はじめに
交通事故を起こした加害者にとって、刑事処分(懲役・罰金など)だけでなく、行政処分(免許停止や取消、違反点数加算など)も同時に進行する重大な問題です。とりわけ、自動車運転免許を失うと仕事や生活に大きな支障が生じるケースが少なくありません。たとえば営業職のドライバーが免許取消となれば、解雇や転職を余儀なくされる可能性が高まります。
本稿では、交通事故を起こした際に免許にかかるリスク(点数加算・免許停止・免許取消)がどのように決定されるのか、またどう対策すればいいのかについて解説します。刑事手続きとは別に行われる行政処分の仕組みを理解し、可能な範囲で生活や仕事への影響を軽減するために知っておきたいポイントをまとめました。
Q&A
Q1:交通事故で人身事故を起こしたら、免許にどのような処分が下されますか?
事故態様や被害者のケガの程度、加害者側の違反歴などによって、違反点数が加算されます。一定の点数を超えると免許停止や取消の対象となる仕組みです。たとえば人身事故で重傷を負わせた場合などは一度で大幅に点数が加算され、免許取消となるケースが少なくありません。
Q2:違反点数はどのように計算されるのでしょうか?
警察庁が定める点数表に基づいて、事故や違反の内容に応じた点数が加算されます。たとえば飲酒運転は13点以上(酒酔い運転は35点)と非常に高い点数が一気に付与され、一発で免許取消となることもあります。詳しい点数表は警察や運転免許センターのHPなどで確認できます。
Q3:免許停止と免許取消の違いは何ですか?
- 免許停止
一定期間(30日、60日、90日など)運転できなくなるが、期間終了後は自動的に免許が回復する。 - 免許取消
免許自体が失効し、再取得するまで運転不可となる。さらに再取得には欠格期間があり、数か月から最長10年程度までの期間中は免許を取得できません。
Q4:欠格期間が終わったらすぐに免許を再取得できますか?
欠格期間が終了しても、自動的に免許が復活するわけではありません。再度運転免許試験(学科・技能)に合格しなければなりません。特に大きな違反(飲酒運転・ひき逃げなど)で取消になった場合は、試験の難易度や手続きの煩雑さ、追加の講習受講などが必要になる場合があります。
Q5:刑事処分で不起訴や執行猶予を得たら、免許取消を免れますか?
刑事手続きと行政処分は独立しているため、刑事処分が軽くても行政処分が厳しいケースは普通にあります。逆に、免許取消になっても刑事処分が必ず重いとは限りません。両者はそれぞれ独自の基準で進められます。
Q6:聴聞会ではどのように主張すれば免許取消や停止を回避できるのですか?
運転免許停止や取消前に「意見の聴取(聴聞会)」が行われる場合があります。その場で事実関係の誤りや特別な事情(業務上どうしても必要、家族の通院など)を主張し、処分の軽減や点数の再評価を求めるのです。ただし大幅な軽減は限られており、悪質な違反では認められにくいのが現状です。
Q7:免許取り消しになったら、いつから再取得できますか?
欠格期間が終了すれば再取得の手続きを進めることが可能になります。欠格期間は3年、5年、10年など違反内容によって大きく異なり、途中で短縮講習を受講できる場合もあるので、詳細は運転免許センターや弁護士に確認するとよいでしょう。
Q8:会社で運転を必須とする業務に就いており、免許取消されたら解雇されるかもしれません。対処法はありますか?
法的には、会社が業務上必要不可欠な免許がなくなったとして解雇を検討するのはやむを得ない場合も多いです。とはいえ、弁護士が聴聞会や刑事裁判で軽減を目指し、免許停止で済むように働きかける、あるいは会社と相談して配置転換を検討するなど、できる限りの対応はあります。
Q9:免許停止期間中に運転するとどうなりますか?
免許停止中の運転は無免許運転扱いとなり、道路交通法違反としてさらに重い行政処分や刑事処分が科される恐れがあります。欠格期間が延長されるだけでなく、検察官から厳重に立件され、実刑に発展する場合もあるので絶対に避けましょう。
Q10:弁護士に依頼すれば免許の行政処分を回避できるのですか?
弁護士が行政処分そのものを取り消す権限を持っているわけではありませんが、聴聞会の意見陳述や行政不服申立てで事実関係の誤りを指摘し、処分の軽減を求めるサポートが可能です。刑事事件の結果や示談状況を併せて伝え、少しでも良い結果につなげる余地はあります。
解説
免許の点数制度と交通事故
日本の免許制度では、一定期間内に違反点数が累積すると、免許停止や取消などの処分が科される仕組みになっています。特に人身事故の場合、基本点数に加え、被害者のケガの程度(加害者に重大な過失があるかどうか)などを考慮して合計点数が付与されます。
- 軽傷(15日以上30日未満の治療)
加点の幅が小さいが、他の違反と合わされば取消になる可能性がある - 重傷(30日以上の治療)
一度の事故で6点以上になることもあり、過去の違反歴次第で取消に直結 - 死亡事故
最も厳しい点数加算が想定され、一発取消が原則
免許停止と取消の基準
- 免許停止
- 累積点数が一定基準に達した場合
- 停止期間は30日・60日・90日などが多い
- 停止期間満了後、自動的に免許が有効に戻る
- 免許取消
- 累積点数が大幅に基準を超える場合
- 欠格期間(1年~10年など)終了まで再取得不可
- 飲酒運転やひき逃げなどは一発で取消となる事案が多い
重大事故での処分例
- 飲酒運転死亡事故:危険運転致死罪で長期実刑+免許取消
- ひき逃げで重傷事故:実刑率が高く、免許取消はほぼ必須
- 無免許状態での事故:刑事処分が重いだけでなく、そもそも免許がないため再取得には長い欠格期間が設定される場合もある
刑事事件と行政聴聞
免許取り消しなどの行政処分が決定される前に、公安委員会が「意見の聴取(聴聞会)」の機会を与える場合があります。これは加害者に弁明の余地を与えるための手続きですが、飲酒運転やひき逃げなどの悪質なケースでは、主張の余地があまりなく取消が確定的となることが多いのが実情です。
弁護士ができる対策
- 事実誤認の訂正
点数加算や被害者のケガの程度に誤りがある場合、聴聞会などで資料や証拠を提示し、実際の事実と異なる点を指摘。 - 会社や家族の監督体制の説明
聴聞で「仕事上どうしても免許が必要」などの事情をアピールすれば、停止期間を短くしてもらえる余地が微かに存在。 - 刑事処分の結果や示談状況の報告
すでに被害者との示談が成立し、刑事処分が軽い(不起訴や罰金刑にとどまった)などを提示し、反省と更生の姿勢を強調。
弁護士に相談するメリット
免許停止・取消の回避や期間短縮を図れる
弁護士が行政処分前の聴聞会に同行したり、陳述書を作成したりすることで、事実関係の誤りを正し、過去の軽微な違反を含めたトータルの違反経緯を丁寧に説明し、処分の軽減(免許停止期間の短縮や取消の回避)を目指せる場合があります。
刑事処分との並行対応
刑事事件で罰金刑や執行猶予などを目指す弁護活動と、行政処分の対策を並行して進めるのが理想です。弁護士が全体を俯瞰し、捜査機関・被害者・免許行政当局とのやり取りを一括して管理することで、矛盾なく対応でき、依頼者の負担を軽減します。
再発防止策の提示
弁護士が加害者の生活状況をヒアリングし、再発防止策(たとえば飲酒運転の防止、通勤手段の見直しなど)を計画的に整備することで、行政処分の軽減や刑事裁判での情状評価を高めることが期待できます。「もう一度運転を認めても大丈夫」という印象を少しでも与えられれば、免許再取得までの道筋が開けるかもしれません。
精神的サポート
免許取消や停止は、職業ドライバーや通勤に車が必須の人にとって、大きな生活の変化を強制される状況です。弁護士が法的手続きの見通しを提示しながら、職場や家族への対策についてもアドバイスし、不安を少しでも軽減できるようにします。
まとめ
交通事故加害者が直面する免許の点数・停止・取り消しリスクは、刑事手続きとは別に進むため、刑事処分が軽くても自動的に処分が緩くなるわけではない点に注意が必要です。以下のポイントを把握し、被害者との示談や行政手続きへの準備を進めることが大切です。
- 違反点数制度の仕組み
人身事故では一度で大きく点数が加算され、免許停止・取消が現実的となる。 - 行政処分と刑事処分は独立
刑事裁判で無罪や執行猶予になっても、取り消しを回避できるわけではない。 - 飲酒運転・ひき逃げなどは一発取消が基本
欠格期間も長く設定され、再取得が非常に厳しくなる。 - 聴聞会での意見陳述が最後のチャンス
事実誤認や特別の事情をアピールし、軽減を求める。 - 弁護士によるサポート
刑事手続きと行政手続きの両面で戦略を立て、再発防止策や情状弁護を絡めながら少しでもリスクを抑える。
万が一、事故を起こして免許停止・取消のリスクが迫っている方や、すでに行政処分の通知を受けてどう対処すればよいか分からないという方は、弁護士へ一度ご相談ください。捜査機関への対応や被害者との示談、そして行政処分に関する聴聞手続きまで、幅広くサポートし、依頼者の生活基盤を守るための最適な策をご提案いたします。
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