はじめに
交通事故などの刑事事件で、加害者・被害者間の示談交渉が難航する理由の一つに、過失割合が挙げられます。加害者としては「被害者にも過失があるので全額補償は納得できない」と思う一方、被害者は「そちらが悪いのだから責任を十分にとるべき」と強く主張するなど、互いの過失責任をめぐる溝が深まりがちです。刑事事件で不起訴や量刑軽減を狙うには示談が欠かせない一方、民事上の過失割合の調整がスムーズに進まないと示談自体が成立しにくいという矛盾もあります。
本稿では、過失割合が争点となる示談交渉に焦点を当て、実務上どのように合意に至るか、保険会社や裁判所の基準がどう機能するか、弁護士法人長瀬総合法律事務所が実際にどのようにサポートできるのかを解説します。過失割合の調整は民事色が強いですが、刑事処分にも大きく影響するため、加害者にとっては重要なポイントです。
Q&A
Q1:過失割合とは具体的に何を指すのですか?
交通事故や人身事故などで、加害者と被害者双方に落ち度がある場合、損害賠償をどの割合で分担するかを示すのが過失割合です。たとえば、7:3なら加害者が7割、被害者が3割の責任を負うという意味で、損害金額をその比率で負担します。
Q2:刑事事件の示談で過失割合が争点になった場合、どう解決すればいいのですか?
基本的には、民事(賠償)部分の調整として保険会社や弁護士が過失割合を算定し、被害者と加害者双方が納得できるラインで着地点を探ります。刑事処分の軽減を狙うためにも、加害者側が一定譲歩するケースもあり得ますが、弁護士が客観的データを提示することがカギです。
Q3:裁判所の過失割合基準書があると聞きましたが、どこで入手できますか?
「赤い本」や「青い本」、「別冊判例タイムズ」と呼ばれる、過去の判例に基づく損害賠償算定基準書や過失割合の算定基準があります。一般には書店や法律書専門店で購入でき、弁護士や保険会社はこれらを参照して過失割合を決めることが多いといえます。
Q4:被害者が「私はまったく悪くない」と過失ゼロを主張するが、実際には一部過失がある場合、どう交渉すればいいですか?
弁護士が当時の事故状況を調査し、ドラレコ映像や目撃証言、警察の実況見分調書などを分析して客観的に過失割合を算出し、被害者に説明する形となります。被害者が感情的に拒否しても、合理的根拠を提示し続けることで譲歩を促すのが一般的手法です。
Q5:刑事事件としては加害者だが、民事上は被害者にも落ち度がある…という場合、示談金の金額はどうなるでしょうか?
加害者の刑事責任が大きいとしても、民事上の賠償金は過失割合に応じて減額されることがあります。たとえば、被害者が信号無視して飛び出したなど一部の非が認定されれば、その割合分だけ加害者の支払う示談金が減ることが通常です。
ただし刑事処分の面では加害者としての責任が重視され、刑事上の「過失割合」という概念はないことに注意が必要です。
Q6:保険会社が一方的に過失割合を決めて示談書を送ってきた場合、従うしかないのでしょうか?
従う必要はありません。納得いかないなら弁護士を通じて過失割合の根拠を疑問視し、再交渉を行うことができます。場合によっては裁判で争われるケースもあり、強制的に保険会社の案に乗る義務はありません。
Q7:示談で過失割合の話をすると、被害者が「刑事処分として厳罰を求める」と言いだすリスクはありませんか?
ゼロではありません。被害者が「自分にも過失がある」と認めたがらず、「加害者は反省していない」と感じると、処罰感情が高まるリスクもあります。慎重かつ丁寧にコミュニケーションを取り、言葉遣いやタイミングを考えて提案することが肝要です。
Q8:裁判所が刑事判決で「◯◯%の過失割合」という形で定めることはありますか?
刑事判決では被告人の刑事責任を判断するため、民事上の過失割合を正確に判示することはありません。単に「被害者にも一部の落ち度があった」と情状評価する可能性はありますが、具体的な%で示すのは民事裁判や示談上の話です。
Q9:過失割合の交渉が長引いて示談が決まらず、起訴されるリスクが高まるなら、加害者はどう対応すればいいですか?
弁護士の助言を得て、刑事処分を軽減する目的(「処罰を望まない」)の文言を示談書に入れてもらうことを優先し、賠償金の一部即金を先に払うなどして、一旦刑事事件用の示談を成立させる方法も考えられます。後で民事訴訟で過失割合を詰める形もあり得ます。
Q10:示談が難航して裁判になった場合、裁判所で過失割合は最終的にどのように決まるのですか?
民事裁判では赤い本・青い本、別冊判例タイムズなどの基準や判例を参考に、具体的な事故状況や当事者の行動などを検討し、裁判官が適正な過失割合を判断します。刑事事件の有罪判決は民事裁判での事実認定に一定の影響を与えますが、過失割合そのものは独立した審理で決定されます。
解説
なぜ過失割合が争点になるのか
示談交渉では、「誰がどれだけの責任を負うか」が金額に直結します。被害者100%無過失を主張すれば加害者負担が大きくなる一方、加害者も「被害者側にも落ち度がある」と主張し、賠償を減らしたがる。合意ができず、刑事事件の示談として捜査機関・裁判所に提出される文書が完成しない状態が続き、刑事処分が厳しくなる傾向にあります。
過失割合が大きい加害者としてのリスク
多くの交通事故などでは加害者が7〜8割の過失を負い、そこから交渉が始まります。刑事処分を軽くしたい気持ちがあっても、被害者側が過失割合に納得しなければ示談は成立しません。結局、加害者が過失割合に固執しすぎていると交渉が長引き、刑事面で不利な結果(起訴や厳罰)につながりかねません。
保険会社の介入
自動車事故などでは、保険会社が加害者の代わりに過失割合を計算し、相手の保険会社との間で交渉する例が多いです。保険会社が示談代行してくれるため、加害者本人は詳細を把握しないまま話が進むこともしばしば。しかし、刑事的な示談(処罰不望文言など)を盛り込むには、加害者側弁護士との連携が不可欠です。
示談交渉の進め方
- 事故状況の検証
ドラレコ映像、警察の実況見分、目撃証言など - 過去の判例や基準
赤い本・青い本、保険会社基準 - 被害者感情の把握
加害者が過失割合をどの程度認めるかで、被害者の気持ちも変わる - 最終的な調整:刑事事件としての合意文言と、過失割合に基づく賠償額の確定
弁護士の意義
過失割合の議論が長引くと、刑事手続きが先に進んで起訴や公判が始まり、厳しい処分を受ける可能性があります。弁護士は、刑事処分の軽減を最優先に考え、時には加害者にある程度の譲歩を促しながら、早期の示談成立を目指すことがあり得ます。一方、被害者の要求が相場とかけ離れているなら、弁護士が過失割合の客観的根拠を示して粘り強く交渉し、加害者の負担を抑える方向で着地を図ります。
弁護士に相談するメリット
事故状況・過失割合の専門的検証
弁護士が実況見分調書や目撃証言を分析し、過失割合の妥当性を判断。保険会社と被害者の主張に誤りがないか検証できるため、不利な認定を避けることができる。
刑事面の示談上乗せ
弁護士が「刑事上の示談」として、処罰不望文言を盛り込むよう提案し、金額調整を行う。保険会社が対応しない部分を加害者が自己負担で補うことも、弁護士が合理的な金額を算定しサポートする。
時間的マネジメント
過失割合交渉は長期化しやすいが、弁護士が事件の進行(起訴や公判予定)を見据えて適切なペースで交渉を進行させ、最終的に示談成立のタイミングを刑事処分に間に合わせるよう調整を図ることができる。
最終的に裁判で争う場合もサポート
示談がまとまらず民事裁判で過失割合を競うことになった場合、弁護士がそのまま代理人として裁判所の基準に即した主張を展開する。刑事面とのバランスを考慮しながら総合的に弁護する。
まとめ
過失割合が争点となる場合の示談交渉は、交通事故などの刑事事件でよく見受けられる複雑な問題です。被害者と加害者双方に落ち度があると主張される中で、示談を成立させるのは容易ではありません。しかし、刑事事件として不起訴や量刑軽減を得るには、できるだけ早期に示談をまとめるのが効果的です。以下のポイントを押さえ、弁護士の援助を得ながら適切に過失割合を調整し、示談成立を実現することが大切です。
- 民事上の過失と刑事上の責任は異なる
過失割合の議論が長引くと示談が成立せず、刑事処分が厳しくなるリスク。 - 保険会社の協力
事故の算定や示談代行は保険会社が担えるが、刑事事件向け示談の文言は弁護士が補う必要。 - 相場と実情のギャップ
被害者の感情によって保険基準を超える金額が求められる場合も。弁護士が粘り強く交渉。 - 時間管理が重要
起訴や公判までに合意を得るには、過失割合をめぐる交渉をダラダラ長引かせない戦略が必須。 - 弁護活動の重要性
客観的データで過失割合を証明しつつ、刑事処分面の示談(処罰不望)に持ち込む交渉をリード。
もし過失割合が争点となって示談が難航している、あるいは刑事事件としての示談を成立させたいのに保険会社との折衝がうまくいかないなどのお悩みがある場合は、弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。交通事故などの分野に精通した弁護士が、保険会社・被害者との三者交渉をスムーズにまとめ、刑事処分へ反映させるための戦略をサポートします。
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