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窃盗罪の刑罰とは?懲役刑か罰金刑か、判断基準を弁護士が解説

2025-08-26
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はじめに

コンビニでの万引き、駅に置き忘れたカバンを持ち去る置き引き、住宅に侵入して金品を盗む空き巣…。これらはすべて、刑法上の「窃盗罪」にあたる犯罪です。窃盗罪は、私たちの身の回りで最も多く発生する犯罪の一つであり、その手口や被害額も様々です。

「万引きくらいなら、大した罪にはならないだろう」と、軽い気持ちで考えている方もいるかもしれません。しかし、その認識は大きな間違いです。窃盗罪の法定刑には、財産だけでなく自由をも奪う「懲役刑」が定められており、決して侮れない犯罪なのです。

では、どのような場合に比較的軽い罰金刑で済み、どのような場合に懲役刑という重い処分が下されるのでしょうか。その運命の分かれ道は、どこにあるのでしょうか。

この記事では、窃盗罪の具体的な刑罰の内容と、裁判官が懲役刑か罰金刑かを判断する際の重要な基準について解説します。

Q&A

Q1. 窃盗は今回が初めてです。初犯であれば、必ず罰金刑で済みますか?

必ずしもそうとは限りません。初犯であることは、刑罰を決める上で非常に有利な事情となりますが、それが全てではありません。例えば、初犯であっても、被害額が数百万円と非常に高額であったり、住居に侵入して盗むなど犯行態様が悪質であったりする場合、たとえ初犯でも懲役刑が科される可能性は十分にあります。ただし、そのような場合でも、弁護士を通じて被害者との示談を成立させることができれば、実刑ではなく執行猶予付き判決を得られる可能性は高まります。

Q2. 「執行猶予」とは何ですか?懲役刑でも、刑務所に行かなくて済むのですか?

はい、その通りです。執行猶予とは、裁判で懲役刑や禁錮刑の有罪判決を言い渡されるものの、その刑の執行を一定期間(1年から5年)猶予するという制度です。その猶予期間中、再び罪を犯すことなく真面目に生活すれば、言い渡された刑の効力は失われ、刑務所に行く必要はなくなります。ただし、執行猶予付き判決も、紛れもない有罪判決であり、「前科」はつきます。あくまで「社会内で更生するチャンス」が与えられた状態と理解してください。

Q3. 盗んだお金や品物は、すぐに返しました。これでも刑罰は軽くなりますか?

はい、刑罰が軽くなる重要な要素となります。盗んだものを返す行為は「被害弁償」といい、被害者の財産的被害を回復させる、きわめて重要な行動です。しかし、単に物を返すだけでは不十分な場合が多いです。検察官や裁判官がより重視するのは、被害者の処罰感情が和らいでいるかという点です。そのためには、被害者が受けた精神的苦痛や迷惑に対する「慰謝料」も含めて支払い、被害者の方から「許し(宥恕)」を得る「示談」を成立させることが、不起訴処分や刑の減軽を勝ち取る上で最も効果的です。

解説

窃盗罪の成立要件と、幅の広い法定刑

まず、窃盗罪がどのような犯罪かを法律の条文から確認します。

窃盗罪(刑法第235条)
「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」

成立要件

  • 「他人の財物」
    他人が事実上支配している(占有している)物全般を指します。お店に陳列されている商品や、他人のカバンの中の財布などが典型例です。
  • 「窃取した」
    持ち主(占有者)の意思に反して、その物を自分の支配下に移すことを言います。

この条文の最大の特徴は、法定刑の幅が非常に広いことです。「10年以下の懲役」と「50万円以下の罰金」という、上限と下限の間に大きな隔たりがあります。これは、数百円の万引きから、何億円もの被害を出す大掛かりな窃盗団による犯行まで、あらゆる「盗む」という行為をこの一つの条文でカバーしているためです。そのため、個別の事件でどのような刑罰が科されるかは、裁判官の裁量に大きく委ねられています。

【法改正情報】

2022年6月に刑法が改正され、これまで「懲役刑」(刑務作業が義務)と「禁錮刑」(刑務作業が義務ではない)に分かれていた自由刑が、2025年までに「拘禁刑」として一本化されることになりました。これにより、受刑者の特性に応じた柔軟な処遇が可能になると期待されています。

拘禁刑か罰金刑か?運命を分ける5つの判断基準

裁判官は、刑罰の重さ(量刑)を決定するにあたり、以下の表に示すような要素を総合的に考慮します。

考慮要素罰金刑等の軽い処分に有利な事情懲役刑等の重い処分に不利な事情
① 被害額数千円~数万円程度の少額数十万円以上の高額
② 犯行態様衝動的、偶発的な犯行計画的、組織的、住居侵入を伴うなど悪質
③ 前科・前歴初犯である同種の窃盗前科がある(累犯加重のリスク)
④ 示談・被害弁償示談が成立し、被害者が宥恕している示談不成立で、被害者が厳罰を望んでいる
⑤ 反省・更生意欲深く反省し、再犯防止策を講じている反省の態度が見られない、犯行を否認している

以下、各項目を詳しく見ていきましょう。

① 被害額の大小

これが、量刑を左右する最も重要な要素と言えます。盗んだ物の金銭的価値が高ければ高いほど、被害の結果は重大であり、犯行は悪質と評価されます。

  • 被害額が数千円~数万円程度
    初犯で示談が成立していれば、不起訴や罰金刑となる可能性が高いです。
  • 被害額が数十万円以上
    懲役刑(執行猶予を含む)が視野に入ってきます。
  • 被害額が数百万円以上
    初犯であっても、実刑判決となるリスクが高くなります。

② 犯行態様の悪質性

被害額だけでなく、「どのように盗んだか」も厳しく評価されます。

  • 計画性の有無
    その場の出来心による衝動的な万引きか、あるいは事前に下見をしたり、道具を準備したりした計画的な犯行か。後者の方が、悪質性は高いとされます。
  • 手段・方法
    単に商品を盗るだけでなく、住居や店舗に侵入する(住居侵入罪・建造物侵入罪も別途成立)、防犯タグを破壊する、集団で役割分担して行うといった行為は、悪質と見なされます。
  • 犯行の目的
    生活に困って食べ物を盗んだ、というケースと、転売して利益を得る目的で盗んだケースとでは、後者の方が悪質性が高く、厳しい処分が予想されます。

③ 前科・前歴(特に同種前科)の有無

被告人が、過去に犯罪歴があるかどうかは、量刑に大きな影響を与えます。

  • 初犯の場合
    深く反省し、示談も成立していれば、寛大な処分が期待できます。
  • 前科・前歴がある場合
    特に、過去にも窃盗事件を起こしている「同種前科」がある場合は、「全く反省していない」「規範意識が欠如している」と見なされ、実刑判決のリスクが格段に高まります。法律上も、一定期間内に再び罪を犯した場合に刑を加重する「累犯加重」の規定があります。

④ 【最重要】示談の成否と被害弁償の有無

検察官が起訴・不起訴を判断する際や、裁判官が量刑を判断する際に、最も重視するのが、この示談の成否です。

  • 示談成立
    被害者に対して、盗んだ物の代金(被害弁償)に加え、慰謝料・迷惑料を支払い、被害者から「許す(宥恕する)」という意思表示を得ることです。これができれば、被害者の処罰感情が和らいだと評価され、不起訴処分や罰金刑で済む可能性が飛躍的に高まります。
  • 示談不成立
    被害弁償もせず、被害者が厳罰を望んでいる状態では、検察官は起訴せざるを得ず、裁判官も厳しい判決を下す傾向にあります 1

⑤ 本人の反省と更生意欲

被告人本人が、自分の犯した罪と真摯に向き合い、深く反省しているかどうかも重要な情状です。

  • 反省の態度
    反省文を作成したり、法廷で誠実な態度を示したりすることが求められます。
  • 再犯防止への取り組み
    もし、窃盗がやめられない「クレプトマニア(窃盗症)」という病気の疑いがある場合は、専門の医療機関で治療を開始するなど、再犯防止に向けた具体的な行動を示すことが、更生の意欲の証明となり、有利な情状として考慮されます。

弁護士に相談するメリット

窃盗事件を起こしてしまった場合、弁護士はあなたの未来を守るために、様々な側面からサポートします。

最も重要な「示談交渉」を代行する

刑罰を軽くするために最も重要な活動である、被害者との示談交渉を、あなたに代わって迅速かつ円滑に進めます。被害弁償を行い、被害届の取下げや宥恕(許し)を得ることで、不起訴処分や罰金刑といった、最も有利な結果を目指します。

あなたに有利な事情を法的に主張する

犯行に至ったやむを得ない事情(生活困窮など)や、犯行態様が悪質でないこと、本人が深く反省していることなどを、説得力のある「意見書」としてまとめ、検察官や裁判官に提出し、寛大な処分を求めます。

クレプトマニア(窃盗症)への専門的な対応

窃盗を繰り返してしまう背景に、病気の可能性があると判断した場合、専門の医療機関を紹介し、診断や治療へとつなげます。そして、治療を受けているという事実を、更生の意欲を示す客観的な証拠として提出し、刑事処分において有利に働くよう主張します。

実刑判決を回避するための、最後の砦となる

たとえ起訴され、公判請求されてしまった場合でも、諦めません。法廷での弁論や情状証人の尋問などを通じて、被告人に有利な事情を最大限に訴え、実刑判決ではなく執行猶予付き判決を勝ち取るために、最後まで全力を尽くします。

まとめ

窃盗罪の刑罰は、「10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」と非常に幅広く、個別の事案の被害額、犯行態様、前科の有無、そして何よりも被害者との示談の成否といった要素を総合的に考慮して決定されます。

「これくらいなら大丈夫だろう」という安易な考えは、懲役刑という取り返しのつかない結果を招きかねません。

もし、あなたが窃盗事件を起こしてしまったのなら、軽い犯罪だと侮ることなく、直ちに弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。被害者の方への誠実な謝罪と賠償(示談)を一日も早く始めることが、実刑判決を回避し、あなたの人生を再スタートさせるための、重要で確実な一歩です。

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