心身の状況、非行に至った原因や背景、再非行の危険性、処遇上の留意点などを多角的に把握・分析します。
鑑別結果の報告
調査・分析の結果は「鑑別結果通知書」としてまとめられ、家庭裁判所に送付されます。この通知書には、少年の特性に応じた適切な処遇(保護観察が適当か、施設収容が必要か、どのような指導が有効かなど)に関する意見も含まれており、裁判官が審判で処分を決定する際の極めて重要な資料となります。
教育的配慮
鑑別所は刑罰施設ではなく、あくまで調査・診断を行う場所ですが、収容中の少年に対しては、規則正しい生活習慣の指導や、集団生活を通じた社会性の涵養など、一定の教育的配慮もなされます。特定少年の場合、その後の処遇が刑事裁判に進むか保護処分となるかの岐路に立たされることがあり、鑑別所の評価がその判断に与える影響は、17歳以下の少年以上に大きいと言えるかもしれません。鑑別所の報告は、少年の更生の可能性や受容性を見極める上で、裁判官にとって客観的かつ専門的な情報源となるためです。
保護処分の種類
少年審判の結果、裁判官が少年の更生のために必要と判断した場合に決定されるのが保護処分です。保護処分は刑罰とは異なり、少年の健全な育成を目的とする教育的・福祉的な措置です。主な保護処分には以下のものがあります。
17歳以下の少年の場合
- 不処分
非行事実が認められない場合、または非行が極めて軽微で、保護処分を行うまでの必要がないと判断された場合に決定されます。 - 保護観察
少年を施設に収容せず、社会の中で通常の生活を送りながら、保護観察官や保護司による指導監督及び補導援護を受けて更生を図る処分です。 - 児童自立支援施設送致・児童養護施設送致
家庭環境等に問題があり、開放的な施設で生活指導や自立支援を受けることが適切と判断された場合に、これらの施設に送致されます。 - 少年院送致
非行傾向が進んでおり、社会内での更生が困難で、一定期間、矯正施設である少年院に収容して集中的な矯正教育や職業訓練等を行う必要があると判断された場合に決定される、最も重い保護処分です。
特定少年(18歳・19歳)の場合
特定少年に対する保護処分は、改正少年法により以下の3種類に限定されています。
- 6か月の保護観察
- 2年間の保護観察
この2年間の保護観察中に遵守事項違反があった場合には、少年院に収容されることがあります。 - 少年院送致
家庭裁判所が、犯した罪の重さなどを考慮し、3年以下の範囲内で収容期間を定めて少年院に送致します。また、特定少年については、民法上の成年となることなどを考慮し、将来罪を犯すおそれがあること(ぐ犯)のみを理由とする保護処分は行われません。これは、18歳以上の者に対しては、具体的な非行事実がない限り、国家による予防的な介入は抑制されるべきであるという考え方を反映しています。特定少年に対する保護処分がこのように類型化され、特に保護観察の期間が明示されたり、少年院送致の期間に上限が設けられたりしたことは、処遇の明確化を図る一方で、従来の柔軟な個別処遇の理念から、より画一的で、ある意味では厳格化された運用への転換を示唆しているとも解釈できます。
以下に、「特定少年」に関する主な特例を17歳以下の少年と比較してまとめます。
表1:「特定少年」に関する主な特例の比較
事項 | 特定少年(18歳・19歳) | 17歳以下の少年 |
年齢 | 18歳・19歳 | 20歳未満(特定少年を除く) |
原則逆送の対象事件 | ・故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪(16歳以上の場合と同様) ・死刑、無期又は短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪(強盗罪、強制性交等罪など) | ・故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪(16歳以上の場合) |
実名報道の可否 | 検察官送致後、起訴された場合(略式手続を除く)は可能 | 原則禁止 |
保護処分の内容 | ・6か月の保護観察 ・2年間の保護観察 ・少年院送致(3年以下の期間指定) | ・保護観察 ・児童自立支援施設 ・児童養護施設送致 ・少年院送致 |
「ぐ犯」の適用 | 適用されない | 適用される |
刑事裁判での不定期刑 | 適用されない(成人と同様の定期刑) | 適用される場合がある |
資格制限に関する特例 | 原則として適用されない(成人と同様) | 適用される場合がある |
弁護士の付添活動
少年事件において、弁護士は「付添人」として少年の権利を守り、更生を支援する重要な役割を担います。主な活動内容は以下の通りです。
捜査段階からの支援
逮捕直後から少年と接見し、取調べに対する適切なアドバイスを行います。不当な取調べが行われないよう監視し、少年に不利な供述調書が作成されることを防ぎます。早期の身柄解放(勾留阻止、観護措置回避など)を目指した活動も行います。
家庭裁判所調査官との連携
家庭環境や学校の状況、非行に至った背景などを調査官に丁寧に伝え、少年の良い面や更生の可能性を理解してもらうよう努めます。再非行防止のための具体的な提案も行います。
被害者との示談交渉
被害者がいる事件では、少年に代わって被害者と連絡を取り、謝罪の意思を伝え、被害弁償や慰謝料の支払いなどについて示談交渉を行います。示談の成立は、被害者の処罰感情を和らげ、審判の結果に大きく影響します。このプロセスは、少年にとっても自らの行為の重大さを認識し、被害者の痛みを理解する重要な機会となり得ます。
審判での弁護活動
審判では、少年の代理人として、非行事実に争いがある場合はそれを主張し、争いがない場合でも、非行に至った経緯や動機、少年の反省の状況、家族の支援体制、今後の更生計画などを具体的に述べ、少年にとって最も適切な処分(できる限り軽い処分)が下されるよう裁判官に働きかけます。
環境調整
少年の再非行を防ぐためには、生活環境の改善が不可欠です。付添人は、家族関係の調整、学校や職場との連携、適切な交友関係の構築など、少年が更生しやすい環境を整えるための支援を行います。
特定少年への対応
特定少年の事件では、原則逆送の回避が極めて重要な目標となります。また、起訴された場合の刑事裁判への対応や、実名報道の可能性とその影響についても助言し、不利益を最小限に抑えるための活動を行います。保護処分の選択肢が限定されているため、その中で少年の更生に最も資する処分を求める弁護活動が求められます。付添人の活動は、単に法的な手続きを代行するだけでなく、少年が自らの問題と向き合い、社会の一員として再出発するための包括的なサポートを提供するものです。特に、特定少年のように刑事司法手続きへの移行リスクが高いケースでは、早期からの付添人の関与が、その後の人生を大きく左右する可能性があります。
適切な対応が重要
少年が非行を犯した場合、その後の処分を左右するのは、事件の内容や重大性だけでなく、少年本人や家族が事件とどのように向き合い、対応するかという点も重要です。
真摯な反省と謝罪
自らの行為を深く反省し、被害者がいる場合には誠心誠意謝罪し、被害弁償に努めることが基本です。これらの態度は、少年の更生意欲の表れとして評価されます。
再発防止策の具体化
なぜ非行に至ったのかを分析し、二度と同じ過ちを繰り返さないために、具体的な再発防止策を考え、実行に移すことが求められます。これには、生活態度の改善、交友関係の見直し、専門機関のサポートを受けることなどが含まれます。
家族の協力体制
保護者が少年の更生を支える強い意志を持ち、具体的な監督計画を立て、家庭環境を調整することも重要です。家庭裁判所は、少年が家庭に戻った場合に、適切な監護を受けられるかどうかを重視します。
早期の準備
少年審判は、当日に取り繕った反省の言葉を述べても、処分が軽くなるわけではありません。事件発生後、できるだけ早い段階から、上記のような対応を積み重ね、その努力を家庭裁判所に示すことが肝要です。少年が鑑別所に収容されるか、在宅で調査を受けるかにかかわらず、これらの適切な対応は、審判における処分の軽重に大きく影響します。特に特定少年の場合、刑事処分を受けるか保護処分となるかの分水嶺に立つこともあり、その対応の重要性は一層増します。弁護士(付添人)とよく相談し、計画的に準備を進めることが、少年の将来にとって最善の結果を導く鍵となります。このプロセスを通じて、少年自身が自己の行動に責任を持ち、社会の一員として成長する機会と捉えることが望まれます。
弁護士に相談するメリット
少年事件において、早期に弁護士(付添人)に相談・依頼することには、以下のような多くのメリットがあります。
鑑別所収容の可能性と対策
弁護士が早期から関与することで、家庭裁判所に対し、在宅での調査でも十分に少年の状況把握や更生指導が可能であることを具体的に主張し、少年鑑別所への収容(観護措置)を回避できる場合があります。少年が学校や仕事に通っている場合、鑑別所収容による社会生活からの中断は大きな不利益となるため、これを避ける意義は大きいです。たとえ少年院送致の可能性が高い重大事件であっても、弁護士が被害者との示談交渉を成立させたり、家族による具体的な監督計画や更生支援策を提示したりすることで、より軽い処分(例えば保護観察)となる余地が生まれることがあります。
家庭裁判所への効果的なアピール
弁護士は、家庭裁判所調査官や裁判官に対し、少年の非行に至った原因や背景、本人の反省の度合い、更生意欲、性格の良い面などを、法的観点から整理し、説得力のある意見書として提出することができます。また、保護者や学校関係者からの協力を取り付け、具体的な更生支援体制が整っていることを示す資料を提示することで、在宅での保護観察処分による改善が可能であることを効果的にアピールできます。
被害者との示談サポート
被害者がいる事件では、示談の成立が審判の結果に極めて大きな影響を与えます。しかし、少年本人や家族が直接被害者と交渉することは、被害者の感情を逆なでしたり、新たなトラブルを生んだりするリスクがあります。弁護士が間に入ることで、被害者の心情に配慮しつつ、適切な謝罪文の作成や賠償金の提案を行い、円滑な示談交渉を進めることができます。被害者から「処罰を求めない」といった宥恕(ゆうじょ)の意思を得られれば、処分が軽くなる可能性が高まります。
鑑別所や少年院でのフォロー
万が一、少年院送致が避けられない場合でも、弁護士は収容中も少年と面会し、精神的な支えとなったり、仮退院に向けた準備を助けたりすることができます。また、退院後の学校復帰や就職など、社会復帰に向けたアフターケアについても相談に乗り、再非行を防止するための支援を行います。成人後の人生への影響を最小限に抑えるためにも、このような継続的なサポートは重要です。
特定少年事件における弁護士の重要性
特に18歳・19歳の「特定少年」の事件では、原則逆送により刑事裁判となるリスクがあります。弁護士は、逆送の可能性を慎重に検討し、これを回避するための弁護活動に注力します。また、起訴された場合に実名報道がなされる可能性についても、その影響を最小限に食い止めるための対策を講じます。少年法の保護的側面と、成人に近い責任を問われる側面が交錯する特定少年の事件は、法的に複雑であり、専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
弁護士の役割は、単に法廷で弁論を行うだけでなく、捜査段階から審判後の社会復帰に至るまで、少年の更生を包括的に支援し、その権利を最大限に擁護することにあります。それは、少年の将来を見据えた、社会復帰のための環境調整や関係機関との連携といった、多岐にわたる活動を含みます。
以下に、少年事件における被害者の主な権利と手続きについてまとめます。
表2:少年事件における被害者の主な権利と手続
権利の種類 | 概要・申出先・主な対象事件等 |
事件記録の閲覧・謄写 | 被害者は、損害賠償請求のためや意見陳述の準備のためなど正当な理由がある場合、家庭裁判所に対し、非行事実に係る記録等の閲覧・謄写を申し出ることができます。平成20年の改正で対象記録の範囲が拡大されました。 |
意見の陳述 | 被害者は、家庭裁判所に対し、被害に関する心情や事件についての意見を述べることができます。審判廷で裁判官に述べる方法、審判外で裁判官に述べる方法、審判外で家庭裁判所調査官に述べる方法があります。 |
審判の傍聴 | 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪、強制性交等罪、強盗罪などの一定の重大事件の被害者等は、家庭裁判所の許可を得て審判を傍聴できます。ただし、少年の健全な育成を妨げるおそれがある場合などは許可されないことがあります。 |
手続結果等の通知 | 被害者は、家庭裁判所に対し、審判の結果(処分内容)、少年及びその法定代理人の氏名・住居などの通知を申し出ることができます。一定の重大事件では請求がなくとも通知される場合があります。 |
審判状況の説明 | 被害者は、家庭裁判所に対し、審判期日の日時・場所、審判の経過、少年や保護者の陳述要旨など、審判期日で行われた手続について説明を受けることができます。 |
保護観察中の処遇状況等の通知 | 被害者は、地方更生保護委員会又は保護観察所に対し、加害少年が保護観察処分や少年院送致処分を受けた場合に、仮退院(仮釈放)審理に関する事項や保護観察中の処遇状況等について通知を求めることができます。 |
まとめ
家庭裁判所及び少年鑑別所における手続きは、成人の刑事裁判とは異なり、少年の健全な育成と再非行の防止を主眼とする「保護主義」の理念に基づいて運営されています。少年鑑別所は、一時的に少年を収容し、専門的な心理検査や行動観察を通じて、その特性や問題点を明らかにし、適切な矯正プログラムの方向性を探るための施設です。その鑑別結果を踏まえ、家庭裁判所では非公開の審判が開かれ、保護観察や少年院送致などの保護処分が決定されます。
しかし、近年の少年法改正、特に18歳・19歳の少年を「特定少年」と位置づけたことは、この保護主義の原則に重要な変更を加えています。特定少年に対しては、依然として少年法が適用されるものの、原則逆送の対象となる事件が拡大され、刑事裁判を受ける可能性が高まりました。また、起訴された場合には実名報道が解禁されるなど、より成人に近い責任を問われる側面が強化されています。これにより、少年司法制度は、従来の画一的な保護から、年齢や事案の重大性に応じた、より多層的で複雑な対応を迫られることになりました。
また、被害者の権利擁護の観点も強化され、被害者が審判手続きに関与し、意見を述べたり、情報を得たりする機会が拡充されています。これは、少年の更生という目標と、被害者の救済という要請との間で、より精緻なバランスが求められることを意味します。
このような変化する法制度の中で、少年が非行を犯した場合、本人及び家族が早期に事態を把握し、誠実に対応すること、そして何よりも専門家である弁護士(付添人)の助力を得ることが極めて重要です。弁護士は、法的手続きを適切に進めるだけでなく、少年の更生に向けた環境調整や被害者対応など、多岐にわたる支援を提供します。特に、特定少年の事件においては、その法的帰結がより深刻になり得るため、弁護士の役割は一層重要性を増しています。
少年司法制度は、社会の変化や国民の意識の変遷を反映し、常に進化を続けています。その根底には、非行を犯した少年を社会から排除するのではなく、適切な教育と支援を通じて再び社会の一員として受け入れ、更生させるという目標があります。この目標を達成するためには、法制度の適切な運用に加え、少年を取り巻く社会全体の理解と協力が不可欠です。
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