はじめに
日本の刑事司法制度では、20歳未満の未成年者が犯罪や非行を犯した場合、原則として少年法が適用され、家庭裁判所で保護処分が行われる仕組みとなっています。成人と同じ刑事裁判で裁かれるのは、16歳以上の重大事件など特別なケースに限られ、多くの少年事件では教育的観点から更生を重視した対応がとられます。
未成年者が起こす事件については、社会全体から「まだやり直しが効く」という期待があり、実際の処分でも保護処分(少年院送致、保護観察など)を中心に行われるのが特徴です。本稿では、少年事件の量刑(実際には刑ではなく保護処分が中心)や、どのような保護処分が言い渡されるのか、成人事件との違いなどを解説します。
Q&A
Q1:少年事件はどこで審理されるのですか?
家庭裁判所が主体となり、少年審判という手続きで審理します。警察が逮捕した未成年者も、検察官を経由して家庭裁判所送致されるのが一般的です。ただし、16歳以上の重大事件(殺人など)では検察官送致(逆送)され、成人と同様の刑事裁判が行われる場合もあります。
Q2:少年事件には「量刑」がないのですか?
少年法の目的は少年の健全育成であり、処分は刑罰ではなく保護処分となります。厳密には「量刑」とは呼びませんが、事案が重大で逆送されれば、成人同様の刑事裁判(量刑判断)を受けるケースもあります。
Q3:少年院送致と少年刑務所は違うのでしょうか?
少年院は少年が更生教育を受ける施設で、刑罰ではなく保護処分の一形態です。一方、少年刑務所は若年成人や少年が刑罰として服役する場であり、成人の懲役刑に近いものとなります。少年院は教育重視、少年刑務所は刑罰重視という違いがあります。
Q4:保護観察とは何ですか?
家庭裁判所が少年に対して自宅や施設での生活を継続しながら、保護観察所の監督・指導を受ける処分です。定期的に面談があり、行動制限や就学・就労指導などを受けることで再非行を防止する目的があります。
Q5:少年事件でも被害者への示談は必要ですか?
少年事件であっても、示談の成立は処分を軽くする大きな要素になります。被害者が処罰を望まない姿勢を示せば、家庭裁判所が軽い保護処分(または不処分)を選ぶ可能性が高まります。
Q6:14歳未満の少年が事件を起こした場合、刑事責任は問われませんか?
少年法上、14歳未満は刑事責任を問えず、家庭裁判所の管轄で児童福祉法などの枠組みで適切な保護が図られる形となります。警察が逮捕することはありませんが、児童相談所などが関与し、保護方針を決定します。
Q7:少年法適用の事件で弁護士を依頼するメリットは何ですか?
弁護士(付添人)が事件経緯を調査し、少年審判で更生環境を整えるサポートができます。家庭や学校との連携を促し、保護処分を最小限に抑えたり、非行の背景にある問題(家庭環境・学業不振など)を解消する道を提案したりできます。
Q8:少年院送致された場合、どれくらいの期間そこに入るのでしょうか?
少年院送致後の在院期間は年齢や在院種別(第一種、第二種、第三種など)によって異なります。原則として20歳に達するまでですが、更生の程度や態度次第で途中退院するケースもあります。
Q9:少年事件で逆送されるケースとは?
原則16歳以上で、殺人や強盗致傷など重大事件の場合、家庭裁判所が「刑事処分相当」と判断すれば検察官に送致(逆送)し、成人同様の刑事裁判を受ける流れになります。そこで懲役刑などが科され、少年刑務所に服役する可能性もあります。
Q10:非行歴があると、大人になってからの量刑にも影響しますか?
少年事件で保護処分を受けた事実は、成年後の刑事手続きで参照要素となる場合があります。再犯として「常習性がある」と見られ、量刑が厳しくなる可能性もあります。ただし、少年時代の処分は前科ではなく、扱いは成人の前科ほど重くはありません。
解説
少年事件の原則:家庭裁判所主導
少年法は「少年の健全育成」を目的としており、刑罰よりも保護に重点を置きます。したがって、非行事実があっても、まず家庭裁判所が非行の背景や家庭環境を調査し、保護処分を行うという流れが通常です。刑事裁判で量刑に直結するのは、重大事件で検察官送致(逆送)される場合に限られます。
保護処分の種類
- 保護観察:少年が自宅等で生活しながら保護観察所の監督指導を受ける
- 児童自立支援施設送致:環境上問題があり、自立支援が必要な場合
- 少年院送致:より深刻な非行で、社会内での教育が難しいと判断された場合
逆送と刑事処分
16歳以上の少年が重大犯罪(殺人、強盗致死傷など)を起こした場合、家庭裁判所が「刑事処分相当」と判断すれば、検察官に事件を送り返し、成人と同様の刑事裁判が行われる。ここで有罪となれば懲役刑などが科され、少年刑務所で服役することになる。
量刑(保護処分)に影響する要素
- 非行の態様・結果:凶悪性、被害者の負傷度合い、被害金額など
- 少年の環境:家庭環境の問題、学校での状況、交友関係など
- 再非行の可能性:過去の非行歴や改善の余地
- 保護者の監督体制:父母がしっかり監督できるか、経済的基盤はあるか
- 謝罪・弁償の有無:被害者への賠償や和解の状況
成人との主な違い
- 処分の目的:少年法は教育・更生が主眼(刑罰が主眼ではない)
- 手続きの非公開:少年のプライバシー保護
- 保護処分の柔軟性:施設送致や保護観察など多彩な形態
- 逆送要件:重大事件では成人同様の刑事裁判に移行可能
弁護士に相談するメリット
家庭裁判所での弁護人(付添人)活動
少年法では、付添人弁護士が少年審判での主張を行い、家庭裁判所が適切な処分(あるいは不処分)を選ぶようサポートします。家庭環境や学校状況の改善策、反省文、保護者の協力などをまとめて、少年の更生可能性を強調できます。
検察官送致(逆送)阻止
重大事件であっても、弁護士が少年の事情や反省・賠償状況を詳しく説明し、家庭裁判所に対して「少年審判での処遇が相当」と説得すれば、逆送を回避できる場合があります。これによって少年院送致や保護観察で済む可能性が高まります。
示談・謝罪による処分軽減
少年事件でも、被害者との示談は大きな影響を及ぼします。弁護士が示談交渉を行い、処罰感情を和らげることで、家庭裁判所が「社会内で更生させる方が適切」と判断する可能性が高まります。
更生プログラムの立案
暴力・性犯罪・薬物に関連する非行などでは、専門のカウンセリングや施設を活用することで再非行防止を具体的に打ち出せます。弁護士が協力機関を紹介し、審判時に「すでに更生プログラムを開始している」事実を示すことで保護処分が軽くなる場合があります。
まとめ
未成年者(少年事件)の量刑と保護処分は、成人の刑事裁判とは大きく異なり、教育的観点からのアプローチが重視されます。家庭裁判所による保護処分が中心ですが、重大事件では検察官送致(逆送)され、成人同様の刑罰が科されることもあり得ます。以下の要点を押さえ、少年事件の当事者や保護者は弁護士と連携して最適な対策を行うことが大切です。
- 少年法による保護主義
刑罰ではなく保護処分で更生を促すのが基本。 - 保護処分の種類
保護観察、児童自立支援施設、少年院送致など多様。 - 重大事件は逆送リスク
16歳以上の殺人・強盗などでは成人と同じ刑事裁判。 - 示談や家庭環境整備が重要
被害者の処罰感情を和らげる、家族の監督体制を整備するなどで処分軽減。 - 弁護士の付添活動
家庭裁判所での弁論、検察官送致阻止、示談交渉などを通じて少年に適した処分を得る。
少年事件で捜査中・審判中の方や、その保護者の方は、弁護士法人長瀬総合法律事務所へ早期にご相談することもご検討ください。付添人として家庭裁判所での手続きや更生支援策を万全に整え、少年が社会復帰しやすい環境を実現するための弁護活動を全力で行います。
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