2025年最新改正対応|侮辱罪の厳罰化とは?SNSでの誹謗中傷、名誉毀損との違い

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はじめに

近年、SNSの普及に伴い、誰もが気軽に情報を発信できるようになった一方で、その匿名性を悪用したインターネット上での誹謗中傷が深刻な社会問題となっています。画面の向こう側にいる相手へ投げかけられた心ない言葉は、被害者の心を深く傷つけ、その社会的生命を脅かし、時には取り返しのつかない悲劇につながることもあります。

このような状況を受け、社会からは悪質な誹謗中傷行為に対して、より厳格な法的対応を求める声が高まりました。その結果、2022年7月7日、刑法が改正され、「侮辱罪」の法定刑が大幅に引き上げられる「厳罰化」が施行されました。これは、ネット上の誹謗中傷を抑止し、被害者救済をより確実なものにするための、国による重要な一歩です。

この記事では、法律事務所のホームページとして、法的知見を求める一般の方々に向けて、侮辱罪とはどのような犯罪なのか、2022年の法改正で具体的に何が変わったのか、そして混同されがちな名誉毀損罪との違いは何か、といった点を網羅的に解説します。さらに、実際に被害に遭ってしまった場合に、弁護士とともにどのような法的措置をとることができるのか、具体的なステップを追いながらご説明します。

Q&A:侮辱罪に関するよくあるご質問

Q1: SNSで「バカ」「キモい」と書かれました。これは犯罪になりますか?

はい、犯罪になる可能性があります。このような表現は、具体的な事実を指摘するものではなく、相手に対する抽象的な軽蔑や価値判断を示すものであるため、「侮辱罪」に該当する典型的な例です。犯罪が成立するかどうかの重要なポイントは、その書き込みが「公然と」行われたかどうかです。インターネット上では、不特定多数の人が閲覧できるSNSのタイムライン、掲示板、ニュース記事のコメント欄などへの投稿は、原則として「公然」の要件を満たすと考えられています。

Q2: 侮辱罪の「厳罰化」で、具体的に何がどう変わったのですか?

2022年の法改正による主な変更点は3つです。

第一に、法定刑が「拘留または科料」という非常に軽いものから、「1年以下の懲役もしくは禁錮(2025年6月1日からは『拘禁刑』に一本化)もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」へと大幅に引き上げられました。

第二に、犯人を起訴できる期間(公訴時効)が1年から3年に延長されました。

第三に、これまでは罰せられなかった、侮辱行為をそそのかした人(教唆犯)や手助けした人(幇助犯)も処罰の対象となりました。

これにより、侮辱罪は決して軽視できない重大な犯罪と位置づけられることになりました。

Q3: 「侮辱罪」と「名誉毀損罪」のどちらで訴えるべきか、どう判断すればよいですか?

どちらの罪で訴えるべきかの判断は、問題となっている表現に「具体的な事実の摘示」が含まれているかどうかで決まります。例えば、単に「あいつは無能だ」と書けば侮辱罪の問題となります。一方で、「あいつは会社の金を横領してクビになった」というように、真実か嘘かにかかわらず、具体的な事実を挙げて社会的評価を低下させた場合は名誉毀損罪の問題となります。名誉毀損罪の方が法定刑は重いですが、成立要件が異なります。個別のケースでどちらの罪が適切か、またどのような戦略で進めるべきかを判断するには専門的な知識が必要ですので、弁護士に相談することが不可欠です。

第1部:侮辱罪とは?~2022年の厳罰化とその影響~

侮辱罪が成立する4つの要件

侮辱罪は、刑法第231条に定められています。この犯罪が成立するためには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。

① 事実を摘示せずに

これは、後述する名誉毀損罪との最も大きな違いです。具体的な事実を挙げるのではなく、抽象的な言葉で相手を侮辱する場合にこの要件を満たします。例えば、「バカ」「アホ」「ブス」「キモい」「死ね」といった表現や、相手を動物にたとえるような蔑称などがこれにあたります。

公然と

「公然と」とは、不特定または多数の人がその内容を認識できる状態を指します。インターネット上のSNSや掲示板への投稿はもちろん、会社の同僚が複数いる前での発言や、多数に送信されたメールなどもこの要件を満たします。重要なのは、実際に何人が見たかではなく、「見られる可能性があったか」という点です。

人を

侮辱の対象が、特定されている必要があります。個人(自然人)はもちろん、企業などの法人や、法人格のない団体も対象となりえます。ただし、「政治家は皆嘘つきだ」「〇〇社の社員はだめだ」といったように、対象が漠然とした集団である場合には、特定の「人」に向けられたものとは言えず、侮辱罪は成立しません。

侮辱すること

「侮辱」とは、相手の社会的評価を低下させるに足りる軽蔑の意思を表示することです。ここで保護されるのは、被害者個人の「傷ついた」という感情(名誉感情)そのものではなく、社会における客観的な評価です。そのため、被害者がどれだけ主観的に不快に感じたとしても、客観的に見てその人の社会的評価を低下させるような表現でなければ、侮辱罪は成立しません。

    厳罰化による3つの主要な変更点

    2022年7月7日に施行された改正刑法は、侮辱罪のあり方を大きく変えました。この法改正は、単なる法改正ではなく、テクノロジーの進化によって深刻化した社会問題に対する立法府の明確な意思表示と言えます。かつて刑法典の中で最も軽い刑罰しか定められていなかった侮辱罪が、現代社会におけるその深刻な実害に見合った、より強力な法的抑止力を持つ犯罪へと生まれ変わったのです。

    法定刑の引き上げと「拘禁刑」の導入

    改正前は「拘留(1日以上30日未満の身柄拘束)または科料(1,000円以上1万円未満の金銭罰)」のみでした。これが2022年の改正で、「1年以下の懲役若しくは禁錮、30万円以下の罰金」が追加され、従来の拘留・科料も残る形となりました。

    さらに、2025年6月1日からは、この懲役刑と禁錮刑が廃止され、新たに「拘禁刑」に一本化されます。拘禁刑は、従来の刑務作業の義務の有無による区別をなくし、受刑者一人ひとりの特性に応じた処遇(改善更生のための指導や就労支援など)を行うことを目的とした、より社会復帰を重視した刑罰です。これにより、悪質なケースでは刑事施設に収容されるという重い処罰が科される可能性が生まれ、犯罪としての重大性が格段に上がりました。

    公訴時効の延長

    公訴時効、つまり検察官が犯人を起訴できる期間が、改正前の1年から3年へと延長されました。これは、インターネット上の匿名投稿者を特定する手続き(発信者情報開示請求)に時間がかかるという実情を考慮した、非常に重要な変更です。改正前は、被害者がようやく投稿者を特定した頃には、既に1年の時効が成立してしまい、刑事責任を問えないというケースが少なくありませんでした。時効が3年に延長されたことで、被害者が泣き寝入りすることなく、加害者の刑事責任を追及できる可能性が大きく広がりました。

    教唆犯・幇助犯の処罰対象化

    改正前の法律では、侮辱行為を直接実行した本人しか罰することができませんでした。しかし、改正により、他人をそそのかして侮辱的な投稿をさせた「教唆犯」や、投稿を手助けした「幇助犯」も処罰の対象となりました。これにより、集団で特定の個人を攻撃するような、ネットいじめの主犯格や協力者に対しても、刑事責任を問うことが可能になったのです。

          なお、この改正法には、施行から3年後に表現の自由への影響などを検証する見直し規定が盛り込まれており、社会の変化に対応しようとする立法府の姿勢がうかがえます。

          表1:侮辱罪の新旧比較

          項目改正前改正後
          法定刑拘留 または 科料1年以下の懲役・禁錮(※)、または30万円以下の罰金、または拘留・科料 ※2025年6月1日より「拘禁刑」に一本化
          公訴時効1年3年
          教唆犯・幇助犯処罰対象外処罰対象
          逮捕の可能性限定的拡大

          第2部:SNS時代の侮辱罪と名誉毀損罪

          ネット社会における「公然性」の拡大

          SNSが日常に浸透した現代において、侮辱罪や名誉毀損罪の成立要件である「公然性」の解釈は、従来とは大きく異なっています。かつて「公然」とは、街頭や集会など、物理的に人が集まる場所を指すのが一般的でした。しかし、インターネットの世界では、情報の拡散力が本質的に異なります。

          法的な観点から見ると、デジタル空間における「公然性」は、その情報が最初に公開された時点での閲覧者の数よりも、その情報が技術的に拡散しうる「伝播可能性」によって判断されます。これは、一見するとプライベートな空間が、法的には公共の広場として扱われるという、現代特有の状況を生み出しています。例えば、数人しかいないLINEのグループチャットや、鍵付きのSNSアカウントへの投稿であっても、その内容がスクリーンショット等で外部に流出する可能性があれば、「公然性」が認められることがあります。ユーザーが「プライベートな設定にしているから大丈夫」と考えていても、法的にはそう判断されないリスクがあるのです。この点は、SNSを利用するすべての人が理解しておくべき重要なポイントです。

          侮辱罪と名誉毀損罪の決定的違い:「事実の摘示」

          侮辱罪と名誉毀損罪を分ける最も決定的な違いは、「具体的な事実を摘示」したかどうかという点にあります。この違いを理解することが、ご自身の被害がどちらにあたるのかを判断する第一歩となります。

          • 侮辱罪(事実の摘示がない)
            個人の主観的な価値判断や、抽象的な罵詈雑言がこれにあたります。
            具体例:「あいつはバカだ」「〇〇はブス」「本当に気持ち悪い人間だ」
          • 名誉毀損罪(事実の摘示がある)
            その内容が真実か虚偽かを問わず、人の社会的評価を低下させるに足りる具体的な事実を指摘することがこれにあたります。
            具体例:「Aは前科持ちだ」「B部長は部下のCさんと不倫している」「あの飲食店は賞味期限切れの食材を使っている」

          さらに、両罪には法的な防御方法においても重要な違いがあります。名誉毀損罪には、刑法第230条の2に定められた「公共の利害に関する場合の特例」という規定が存在します。これは、摘示された事実が①公共の利害に関わるものであり、②その目的が専ら公益を図ることにあり、かつ、③その内容が真実であると証明された場合には、罰せられないというものです。例えば、政治家の汚職を告発する報道などがこれに該当します。

          一方で、侮辱罪にはこのような特例規定は存在しません。たとえ公益目的であったとしても、事実の摘示を伴わない単なる侮辱行為は、処罰の対象となり得るのです。

          表2:侮辱罪と名誉毀損罪の比較

          項目侮辱罪名誉毀損罪
          事実の摘示不要必要
          具体例「バカ」「キモい」「死ね」「Aは前科持ちだ」「B社は脱税している」
          法定刑1年以下の拘禁刑(※)、30万円以下の罰金等3年以下の拘禁刑(※)、50万円以下の罰金等
          公共の利害に関する特例適用なし適用あり
          ※2025年6月1日より、懲役刑と禁錮刑は「拘禁刑」に一本化されました。

          弁護士に相談するメリット

          インターネット上で誹謗中傷の被害に遭ったとき、精神的に大きなショックを受け、どうしてよいか分からなくなるのは当然のことです。しかし、泣き寝入りする必要はありません。弁護士に相談することで、法的な手続きを通じて加害者の責任を追及し、被害を回復するための具体的な道筋が見えてきます。ここでは、弁護士ができることを3つのステップに分けて解説します。

          ステップ1:【特定】匿名の加害者を突き止める「発信者情報開示請求」

          SNSや匿名掲示板での誹謗中傷の多くは、誰が投稿したのか分からない状態で行われます。そのため、法的責任を追及するための最初のステップは、この匿名の投稿者を特定することです。この手続きを「発信者情報開示請求」といい、「情報流通プラットフォーム対処法」という法律に基づいて行われます。この法律は、従来の「プロバイダ責任制限法」が改正され、名称が変更されたものです。

          従来、投稿者を特定するためには、①まずX(旧Twitter)などのサイト運営者(コンテンツプロバイダ)に対してIPアドレス等の開示を求め、②次にそのIPアドレスから判明したNTTやソフトバンクなどの接続業者(アクセスプロバイダ)に対して契約者の氏名・住所の開示を求める、という2段階の裁判手続きが必要で、時間も費用もかかるものでした。

          しかし、2022年10月の法改正により、「発信者情報開示命令」という新たな裁判手続きが創設されました。この制度を利用すれば、裁判所に対して一度の申立てを行うだけで、サイト運営者と接続業者の両方に対する開示命令を一体的に進めることができ、手続きの大幅な迅速化と費用の低減が期待できます。

          この発信者情報開示命令は、専門的な法律知識を要する複雑な手続きです。被害者ご自身で進めることは困難であり、申立書の作成から裁判所とのやり取りまで、専門家である弁護士のサポートが不可欠です。

          ステップ2:【追及】加害者の法的責任を問う

          投稿者の身元が特定できたら、次はその法的責任を追及する段階に移ります。これには、民事上の責任追及と刑事上の責任追及の2つの側面があります。

          民事上の責任追及(損害賠償請求)

          誹謗中傷によって受けた精神的苦痛に対して、加害者に金銭的な賠償を求めることができます。これを「慰謝料請求」といいます。

          慰謝料の相場は、被害の内容によって異なりますが、裁判例を見ると、侮辱罪に該当するケースでは数万円~10万円程度、名誉毀損罪に該当するケースでは個人で10万円~50万円程度が一つの目安となります。

          ここで重要なのは、加害者に請求できるのは慰謝料だけではないという点です。加害者を特定するためにかかった弁護士費用などの「調査費用」も、損害の一部として加害者に請求することが認められています。侮辱罪の慰謝料額自体は高額ではないかもしれませんが、投稿者を特定するための費用を加害者に負担させることができるため、被害者が金銭的に大きな負担を負うことなく、正義を実現することが可能になるのです。これは、費用面で法的措置をためらっている被害者にとって、大きな後押しとなるでしょう。

          刑事上の責任追及(刑事告訴)

          加害者に刑事罰を受けてほしいと望む場合には、警察に「告訴状」を提出し、刑事事件として捜査してもらう「刑事告訴」という手続きをとります。侮辱罪も名誉毀損罪も「親告罪」といい、被害者からの告訴がなければ検察官は犯人を起訴することができません。

          しかし、警察は多忙であり、特にインターネット上のトラブルについては、被害の申告をすぐには受理してくれないケースも少なくありません。このような場合、弁護士が代理人となることで、法的要件を整理した告訴状を作成し、証拠を揃え、警察と粘り強く交渉することで、告訴を受理させ、捜査を開始させることが期待できます。

          ステップ3:【解決】精神的負担の軽減と最善の解決策

          弁護士に依頼する最大のメリットの一つは、被害者が加害者と直接やり取りをする必要がなくなることです。弁護士がすべての窓口となり、交渉を進めるため、被害者は精神的な負担から解放され、平穏な日常を取り戻すことに専念できます。

          また、侮辱罪の厳罰化は、単に加害者を厳しく罰するためだけのものではありません。これは、民事上の示談交渉において、被害者側の立場を強力にする切り札となります。改正前は、加害者が負うリスクは拘留(30日未満)若しくは科料(1万円未満)でした。しかし今では、「拘禁刑」というリスクを負うことになります。

          この「刑事罰のリスク」を背景に、弁護士は加害者との示談交渉を有利に進めることができます。単にお金で解決するだけでなく、①ウェブサイト上での謝罪文の掲載、②関連するすべての投稿の削除、③今後一切同様の行為を行わないという誓約書の締結など、被害者の名誉を回復し、将来の再発を防ぐための包括的な解決を目指すことが可能になるのです。このように、民事と刑事の両面からアプローチを戦略的に組み立てることで、被害者にとって最善の解決を実現することができるのです。

          まとめ

          2022年の刑法改正により、侮辱罪はもはや「軽い犯罪」ではなくなりました。SNSでの心ない一言が、拘禁刑や高額な罰金につながる可能性がある重大な犯罪行為と位置づけられたのです。誹謗中傷の被害に遭った際には、その表現が「事実の摘示」を伴わない侮辱罪なのか、伴う名誉毀損罪なのかを見極めることが重要です。そして、被害者には「発信者情報開示命令」という、迅速かつ効果的に匿名の加害者を特定するための強力な法的ツールが用意されています。

          インターネット上の誹謗中傷は、放置すればするほど拡散し、被害は深刻化していきます。決して一人で抱え込まず、また「仕方ない」と諦める必要はありません。法的措置をとることは、単なる報復ではなく、ご自身の尊厳を回復し、加害者にその行為の責任を正しく認識させ、さらなる被害の拡大を防ぐための正当な権利です。

          これらの法的手続きは複雑であり、専門的な知識と経験が不可欠です。もしあなたが誹謗中傷の被害に遭い、どうすればよいか分からずに悩んでいるのであれば、できるだけ早く、インターネットトラブルに精通した弁護士に相談することが、解決への最も確実な第一歩です。

          弁護士法人長瀬総合法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷に関するご相談を積極的にお受けしております。秘密は厳守いたしますので、まずはお気軽にお問い合わせいただき、あなたの状況をお聞かせください。私たちが、あなたの権利と尊厳を取り戻すためのお手伝いをいたします。

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