はじめに
自動車やバイクを運転中に人身事故を起こしてしまったとき、運転者が受けるショックは計り知れません。「相手の方は大丈夫だろうか」という心配と同時に、「自分はこれからどうなってしまうのか」「刑務所に入らなければならないのか」「多額の賠償金を支払えるのか」といった不安が押し寄せ、パニックに陥ってしまうことも珍しくありません。
人身事故(人が死傷した交通事故)を起こした場合、加害者は法律上、性質の異なる「3つの責任」を同時に負うことになります。これらはそれぞれ別の機関が管轄し、異なる目的と手続きで進められますが、複雑に関連し合っている部分もあります。
この仕組みを正しく理解していないと、例えば「保険会社に任せているから大丈夫」と誤解して刑事手続きへの対応が遅れ、取り返しのつかない不利益(前科がつく、重い処分を受けるなど)を被る可能性があります。
本記事では、人身事故の加害者が直面する「刑事責任」「行政責任」「民事責任」について、それぞれの内容や手続きの流れ、そしてこれらがどのように関わり合っているのかを解説します。現状を整理し、適切な対処を行うためのガイドとしてお役立てください。
人身事故の責任に関するQ&A
まずは、人身事故の当事者が最初に抱く疑問について、要点を絞って回答します。
Q1. 人身事故を起こすと、必ず「3つの責任」すべてを負うのですか?
基本的には、人身事故であれば3つすべての責任が問われる可能性が高いですが、状況によります。
- 民事責任:相手に損害がある以上、ほぼ必ず発生します。
- 行政責任:違反点数が加算されるため、点数が基準に達すれば免許停止等の処分を受けます。
- 刑事責任:過失が極めて小さい場合や、被害者との示談が成立している場合などは、「不起訴(お咎めなし)」となり、刑罰を受けずに済むこともあります。
Q2. 任意保険に入っていますが、警察や裁判の対応もしてくれますか?
いいえ、してくれません。
保険会社が代行してくれるのは、主に「民事責任(被害者への賠償)」に関する示談交渉だけです。「刑事責任(警察の取り調べや裁判)」や「行政責任(免許の点数や処分)」については、保険会社は関与できません。ご自身の身を守るためには、別途、弁護士に依頼する必要があります。
Q3. 会社にバレずに解決することはできますか?
絶対にバレないとは言い切れませんが、適切な対応により可能性を下げることはできます。
警察に逮捕・勾留されず、在宅で捜査が進む場合(在宅事件)、通常通り出勤することは可能です。しかし、免許停止処分を受ければ運転業務ができなくなりますし、正式な裁判になれば平日に出廷する必要があります。早期に弁護士に相談し、身柄拘束の回避や不起訴を目指すことが、職場への発覚を防ぐためにも重要です。
人身事故で問われる「3つの責任」の全体像
人身事故を起こした加害者は、以下の3つの責任を負います。まずはそれぞれの「目的」と「管轄」の違いを整理しましょう。
| 責任の種類 | 目的 | 主な内容 | 管轄・決定機関 |
| 1. 刑事責任 | 社会の秩序維持・制裁 | 懲役、禁錮、罰金 | 警察、検察、裁判所 |
| 2. 行政責任 | 交通の安全確保(危険の排除) | 免許取り消し、免許停止 | 公安委員会 |
| 3. 民事責任 | 被害者の救済・損害の補填 | 損害賠償(治療費、慰謝料等) | 被害者(保険会社)、裁判所 |
これらは「別々の手続き」で進みますが、「民事での示談成立が、刑事処分の軽重に影響する」といったように、密接な関連性を持っています。以下、それぞれの責任について詳細を見ていきましょう。
【刑事責任】国から科される刑罰
刑事責任とは、法律(刑法や自動車運転死傷処罰法など)に違反した犯罪行為に対して、国が科す制裁のことです。人身事故の場合、もっとも重い責任と言えます。
適用される主な罪名
人身事故で問われる罪は、主に以下の2つです。
過失運転致死傷罪
- 一般的な前方不注意や安全確認不足によって人を死傷させた場合に適用されます。
- 刑罰:7年以下の拘禁刑、または100万円以下の罰金。
危険運転致死傷罪
- アルコールや薬物の影響、制御困難な高速度、あおり運転(妨害運転)など、悪質で危険な行為によって死傷させた場合に適用されます。
- 刑罰(負傷):15年以下の拘禁刑。
- 刑罰(死亡):1年以上の有期拘禁刑(最高20年)。
- ※危険運転致死傷罪には「罰金刑」がなく、起訴されれば公開の法廷での裁判となり、実刑判決のリスクが高まります。
また、ひき逃げ(救護義務違反)をした場合は、道路交通法違反も加わり、さらに重い刑罰が科されます。
刑事手続きの流れ
事故発生後、刑事手続きは以下のように進行します。
- 捜査(警察)
- 実況見分や取り調べが行われます。
- 逃亡や証拠隠滅の恐れがある場合は逮捕・勾留されますが、そうでない場合は在宅事件として、普段の生活を送りながら呼び出しに応じて取り調べを受けます。
- 送致(送検)
- 事件の書類や証拠が警察から検察官に送られます。
- 起訴・不起訴の判断(検察)
- 検察官が、被疑者を裁判にかけるかどうかを決定します。
- 起訴:裁判所に対して審理を求めます(公判請求または略式請求)。
- 不起訴:裁判を行わず、事件を終了させます。前科はつきません。
- 裁判・判決
- 略式手続:書類審査のみで罰金を支払って終了します(前科になります)。
- 公判手続:法廷で審理を行い、拘禁刑(実刑または執行猶予)や罰金刑などの判決が下されます。
「前科」の影響
起訴されて有罪判決(略式命令の罰金刑を含む)を受けると、「前科」がつきます。前科がつくと、一部の国家資格(医師、看護師、教員など)の取得や更新に制限がかかったり、海外渡航(ビザ取得)に影響が出たりする場合があります。
そのため、刑事弁護においては、まず「不起訴処分」を獲得することが最大の目標となります。
【行政責任】運転免許に対する処分
行政責任とは、将来の道路交通の安全を守るために、危険性のある運転者を排除、あるいは矯正するための処分です。公安委員会が管轄します。
点数制度の仕組み
日本の運転免許制度では、過去3年間の違反点数の累積によって処分が決まります。人身事故の場合、以下の2種類の点数が合算されます。
基礎点数
事故の原因となった違反に対する点数です。
- 安全運転義務違反:2点
- 信号無視:2点
- 酒気帯び運転:13点または25点 など
付加点数(交通事故の付加点数)
被害者の怪我の程度(治療期間)と、加害者の過失の程度(不注意の大きさ)によって決まります。
- 死亡事故:20点(専ら過失)/13点(その他)
- 重傷(30日以上):9点〜13点
- 軽傷(30日未満):3点〜6点
処分の種類
累積点数と「前歴(過去3年以内に免停などの処分を受けた回数)」に応じて、以下のいずれかの処分が下されます。
免許停止(免停)
一定期間(30日〜180日)、運転ができなくなります。講習を受けることで期間が短縮される場合があります。
免許取り消し
免許を強制的に没収されます。さらに「欠格期間(1年〜10年)」の間は、教習所に通うことも免許を取り直すこともできません。
例えば、前歴がない状態で「一時不停止(2点)」により「相手に全治1ヶ月の怪我(付加点数9点)」を負わせた場合、合計11点となり、60日間の免許停止処分となります。
意見の聴取
90日以上の免許停止や免許取り消し処分に該当する場合、処分決定前に「意見の聴取」という手続きが行われます。ここで、事故の経緯や反省の情、車が生活に不可欠である事情などを訴えることで、処分が軽減(例:取り消し→長期停止)される可能性があります。
【民事責任】被害者への損害賠償
民事責任とは、被害者が被った損害をお金で償う責任です。民法上の「不法行為責任」および自動車損害賠償保障法に基づく「運行供用者責任」が問われます。
賠償すべき損害の内訳
人身事故の損害賠償は、大きく3つに分類されます。
- 積極損害(出費した費用)
- 治療費、入院費、通院交通費、付添看護費、義肢などの装具代、葬儀費用など。
- 消極損害(得られるはずだった利益)
- 休業損害:怪我で仕事を休んだために減った収入。
- 逸失利益:後遺障害が残ったり死亡したりしたことで、将来得られるはずだったのに得られなくなった収入。
- 慰謝料(精神的苦痛への賠償)
- 入通院慰謝料:入通院したことに対する精神的苦痛。
- 後遺障害慰謝料:後遺障害が残ったことに対する精神的苦痛。
- 死亡慰謝料:被害者が死亡したことに対する精神的苦痛(遺族固有の慰謝料含む)。
保険会社の役割
通常、自動車保険(任意保険)に加入していれば、保険会社が窓口となって被害者と交渉し、賠償金を支払います(示談代行)。
ただし、保険会社が提示する賠償額は、裁判所の基準(弁護士基準)よりも低い「任意保険基準」であることが一般的です。また、加害者に重過失がある場合や、保険の適用外となるケースでは、加害者個人が直接請求を受けることもあります。
「3つの責任」の相互関係と弁護士の役割
これら3つの責任は、それぞれ独立していますが、「民事(示談)」の結果が「刑事」に大きな影響を与えるという点が重要です。
示談成立の重要性
刑事手続きにおいて、検察官が起訴するかどうか、あるいは裁判官が量刑(罰金の額や執行猶予の有無)を決める際、「被害者と示談が成立しているか」は重要な判断材料となります。
示談が成立し、被害者から「処罰を求めない(宥恕)」という意思表示が得られれば、不起訴処分となる可能性が高まります。逆に、示談ができていないと、反省が不十分とみなされ、処罰が重くなる傾向があります。
なぜ弁護士が必要なのか
ここで問題になるのが、保険会社の役割の限界です。
保険会社の限界
保険会社は「適正な賠償金を支払うこと」が仕事であり、「加害者の刑事処分を軽くすること」を目的としていません。そのため、示談交渉のスピードが刑事手続きの期限(起訴判断のタイミング)に間に合わないことがあります。また、示談書の中に「加害者を許す(宥恕条項)」という文言を入れることにも消極的な場合があります。
弁護士の役割
弁護士(弁護人)は、加害者の刑事責任を軽減するために活動します。
- 迅速な示談交渉:検察官の処分が決まる前に、被害者に対して誠心誠意謝罪し、早急な示談成立を目指します。
- 宥恕条項の獲得:単にお金を払うだけでなく、被害者の許しを得るための交渉を行います。
- 行政処分の軽減:「意見の聴取」に出席し、意見書を提出して処分の軽減を求めます。
- 身体拘束の解放:逮捕・勾留された場合、早期に釈放されるよう働きかけます。
このように、「保険会社任せ」ではカバーできない領域(刑事・行政)をサポートできるのが弁護士です。
弁護士法人長瀬総合法律事務所に相談するメリット
人身事故の加害者となってしまった場合、孤独と不安の中で多くの判断を迫られます。当事務所にご依頼いただくことで、以下のようなメリットがあります。
専門的な刑事弁護による処分の回避・軽減
交通事件に精通した弁護士が、事故の状況を詳細に分析し、不起訴処分や罰金刑の回避、執行猶予の獲得に向けて全力を尽くします。被害者感情に配慮した丁寧な示談交渉により、円満な解決を目指します。
生活への影響を最小限に抑える活動
逮捕・勾留の回避や早期釈放に向けた活動、および免許取り消しの回避に向けた意見聴取のサポートなどを行い、お仕事や学校などの日常生活を守るための弁護活動を展開します。
精神的な支えとトータルサポート
刑事、行政、民事のすべての手続きにおいて、次に何が起こるかを予測し、適切なアドバイスを行います。「誰にも相談できない」という孤独感を解消し、依頼者が前を向いて再出発できるよう、精神面でも寄り添います。
まとめ
人身事故を起こすと、「刑事責任(刑罰)」「行政責任(免許処分)」「民事責任(損害賠償)」という3つの重い責任が生じます。これらは複雑に絡み合っており、特に民事上の示談の成否は、刑事処分の結果を大きく左右します。
- 刑事責任:拘禁刑や罰金などの刑罰。前科がつくリスクがある。
- 行政責任:免許停止や取り消し。仕事や生活に直結する。
- 民事責任:被害者への金銭的な補償。保険会社が対応するが、刑事への配慮は限定的。
最悪の事態(実刑判決や免許取り消しなど)を避けるためには、事故直後の早い段階で、これら全体を見渡した戦略的な対応が必要です。
保険会社任せにせず、まずは交通事件・刑事事件の経験豊富な弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。あなたの未来と生活を守るために、私たちが全力でサポートいたします。
次にあなたがすべきこと
ご自身の事故について、「免許がどうなるか知りたい」「警察に呼び出されているが不安だ」といった具体的なお悩みがある場合は、弁護士の初回相談をご利用ください。刑事手続きは時間との勝負です。手遅れになる前に、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
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