薬物事件で執行猶予付き判決を得るためのポイントと具体的な再犯防止策

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はじめに

覚醒剤や大麻などの薬物事件で起訴されてしまった…。逮捕、勾留という厳しい捜査を経て、いよいよ刑事裁判に臨むことになったとき、被告人とそのご家族が目指すべき最大の目標は、「実刑判決を回避し、執行猶予付き判決を勝ち取ること」です。

執行猶予がつけば、判決で拘禁刑を言い渡されても、すぐに刑務所に行く必要はなく、社会生活を送りながら、専門家の助けを借りて、薬物依存からの回復を目指すことができます。それは、まさに人生をやり直すための、最後のチャンスと言えるでしょう。

しかし、薬物犯罪は再犯率が非常に高く、社会に与える悪影響も大きいことから、裁判所はきわめて厳しい姿勢で審理に臨みます。「初犯だから、きっと執行猶予がつくだろう」という安易な期待は、禁物です。

この記事では、薬物事件の裁判で、執行猶予付き判決を得るために、被告人とその家族が何をすべきなのか、裁判官が重視するポイントはどこにあるのか、そしてそのための具体的な再犯防止策について解説します。

Q&A

Q1. 覚醒剤の単純使用で、今回が初めての逮捕です。この場合、執行猶予はつきますか?

執行猶予がつく可能性はありますが、100%ではありません。一般的に、覚醒剤の単純使用の初犯であれば、判決は「拘禁刑1年6月、執行猶予3年」が相場とされています。しかし、これは、被告人が法廷で罪を素直に認め、深く反省し、二度と薬物に手を出さないための具体的な取り組みを示していることが大前提です。もし、法廷で不合理な言い訳をしたり、反省の態度が見られなかったり、あるいは保釈中に再び薬物関係者と接触したりといった事情があれば、初犯であっても実刑判決が下されるリスクは十分にあります。

Q2. 薬物事件で執行猶予を獲得するために、一番大事なことは何ですか?

一言で言えば、「裁判官に『この人は、もう二度と薬物をやらないだろう』と、本気で信じてもらうこと」です。そして、そのためには「もうやりません」という言葉だけでなく、客観的で具体的な「行動」を示すことが不可欠です。その最も重要な行動が、①専門の医療機関や回復支援施設に繋がり、治療・回復プログラムを開始すること、そして、②家族が本人を厳しく監督し、支えていく具体的な体制(監督環境)を整えること、この2つです。

Q3. 執行猶予期間中に、また薬物を使って逮捕されてしまいました。どうなりますか?

原則として、執行猶予は取り消され、実刑判決となります。これを「執行猶予の必要的取消し」といいます。例えば、前回の事件で「拘禁刑1年6月、執行猶予3年」の判決を受け、その3年の猶予期間中に再び薬物を使用して「拘禁刑1年」の判決を言い渡された場合、今回の1年に加え、前回の1年6ヶ月も合わせた、合計2年6ヶ月間、刑務所に収監されることになります。執行猶予期間中の再犯は、裁判所からの信頼を裏切る行為であり、厳しい結果が待っています。

解説

1.執行猶予とは?社会内で更生するための「最後のチャンス」

まず、執行猶予制度について、正確に理解しておく必要があります。

  • 執行猶予:有罪判決として拘禁刑などが言い渡されるものの、その刑の執行を一定期間(1年~5年)猶予し、その期間を無事に過ごせば、刑の言渡しの効力が消滅する制度です。
  • 前科:執行猶予付き判決も、有罪判決であることに変わりはないため、「前科」はつきます。
  • 猶予期間中の再犯:Q3で解説した通り、猶予期間中に再び罪を犯して禁錮以上の刑に処せられた場合、猶予は取り消され、前回の刑と今回の刑を合わせた期間、服役しなければならなくなります。

執行猶予は、まさに「社会内で更生するための最後のチャンス」であり、このチャンスをどう活かすかが、その後の人生を大きく左右します。

2.執行猶予か、実刑か。裁判官が重視する判断ポイント

裁判官は、判決を言い渡すにあたり、被告人を社会内で更生させるのが妥当か、それとも刑務所での矯正教育が必要かを、以下のようないくつかの事情を総合的に考慮して判断します。裁判官の最大の関心事は「この被告人は、本当に薬物をやめられるのか?」という一点に尽きます。

① 事件自体の悪質性

  • 薬物の種類:大麻よりも、依存性が高いとされる覚醒剤やヘロインの方が、厳しい判断がなされやすいです。
  • 犯行態様:個人的な使用・所持よりも、薬物汚染を拡大させる営利目的での譲渡などが認定されれば、実刑のリスクは飛躍的に高まります。
  • 薬物の量:所持量が多ければ、それだけ依存の根が深い、あるいは営利目的が疑われる、と判断されます。

② 同種前科の有無

これが、量刑を左右する最も決定的な要素の一つです。

  • 初犯:真摯な反省と、後述する再犯防止策が示されれば、執行猶予となる可能性が高いです。
  • 同種前科あり:特に、前回の執行猶予期間が満了して間もない再犯(いわゆる「明けの再犯」)の場合、「社会内での更生は困難」と判断され、実刑判決となる可能性が高くなります。

③ 被告人の反省と、具体的な再犯防止への取り組み

言葉だけの反省では不十分です。裁判官は、反省を裏付ける具体的な「行動」を求めます。この点が、弁護活動の最大の焦点となります。

3.執行猶予を獲得するための、具体的な「行動」とは

「反省しています。二度とやりません。」この言葉を、具体的な「行動」で証明する必要があります。弁護士は、以下の取り組みをサポートし、それを裁判官に効果的に伝えます。

行動①:専門機関に繋がり、「病気」として治療を開始する

薬物依存は「意志の弱さ」ではなく、「病気」です。その病気を治すためには、専門家の助けが不可欠です。

  • 専門の医療機関:精神科や心療内科の、薬物依存治療を専門とする医師の診察を受け、治療プログラム(SMARPPなど)を開始します。
  • 回復支援施設:ダルク(DARC)のような民間の回復支援施設に入寮(または通所)し、同じ悩みを持つ仲間と共に、回復プログラムに取り組みます。

裁判では、これらの施設の担当者や主治医に情状証人として出廷してもらい、本人の治療への真摯な取り組みを、専門家の視点から証言してもらうことが極めて有効です。

行動②:薬物との関係を物理的に断ち切る「環境調整」

本人の意思の力だけに頼るのではなく、物理的に薬物に手を出せない環境を整えることが重要です。

  • 交友関係の清算:薬物を使用するきっかけとなった友人・知人との連絡を完全に断ち、スマートフォンを解約・機種変更するなど、具体的な行動で示します。
  • 生活環境の刷新:薬物を使用していた一人暮らしのアパートを引き払い、家族の監視が届く実家に戻るなど、生活の拠点そのものを変えます。

行動③:家族による鉄壁の「監督体制」を構築する

家族のサポートは、裁判官に「この人には、社会内に受け皿がある」と安心してもらうための、強力な材料となります。

  • 具体的な監督計画:家族が「監督計画書」を作成し、「定期的に本人の許可を得て尿検査を実施します」「給料は家族が管理し、小遣い制にします」といった、具体的な監督プランを裁判所に誓約します。
  • 家族の情状証人:裁判では、ご両親や配偶者に情状証人として出廷してもらい、「家族として、二度と本人を孤独にさせず、責任をもって更生を支えていきます」という固い決意を、法廷で述べてもらいます。

弁護士に相談するメリット

薬物事件で執行猶予を勝ち取るためには、これらの再犯防止策を、ただ行うだけでなく、裁判官に響く形で「プレゼンテーション」する必要があります。

執行猶予獲得への、トータルプロデュース

弁護士は、ご本人の状況に合わせ、どの医療機関に繋がるのが最適か、どのような監督環境を構築すべきか、といった更生へのロードマップを設計します。

客観的証拠の作成と提出

治療計画書、医師の診断書、施設の入所証明書、家族の陳述書といった、あなたの取り組みを証明する客観的な証拠を収集・作成し、裁判所に提出します。

情状証人との、効果的な打ち合わせ

家族や施設の担当者が、法廷で、あなたの更生にとって最も有利な証言を、的確かつ説得力をもって述べられるよう、事前に尋問のシミュレーションなどを通じて、綿密な打ち合わせを行います。

被告人の更生への決意を代弁する、最終弁論

これまでの全ての取り組みを、最終弁論で主張します。「被告人には、これだけの更生の意欲と、それを支える環境がある。彼を刑務所に送ることは、この更生の芽を摘むことになる。どうか、社会の中で治療を継続させるという、最後のチャンスを与えてほしい」と、裁判官に訴えかけます。

まとめ

薬物事件で執行猶予付き判決を得るためには、「もう二度と薬物はやらない」という決意を、「専門的な治療」「薬物との関係遮断」「家族の監督」という、誰の目にも明らかな「具体的な行動」で証明することが不可欠です。

言葉だけの反省は、もはや通用しません。治療プログラムに通い、真面目に働き、家族に支えられているという「事実」こそが、裁判官の心を動かし、あなたに社会でやり直すためのチャンスを与えてくれるのです。

もし、あなたが薬物事件で起訴されてしまい、実刑判決の恐怖に苛まれているのなら、どうか人生を諦めないでください。私たちが、あなたの更生への第一歩を、法的な側面からでサポートします。

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