はじめに
コンビニやスーパー、書店などで、出来心から商品を盗んでしまう「万引き」。たとえ被害額が数百円、数千円と少額であっても、万引きは刑法上の「窃盗罪」にあたる、れっきとした犯罪行為です。
もし、万引きが発覚し、警察沙汰になってしまった場合、逮捕されたり、前科がついたりといった最悪の事態を回避するために、最も重要で効果的な手段となるのが、「被害店舗との示談」です。
示談交渉では、単に盗んだ商品の代金(被害額)を弁償するだけでは、通常、お店側の納得は得られません。万引き行為によってお店が被った様々な損害に対する「迷惑料(慰謝料)」として、被害額に一定の金額を上乗せして支払うのが一般的です。
「一体いくら支払えば、お店は許してくれるのだろうか」「被害額に、いくら上乗せするのが相場なのだろうか」という疑問は、当事者にとってきわめて切実な問題でしょう。
この記事では、万引き事件における示談金の具体的な相場と、その内訳、そしてお店との示談交渉を円滑に進めるための重要なポイントについて解説します。
Q&A
Q1. 盗んだ商品は、お店にそのままお返ししました。それでも示談金は支払う必要があるのですか?
はい、支払うのが原則です。盗んだ商品を返したとしても、お店側から見れば、それは一度盗難被害に遭った「わけあり商品」であり、正規の価格で再販売することは困難です。そのため、商品価値が毀損されたとして、商品の正規販売価格相当額(被害額)の弁償を求められるのが通常です。それに加え、万引きの対応に費やした従業員の人件費や、本来得られたはずの販売機会の損失(機会損失)、精神的な迷惑に対する「迷惑料」も支払う必要があります。
Q2. お店から、被害額の何十倍もの法外な金額を示談金として請求されています。言われた通りに支払うべきでしょうか?
言われた通りに支払う必要はありません。被害店舗の怒りが強い場合、感情的に相場を大きく超える金額を請求してくるケースもあります。しかし、法的に賠償義務があるのは、あくまで実損害(被害額)と、社会通念上、妥当な範囲の迷惑料・慰謝料です。弁護士が間に入り、法的な根拠に基づいて、「相当因果関係のある損害」の範囲を冷静に交渉し、適正な金額での解決を目指す必要があります。不当な要求に屈する必要はありません。
Q3. 示談が成立すれば、警察に提出された被害届は、必ず取り下げてもらえますか?
示談交渉の目標として、被害届を取り下げてもらうことを目指します。しかし、大手チェーン店などでは、社内規定により「示談には応じるが、被害届の取下げには応じない」という方針を取っている場合があります。その場合でも、決して諦める必要はありません。示談が成立し、「加害者の処罰を望まない」という宥恕の意思が示された示談書を検察官に提出すれば、たとえ被害届が取り下げられなくても、検察官は不起訴処分とする可能性がきわめて高くなります。示談が成立したという事実自体が、きわめて有利な情状として考慮されることに変わりはありません。
解説
万引き事件における示談の重要性
万引きは、被害者(お店)が存在する犯罪です。そのため、刑事手続きにおいては、被害者の意思がその後の処分に大きな影響を与えます。
「示談」とは、当事者間の話し合いによって民事上の紛争を解決する合意のことですが、刑事事件においては、それ以上の重要な意味を持ちます。示談が成立し、被害店舗から「加害者の処罰を望まない」という許し(宥恕)を得ることができれば、検察官は「当事者間で事件は解決済みであり、国が刑事罰を科すまでの必要はない」と判断し、不起訴(起訴猶予)処分とする可能性が高くなるのです。
つまり、示談の成否は、前科がつくかどうかの運命を分ける、最も重要な鍵となります。
万引きの示談金の内訳【被害額+迷惑料】
万引き事件の示談金は、主に以下の2つの要素から構成されます。
① 被害弁償(被害額の実費弁償)
これは、あなたが盗んだ商品の正規販売価格です。賠償の基本となる部分であり、この支払いは必須です。前述の通り、商品を現物で返却したとしても、お店側としては商品価値が失われているため、金銭での賠償を求められるのが一般的です 1。
② 慰謝料・迷惑料(上乗せ分)
これが、被害額に加えて支払う「お詫びの気持ち」にあたる部分です。お店側が万引きによって被った、目に見える損害・目に見えない損害の全てを含みます。
- 万引き犯の対応に要した、従業員や警備員の人件費
- 警察の事情聴取などに応じたことによる、営業機会の損失
- 防犯カメラや防犯ゲートの設置・維持費用
- 被害に遭ったことによる、店長や従業員の精神的苦痛(慰謝料)
これらの損害を個別に算定するのは難しいため、包括的な「迷惑料」として、被害額に一定額を上乗せする形で支払うのが通例となっています。
示談金の「相場」を巡る真実
示談金の額に法的な決まりはなく、あくまでお店側との合意によって決まります。様々な情報源で「相場」が語られますが、実際にはケースバイケースであり、固定された「定価」は存在しません。
示談金の計算式:示談金 = 被害額(商品の代金) + 慰謝料・迷惑料
最も変動するのが「慰謝料・迷惑料」の部分であり、その金額は以下の要素によって大きく左右されます。
一般的な目安
被害額に加えて、数万円~20万円程度が迷惑料として上乗せされることが多いですが、これはあくまで交渉の一つの出発点です。被害額が少額であればあるほど、この迷惑料の割合が大きくなります。
お店の形態による違い
- 大手チェーン店(コンビニ、スーパー、書店など)
企業として、万引き対応のマニュアルが定められていることが多いです。「被害額のみの弁償でよい」「示談には一切応じない」「被害届の取下げはしない」など、方針が画一的に決まっている場合があり、個別の交渉が難しいこともあります。 - 個人経営の商店
店主の感情に大きく左右される傾向があります。真摯な謝罪が伝われば、比較的柔軟に対応してくれることもあれば、逆に強い怒りから高額な迷惑料を要求されることもあり、交渉の難易度はケースバイケースです。
示談金額を左右するその他の要素
- 被害額の大きさ
被害額が高額であれば、迷惑料も高く設定される傾向にあります。 - 犯行の悪質性
転売目的であったり、常習的であったり、あるいは店員に暴言を吐いたりした場合、お店側の怒りは大きく、示談交渉は難航し、金額も高騰しやすくなります。
示談交渉を成功させるための具体的な進め方
ステップ ① :弁護士が交渉の窓口となる
万引き事件で最もやってはいけないのが、加害者本人やその家族が、直接お店に謝罪や示談交渉に行くことです。お店側からすれば、犯人が再び店に現れること自体が恐怖であり、迷惑です。感情を逆なでし、「出入り禁止だ」「警察を呼ぶ」と、交渉のドアを完全に閉ざされてしまうリスクがきわめて高くなります。必ず、冷静な第三者であり、法律の専門家である弁護士に依頼し、交渉の窓口となってもらう必要があります。
ステップ ② :弁護士による謝罪と示談条件の提示
弁護士が、お店の責任者(店長や本社の担当部署)に連絡を取り、まずはあなたに代わって丁重に謝罪します。その上で、被害額の弁償と迷惑料の支払いによる、示談の申し入れを行います。
ステップ ③ :示談書の作成と締結
交渉がまとまれば、その合意内容を「示談書」という法的に有効な書面にします。示談書には、示談金の額や支払方法に加え、「被害店舗は加害者の寛大な処分を求める(宥恕条項)」「被害届を取り下げる」といった、あなたにとって有利な条項を盛り込めるよう、最大限交渉します。
弁護士に相談するメリット
- 交渉のテーブルを設定できる
加害者本人が接触を拒否される中、弁護士が介入することで、初めてお店側も冷静な話し合いのテーブルについてくれる可能性が生まれます。 - 企業の方針に合わせた的確な交渉
弁護士は、これまでの経験から、大手チェーン店などの企業がどのような示談方針を持っているかをある程度把握しています。その方針に合わせた、効果的で無駄のない交渉が可能です。 - 不当に高額な請求への対抗
お店側から、感情的に相場を大きく逸脱した迷惑料を請求された場合、弁護士が法的な観点からその不当性を指摘し、適正な金額での解決を目指します。 - 迅速な解決による、逮捕・勾留の回避
警察沙汰になった直後など、時間的な制約がある中で、弁護士が迅速に示談交渉を進めることで、逮捕される前、あるいは勾留が決まる前に事件を解決し、早期の身柄解放を実現できる可能性が高まります。
まとめ
万引き事件の示談金は、盗んだ商品の代金に、迷惑料として数万円から20万円程度上乗せした金額が、一つの大きな目安となります。しかし、これはあくまで目安であり、最終的な金額は交渉によって決まります。
そして、その示談交渉は、加害者本人が行うことは百害あって一利なしです。必ず、法律と交渉の専門家である弁護士に依頼してください。
示談を成立させ、被害店舗の許しを得ること。それこそが、万引きという過ちから立ち直り、前科がつくという最悪の事態を回避するための、最も確実な方法なのです。もし万引きで警察沙汰になってしまったら、金額の大小にかかわらず、直ちに弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。
その他の刑事事件コラムはこちら
初回無料|お問い合わせはお気軽に