はじめに
自動車事故を起こした際には、運転者には被害者の救護や警察への通報など、適切な対処を行う義務が課されています。ところが、実際には「パニックを起こして、そのまま現場を離れてしまった」「過失がばれるのを恐れて逃走した」などの理由で、事故後にその場を立ち去る行為、いわゆる「ひき逃げ」や「当て逃げ」が後を絶ちません。これは社会的にも悪質性が高いとみなされ、立件されれば厳しい刑事責任を問われるおそれがあります。
- ひき逃げ
人身事故が発生し、被害者が負傷あるいは死亡しているにもかかわらず救護せずに立ち去る行為 - 当て逃げ
物損事故(他車や壁、ガードレールなどに衝突)を起こしながら、現場から立ち去る行為
被害者にとっては、加害者が救護せず走り去る行為は二次被害を招く可能性も高く、社会的にも強い批判が巻き起こります。本稿では、ひき逃げ・当て逃げに該当するケースや、適用される罪名(救護義務違反など)、実際に下される刑事処分や行政処分、さらに早期に弁護士へ相談するメリットなどを解説します。
Q&A
Q1:ひき逃げと当て逃げは、法律上どう区別されているのでしょうか?
- ひき逃げ
人身事故(被害者が負傷・死亡)を起こしながら救護や警察通報をせずに逃走する行為 - 当て逃げ
物損事故(人の負傷がない)を起こして、警察への報告や適切な対応をせず現場を立ち去る行為
人身事故か物損事故かで適用される法的処分や罪名が異なります。とくにひき逃げは社会的非難が強く、刑事処分が重くなりがちです。
Q2:ひき逃げは具体的にどのような罪に問われるのですか?
一般的には道路交通法72条違反(救護義務違反・報告義務違反)が適用されます。さらに事故の態様次第では、過失運転致傷(致死)や危険運転致傷(致死)が併合される可能性が高く、結果として実刑リスクが大幅に高まります。
Q3:当て逃げの場合も刑事責任を負うのでしょうか?
はい。物損事故でも、「警察への報告義務を怠った」等の理由で道路交通法違反として刑事責任を問われる場合があります。人身事故ほど厳罰化されない傾向はありますが、免許停止や取消などの行政処分も併せて下される可能性が高いです。
Q4:ひき逃げ・当て逃げをした原因が、例えば「気づかなかった」とか「怖くて逃げた」という場合でも厳しく処罰されるのでしょうか?
「気づかなかった」という主張が通るには、客観的に見ても衝撃などを察知できなかったときに限られます。多くの場合、「本当は気づいていたのでは」と捜査機関が厳しく問いただすことになります。また、「怖くて逃げた」という理由は法的には通用しにくく、却って悪質性が高いとみなされる傾向があります。
Q5:ひき逃げ事故で被害者が死亡したら、どのような罪になるのでしょうか?
人身事故で被害者が死亡した場合は、過失運転致死罪や危険運転致死罪などが適用される余地があります。さらに救護義務違反が加わり、併合罪としてより重い刑が科されるリスクが高まります。悪質な態様が認められれば、実刑判決となる可能性が極めて高いです。
Q6:ひき逃げ・当て逃げ事故で実刑はどのようなケースで下されるのでしょうか?
代表的には下記のようなケースで実刑となる可能性が高いです。
- 被害者が重傷・死亡している場合
- 飲酒や薬物使用が背景にあり、悪質と判断される場合
- 過去にも交通違反や前科があり、常習性が高いとみなされる場合
- 救護義務違反の程度が著しく、被害者が助からなかった一因となったと評価される場合
Q7:ひき逃げ・当て逃げ後に示談を成立させれば、刑が軽くなりますか?
示談は量刑において重要な情状要素となり、処罰感情が和らげば起訴猶予や執行猶予付き判決につながる可能性が上がります。ただし、ひき逃げ行為自体の悪質性が強い事案では、示談が成立しても実刑を免れないケースも少なくありません。
Q8:ひき逃げの後に自分で警察に出頭した場合は評価されますか?
事故後すぐに自首や出頭をした場合、捜査機関・裁判所が「遅れながらも自発的に対応した」として多少の情状酌量を認めることがあります。しかし、被害者を救護せず逃げた事実は重い責任として残るため、大幅な減刑は難しい可能性もあります。
Q9:事故の加害者が知らぬ間に当て逃げしてしまい、後日警察から連絡を受けるケースはどうなりますか?
本人が「本当に気づかなかった」場合は、事実関係を丁寧に立証する必要があります。警察の捜査や周囲の証言、ドライブレコーダー映像などを分析し、衝撃や音を認識できなかったことを証明できれば処罰が軽くなる可能性がありますが、安易に「気づかなかった」と言い逃れると逆に信用を失うリスクもあります。
Q10:ひき逃げや当て逃げをした直後、まず何をすべきでしょうか?
被害者がいる場合は救護を行い、現場を離れずに警察に通報することが最優先です。もし既に離れてしまった場合は、一刻も早く弁護士に連絡のうえ、自首・出頭を検討してください。弁護士を通じて被害者との示談を進め、刑事処分を軽減する努力をすることが重要です。
解説
ひき逃げ・当て逃げが厳しく処罰される理由
- 被害拡大の可能性
救護されなかった被害者が、適切な治療を受けられず命にかかわる事態になる恐れがある。 - 責任放棄の態度
事故を起こしておきながら逃げる行為は著しく社会的信用を失墜させ、モラルに反すると見なされる。 - 捜査・立件の困難化
逃走されると事故の真相究明が難しくなり、被害者保護を妨げる要因となる。
ひき逃げ(人身事故)は特に悪質性が高いと判断され、救護義務違反(道路交通法72条1項前段)や報告義務違反(道路交通法72条1項後段)などが適用されます。
刑事処分の流れ
- 警察の捜査
事故現場検証、目撃証言、ドライブレコーダー映像などから加害車両や運転者を特定。 - 送検(書類送検・逮捕)
加害者を特定したうえで検察庁へ事件送致。 - 検察官の判断(起訴・不起訴)
ひき逃げや当て逃げの態様・被害の程度などを考慮。悪質と判断すれば起訴が基本線。 - 公判・裁判
過失運転致傷(致死)や危険運転致傷(致死)とともに救護義務違反を併合して起訴され、裁判で有罪が認められると重い刑罰が下されやすい。
併合罪による重罰化
ひき逃げの場合、人身事故を起こしたうえでの逃亡行為が認定されると、過失運転致傷(致死)や危険運転致傷(致死)といった罪名と救護義務違反が併合罪として扱われます。結果的に、それぞれの罪の刑罰を合わせた形で量刑が重くなるリスクがあります。
- 過失運転致傷(致死)+救護義務違反
- 危険運転致傷(致死)+救護義務違反
たとえば、危険運転致死罪の法定刑は1年以上20年以下の懲役ですが、さらに救護義務違反が併合されると、実刑判決となる可能性が高まります。
示談の意味と限界
ひき逃げ・当て逃げ事故では、被害者との示談が成立すれば、検察官や裁判所の判断材料として「加害者が一定の責任を果たしている」と評価される余地があります。しかし、救護義務違反という行為自体の悪質性が大きいので、示談によっても実刑を回避できない事例も少なくありません。
行政処分(免許取消・欠格期間など)
ひき逃げ・当て逃げによる人身事故の場合、免許取消がほぼ確実です。欠格期間が3年〜10年など長期に設定されることもあり、刑事処分と別に生活への大きな打撃となります。当て逃げでも、状況次第では取消や長期停止となるケースが存在します。
弁護士に相談するメリット
捜査段階からのサポート
ひき逃げ・当て逃げ事故は、事故直後の対応が一番重要です。もし逃げた後であっても、早めに弁護士へ相談すれば、自首・出頭の手順や警察への説明方法など、適切な対応を指南してもらえます。捜査機関が悪質と評価する要素を最小化できる可能性があります。
示談交渉と被害者対応
弁護士が間に入り、被害者との誠意ある示談交渉を進めることで、処罰感情をやわらげる努力ができます。特に人身事故で被害者が重傷を負った場合、加害者自身での交渉は精神的につらく、かつトラブルが生じるリスクが高いため、専門家のサポートが必須です。
情状弁護の構築
ひき逃げの社会的非難は強く、実刑が視野に入る案件が多いですが、弁護士が再発防止策や家族の監督体制、仕事・生活環境の整備などを詳細に示すことで、執行猶予を求める可能性を探ることができます。実際の裁判例でも、示談や情状証拠が整えば一部では執行猶予判決が得られる場合もあるのです。
行政処分への備え
弁護士は刑事裁判だけでなく、行政処分(聴聞会など)においても、どのように意見を述べれば欠格期間の短縮を図れるかアドバイスを行えます。免許取り消しが確定的な事案でも、可能な限り生活への影響を抑えるサポートを受けられます。
まとめ
ひき逃げ・当て逃げは、交通事故の中でも非常に悪質と見なされる行為であり、被害者救護義務の欠如により社会的非難が大変厳しいものとなります。事故後に現場を離れることで捜査を混乱させるだけでなく、被害者の救命率を下げるなど重大な結果を招きかねません。加害者にとっては、以下の点を深く認識して対応する必要があります。
- 事故直後に取るべき行動の重要性
現場に留まり、救護と警察への通報を最優先。これを怠ると重大な法的リスクへ。 - 救護義務違反が加わると重罰化
過失運転致傷や危険運転致傷と併合罪になる可能性が高く、実刑リスクが大きく上昇。 - 示談は不可欠だが限界も
示談成立があっても、ひき逃げ自体の悪質性が強いと重い刑罰を避けられない場合がある。 - 早期弁護士相談でリスクを軽減
取り調べ対応や被害者との示談交渉を専門家がサポートし、情状弁護を適切に行う。 - 行政処分も覚悟が必要
免許取消や長期欠格期間で、刑事処分が軽くても日常生活に大きな影響を及ぼす。
万が一、ひき逃げ・当て逃げをしてしまった、あるいは事故後に現場を離れてしまったという場合でも、一刻も早く弁護士にご相談ください。捜査段階の対応方法や被害者との示談、裁判での弁護方針などを包括的にサポートし、少しでも不利な結果を回避するための最善策を見つけるお手伝いをいたします。
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