はじめに
集団で一人を取り囲んで暴行を加える「集団リンチ」、友人が喧嘩しているのを横で「もっとやれ!」とはやし立てる、あるいは見張り役をする…。このように、複数人が関与する暴行・傷害事件は、一人で行う犯罪よりも、その態様が悪質で、被害者に与える恐怖も大きいことから、より重く処罰される傾向にあります。
このような事件に関与してしまったとき、「自分は直接手を出していないから、罪にはならないだろう」「自分は数回蹴っただけで、重傷を負わせたのは友人だ」といった言い訳が、果たして通用するのでしょうか。
答えは「ノー」です。日本の刑法には、「共謀共同正犯(きょうぼうきょうどうせいはん)」という、非常に重要な理論があります。これは、仲間と犯罪を計画(共謀)し、その計画に基づいて誰かが実行した場合、たとえ自分が直接手を下していなくても、あるいは少ししか関与していなくても、実際に暴行を加えた主犯格と同じ罪の責任を負うという原則です。
本稿では、複数人での暴行事件に適用される「共謀共同正犯」の考え方と、その場合に各人が負うべき刑事責任の範囲について、具体例を交えて解説します(具体例は実際の事例ではなく想定事例を前提に抽象化しています)。
Q&A
Q1. 友人がAさんと喧嘩しているのを、私は「やれ、やれ!」と横ではやし立てていただけです。殴ったりはしていません。それでも罪になるのですか?
はい、傷害罪や暴行罪の「共謀共同正犯」として、友人と同様の罪に問われる可能性が高いといえます。はやし立てるという行為は、友人の犯行意欲を煽り、犯行を精神的に手助けする重要な役割を果たしていると評価されます。その場で、友人と「Aさんを痛めつける」という共通の意思(共謀)が生まれたと判断されれば、たとえあなたが直接手を下していなくても、「一部実行、全部責任」の原則に基づき、友人がAさんに与えた傷害の結果全てについて、共同で責任を負うことになります。
Q2. 私も友人も、相手を殴りました。ただ、私は1発殴っただけで、友人は相手が倒れた後も10発以上殴り続けて重傷を負わせました。それでも同じ罪になるのは不公平ではありませんか?
「同じ傷害罪の共同正犯が成立する」という意味では、同じ罪になります。 あなたと友人の間に「相手に暴行を加えてやろう」という共謀があり、共同で暴行を加えた結果、相手が重傷を負ったのであれば、あなたもその重傷という結果全体に対して責任を負うのが原則です。しかし、最終的に裁判官が刑の重さ(量刑)を決める段階では、あなたの犯行への関与の度合い(1発しか殴っていないという事実)は、考慮されます。したがって、友人よりも軽い刑罰が科される可能性はあります。
Q3. 仲間たちと暴行を加えていましたが、途中で「これはやりすぎだ」と怖くなり、一人でその場を離れました。それでも、私が去った後の仲間の行為についてまで責任を負うのですか?
責任を負う可能性が高いといえます。共謀関係から離脱したと認められるためには、単に物理的にその場を離れるだけでは不十分とされています。あなたが離脱したと法的に評価されるためには、仲間を羽交い締めにしてでも止めようとしたり、警察に通報したりするなど、共謀関係を解消するための積極的な行動が必要となります。何も言わずに黙って立ち去っただけでは、あなたが去った後の仲間の暴行によって生じた結果についても、共同正犯としての責任を問われるリスクが残ります。
解説
「みんなでやった」という集団心理が、いかに重い責任につながるか。共謀共同正犯の理論を詳しく見ていきましょう。
「一部実行、全部責任」の原則 – 共謀共同正犯とは?
共謀共同正犯の根拠となるのは、刑法第60条です。
「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。」
この条文から導き出される「共謀共同正犯」が成立するためには、主に以下の2つの要件が必要です。
要件①:共謀(意思の連絡)
「二人以上」が、「共同して犯罪を実行しよう」という意思の連絡を取り合うことを指します。事前に綿密な計画を立てていなくても、「あいつを懲らしめてやろうぜ」とその場で暗黙の了解が成立すれば、共謀はあったと見なされます。言葉を交わさなくても、互いの行動から意思が通じ合っていると判断されれば十分です。
要件②:共謀に基づく実行行為
その共謀に基づいて、グループのうちの誰か一人が、計画された犯罪の実行行為の一部でも行えば、それで十分です。
そして、これらの要件が満たされると、「一部実行、全部責任」という原則が適用されます。これは、たとえ自分は暴行計画の一部(例えば見張り役)しか担っていなくても、あるいは少ししか暴行に加わっていなくても、仲間が行った行為の結果すべてについて、あたかも自分が全てを実行したかのように、全員が連帯して責任を負うという原則です。
あなたはどこまで責任を負う?具体例で見る適用範囲
ケース1:直接手を下していない「見張り役」や「煽り役」
主犯格のAが被害者を殴っている間、Bは見張り役として周囲を警戒し、Cは横で「もっとやれ!」とはやし立てていた。
この場合、BとCは直接手は下していません。しかし、Bの見張りやCの煽り行為は、Aが安心して暴行を続けることを可能にした、犯行にとって重要な役割を果たしています。A・B・Cの間には「被害者を痛めつける」という暗黙の共謀が成立しており、BとCもAと同じ傷害罪の共謀共同正犯となります。
ケース2:凶器を使用したのが仲間の一人だけだった場合
Aは素手で殴り、Bが突然ナイフを取り出して被害者を切りつけ、重傷を負わせた。
この場合、Aは「ナイフを使うことまでは合意していない」と主張するでしょう。もし、AがBのナイフ使用を全く予見できなかったのであれば、Aは傷害罪の責任は負いますが、より重い「凶器を使用した」という部分については責任を負わない可能性があります。しかし、「喧嘩の中で何が起こるか分からない」として、ある程度の凶器使用も予見可能だったと判断されれば、AもBと同じ重い責任を負うリスクがあります。
より罪が重くなる「集団的暴行」の特別法
複数人での暴行は、それ自体が悪質であるため、刑法とは別に、より重く処罰するための特別な法律が存在します。
暴力行為等処罰に関する法律(暴処法)第1条
集団の威力を示して(集団であることを背景に威圧して)暴行や脅迫などを行った場合や、凶器を示して暴行などを行った場合は、通常の刑法の暴行罪や傷害罪よりも重い刑罰が科されます。例えば、集団で暴行を加えた場合、通常の暴行罪が「2年以下の拘禁刑…」であるのに対し、暴処法では「3年以下の拘禁刑…」と、上限が引き上げられています。
弁護士に相談するメリット
集団暴行事件に関与してしまった場合、弁護士の専門的な分析と主張が、あなたの負うべき責任の範囲を限定するために重要です。
共謀関係の有無・範囲を争う
あなたから詳細な事情を聞き取り、捜査で得られた証拠を分析した上で、「そもそも仲間と犯罪を行うという共謀はなかった」「共謀があったとしても、その範囲は自分が関与した軽い暴行までで、仲間が引き起こした重い傷害結果までは含まれない」といった主張を行い、共同正犯の成立そのものや、その責任の範囲を争います。
途中離脱の法的な主張
もしあなたが途中で犯行を止めようとしたり、その場を離れたりした事実があるならば、それが法的な「共謀からの離脱」にあたることを、説得的に主張します。これにより、離脱後の仲間の行為に対する責任を免れることを目指します。
他の共犯者との連携による、円滑な示談交渉
共同正犯事件の示談は、加害者全員で被害者一人と交渉する必要があり、非常に複雑です。弁護士は、他の加害者の弁護人と連携を取り、示談の窓口を一本化するなどして、交渉を円滑に進め、被害者の方への誠実な賠償を実現します。
あなたの関与の度合いに応じた、有利な情状弁護
たとえ共同正犯の成立が免れなくても、裁判において、あなたが犯行に主導的に関わったわけではないこと、関与の程度が軽微であったこと、深く反省していることなどを強く主張し、他の共犯者よりも軽い、あなたに有利な判決を求めます。
まとめ
複数人での暴行事件では、「共謀共同正犯」という厳しい法理論により、「みんなでやった」という安易な気持ちが、「全員が主犯格と同じ責任を負う」という、取り返しのつかない重い結果につながります。
「自分は少ししか関わっていないから大丈夫」という考えは、決して通用しません。集団での暴力事件に関与してしまったら、それはあなたが想像する以上に深刻な事態です。すぐに弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。あなたの行為が法的にどのように評価され、どこまで責任を負うべきなのかを正確に見極め、負うべきでない過剰な責任からあなたを守るために、全力を尽くします。
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