保険会社との連携と役割

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はじめに

刑事事件において、保険会社が直接的に示談金などを立て替えてくれる場面は、交通事故など一部の事案に限られます。しかし、被害者への損害賠償が争点となる多くの事件で、保険会社と連携することが大きな意味を持つのも事実です。たとえば、交通事故で加害者が加入している自動車保険個人賠償責任保険が適用されれば、示談交渉を保険会社が代行し、加害者自身の経済的負担を軽減することが可能です。

もっとも、刑事事件として立件されている以上、示談交渉自体を保険会社任せにするだけでは不十分で、刑事処分(起訴・量刑)にどう影響させるかという視点が重要です。本稿では、保険会社との連携がなぜ大切か、保険会社がどのような役割を果たすか、そして弁護士が加害者と保険会社の間に入ってどのように調整するかを解説します。

Q&A

Q1:保険会社は示談交渉を代行してくれるのでしょうか?

交通事故の場合、任意保険に示談代行サービスが付帯されていれば、保険会社が被害者との賠償交渉を代行してくれます。たとえば人身事故では、被害者への治療費や慰謝料、休業損害などを保険会社が計算・提案し、示談を進める形です。ただし、刑事事件としての示談(処罰を求めない旨)までカバーしてくれるわけではない点に注意が必要です。

Q2:保険会社が示談代行すると、加害者本人は何もしなくていいのですか?

全てを保険会社に丸投げすると、刑事処分の面(不起訴や量刑軽減)のメリットを十分に引き出せないリスクがあります。保険会社はあくまで民事賠償の範囲を主眼としており、刑事上の処罰感情をやわらげるための文言(処罰を求めないなど)を示談書に入れる取り組みは、弁護士なしでは不十分なまま終わる恐れがあるのです。

Q3:自動車事故ではなく暴行事件などの場合も、保険会社が対応してくれますか?

保険会社の個人賠償責任保険や日常生活賠償特約では、故意の犯罪行為は免責(保険金が支払われない)となっていることが多いといえます。暴行事件や性犯罪などで保険が適用されるケースは少ないでしょう。ただし、事案によっては個人賠償責任保険が適用される場合もあり得ますので、個別に確認するようにしましょう。

Q4:保険会社の示談金提示額と、刑事事件の示談金相場は違うと聞きますが、どう違うのでしょうか?

保険会社が提示する賠償額(治療費・休業損害・慰謝料など)は主に民事上の損害補填が目的で、社内基準(任意保険基準)をもとに計算されることが多いです。一方、刑事事件としての示談金では、被害者の処罰感情を緩和する要素も強く、場合によっては保険基準より高額になることがあります。

Q5:保険会社との連携がうまくいかない時はどうすればいいでしょうか?

加害者が弁護士を通じて保険会社の担当者と協議し、刑事事件の事情を共有して調整するのが望ましいです。保険会社は定型手続きに沿って進めがちなので、刑事面の視点を弁護士がアドバイスし、一緒に示談交渉をリードする形が理想的です。

Q6:保険会社が出した示談金額を被害者が拒否し、独自に高額を要求してきたらどうなりますか?

保険会社はその要求を認める義務はありません。被害者が裁判で争う可能性がありますが、裁判所が保険会社基準より大幅に高い金額を認めるかはケースバイケースです。刑事事件上の示談としては「処罰を望まない」と確実に書いてもらうために、加害者が追加上乗せをするケースもあり、弁護士が交渉を調整します。

Q7:保険会社の示談書と、刑事上の示談書は別々に作成するのですか?

まとめることも、分けることも可能です。ただ、保険会社が用意する示談書は通常民事賠償に特化し、「刑事処分を求めない」等の文言が入っていない場合がほとんどです。そこで弁護士が刑事事件向けの示談書を追加で作成し、両者の整合性をとる形をとることが多いです。

Q8:保険会社から「弁護士特約が付いているから弁護士費用は保険が払ってくれる」と言われました。どういう仕組みですか?

弁護士費用特約とは、自動車保険などに付帯される特約で、交通事故の相手方との交渉や訴訟に要する弁護士費用を保険会社が負担する制度です。ただし、刑事事件全般ではなく交通事故の民事交渉が対象のケースが多いので、刑事上の示談(処罰不望)は特約の範囲外となる場合があります。契約内容の確認が必要です。

解説

保険会社との役割分担

保険会社

  • 交通事故の賠償金や治療費の支払い計算
  • 物損・人身損害の算定において民事上の示談代行
  • 任意保険基準で被害者に慰謝料提案、面談・交渉

弁護士

  • 刑事事件としての示談交渉(処罰不望・宥恕文言)
  • 刑事処分を軽くするための戦略(示談書に必要条文を入れる)
  • 保険会社の対応ではカバーしきれない刑事上の情状を補完

保険会社が示談を代行できる範囲

保険会社は基本的に民事賠償の範囲を対象とし、刑事事件の処罰や量刑には直接関与しません。被害者が「厳罰を求める」か「処罰を望まない」かは被害者の自由意思であり、保険会社が関与しづらい面があります。この部分をカバーするのが弁護士の役割です。

保険会社の出す金額と刑事事件用示談金

交通事故などでは、保険会社が提示する金額が民事賠償額として妥当な範囲内であっても、被害者側が「犯罪行為として許せない」という感情を抱くと、刑事示談の金額がさらに上乗せされる事例があります。弁護士が「刑事処分を望まない文言」を加える意義を説得し、保険会社の提示額に加害者の自己負担を適宜プラスする形で合意に達することも考えられます。

弁護士との二重交渉を避けるために

ときに加害者が「保険会社に任せきり」で、弁護士が何も関与しない状態が生まれがちです。しかし、刑事事件としての示談成立(処罰不望)が必要なら、弁護士が被害者感情をくみ取り、法的観点から示談書を作成すべきです。保険会社の担当と弁護士が連携し、被害者に一つの示談プランを提示するのが最もスムーズな方法となります。

デメリット・注意点

  • 保険が適用されない犯罪行為
    故意の暴行・性犯罪などは保険金で補償されない
  • 過失割合の争い
    交通事故で過失割合が争点になると、保険会社同士が紛争し、示談が長期化
  • 刑事的要素をカバーできない
    保険会社が処罰を望まない文言の条項作成は通常しない
  • 被害者が納得しない
    保険会社の提示はあくまで民事基準。刑事的感情とは別物

弁護士に相談するメリット

刑事と民事の橋渡し

弁護士が保険会社(民事)の示談代行と被害者の刑事処分感情を整理する戦略を検討する。

過失割合や損害額の調整

交通事故では過失割合が大きな争点となることが少なくありません。保険会社が被害者と折り合いをつけられない場合、弁護士が交渉を行い、調整を図ることも考えられます

保険が効かない事件の示談サポート

DVや暴行事件などに保険適用がない場合、弁護士が加害者の資力を考慮しつつ示談金を提示し、被害者の納得を得る形を探ります。依存症治療など情状を加味してもらう交渉も同時に進めることも検討します。

公判での主張

保険会社が示談を代行してくれても、裁判所に対して「示談成立」をいかに刑事処分に反映するかは適切に訴える必要があります。示談書提出や被害者の宥恕文書を公判に提出し、量刑軽減を求めることが考えられます。

まとめ

保険会社との連携と役割は、主に交通事故などの「保険適用があり得る刑事事件」で重要な論点となります。保険会社が示談代行してくれることで、加害者の経済的負担は軽減されやすい反面、刑事事件としての示談(処罰不望の文言)が不十分になりがちです。そのため、弁護士が保険会社と情報共有し、刑事処分の軽減につながる形で示談書を仕上げることが欠かせません。以下のポイントを押さえ、保険会社に任せにせず、早期から弁護士と連携することが大切です。

  1. 保険会社は民事賠償が主目的
    刑事処分をどうするかは被害者や検察・裁判所次第。
  2. 保険会社に適さない事件も
    故意の犯罪行為は免責、DVや暴行・性犯罪は保険の対象外が多い。
  3. 弁護士が刑事面をカバー
    保険会社の示談代行に加え、刑事事件向けの交渉を行う。
  4. 連携が成功のカギ
    保険会社が納得する範囲の賠償金と、被害者が求める刑事示談を調和させる。

もし自動車事故やその他事件で保険会社が絡む示談交渉を行う際、刑事処分への影響を十分に考慮した合意を目指したい場合は、弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。保険会社との交渉手法や示談書への記載事項を整理し、刑事処分をできる限り軽減するための適切なサポートを提供いたします。


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