傷害事件で後遺障害が残った場合の示談金はいくら増額する?弁護士が解説

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はじめに

暴行や喧嘩といった傷害事件において、最も悲劇的な結果の一つが、被害者の方に完治しない怪我、すなわち「後遺障害(こういしょうがい)」が残ってしまうケースです。

顔に消えない傷跡が残ってしまった、腕が事故の前のように動かなくなった、事故の衝撃で高次脳機能障害を負ってしまった…。このような場合、被害者の方が被る肉体的・精神的な苦痛、そして将来にわたって受け続ける生活上・仕事上の不利益は、計り知れません。

当然、加害者が負うべき賠償責任も、通常の傷害事件とは比較にならないほど重くなります。示談金の内訳には、通常の治療費や入通院慰謝料に加え、「後遺障害慰謝料」と「逸失利益(いっしつりえき)」という、非常に高額になりうる賠償項目が加わることになるのです。

この記事では、傷害事件で後遺障害が残ってしまったという、最も深刻なケースにおける示談金の考え方、特に後遺障害慰謝料の相場や、逸失利益の計算方法の概要について解説します。

Q&A

Q1. 「後遺障害」とは、具体的にどのような状態を指すのですか?後遺症とは違うのですか?

一般的に使われる「後遺症」とは、病気や怪我が治った後にも残る、何らかの症状全般を指す言葉です。一方、法律上の損害賠償の対象となる「後遺障害」とは、その後遺症の中でも、①将来においても回復が困難であると医学的に認められ、②その存在が法的な手続き(後遺障害等級認定)によって証明され、③それによって労働能力の喪失(または低下)を伴うもの、という厳格な定義があります。単に「痛みが残っている」と本人が訴えるだけでは足りず、医師による客観的な証明と、法的な等級認定が必要となります。

Q2. 後遺障害の慰謝料は、誰がどのようにして金額を決めるのですか?

後遺障害慰謝料の金額は、まず「後遺障害等級」に基づいて決まります。これは、後遺障害の部位や症状の重さに応じて、最も重い第1級から最も軽い第14級までの14段階に分類したものです。この等級認定は、医師が作成した「後遺障害診断書」を基に、損害保険料率算出機構などの専門機関が行います。そして、認定された等級に応じて、慰謝料の相場が決まっています。例えば、むちうちで最も多い第14級なら約110万円、片腕の機能を完全に失う第5級なら約1400万円といったように、等級ごとに目安となる金額が存在します。

Q3. 加害者側に、後遺障害が残るほどの高額な示談金を支払う資力がありません。どうすればよいのでしょうか?

これは、被害者にとっても、また加害者にとっても深刻な問題です。まず、被害者に対しては、弁護士を通じて、現在の経済状況を正直に、かつ丁寧に説明し、真摯に謝罪することが前提となります。その上で、現実的に支払い可能な分割払いの計画を具体的に提示し、被害者にご理解いただけるよう、粘り強く交渉することになります。また、親族に援助を頼んだり、金融機関から借り入れをしたりといった努力も必要になるでしょう。たとえ全額をすぐに支払えなくても、誠意をもって賠償に取り組む姿勢を示すことが、刑事処分を少しでも軽くするためには重要となります。

解説

傷害事件の中でも、最も重い責任が問われる後遺障害事案。その示談金の内訳を正確に理解しましょう。

損害賠償の対象となる「後遺障害」とは?

まず、法律上の損害賠償の対象となる「後遺障害」が認められるためには、以下のプロセスを経る必要があります。

① 症状固定

これ以上治療を続けても、症状の大幅な改善が見込めない状態に至ったと、担当の医師が判断することです。ここが、治療期間と後遺障害期間の区切りとなります。

② 後遺障害診断書の作成

症状固定後、医師に、後遺障害の内容や検査結果などを詳細に記載した「後遺障害診断書」という専用の書式を作成してもらいます。

③ 後遺障害等級認定

作成された後遺障害診断書などの医療記録を、損害保険料率算出機構といった第三者機関に提出し、後遺障害の等級認定を申請します。ここで、症状の重さに応じて第1級から第14級までのいずれかの等級に該当すると認定されて初めて、法的な「後遺障害」として扱われることになります。

後遺障害が残った場合の示談金の内訳

後遺障害が認定されると、通常の傷害事件の示談金(①治療費、②休業損害、③入通院慰謝料)に、以下の2つの大きな損害項目が追加されます。

④ 後遺障害慰謝料

後遺障害が残ってしまったこと自体に対する精神的苦痛への賠償です。この金額は、認定された後遺障害等級に応じて、相場が決まっています。等級が重い(等級の数字が小さい)ほど、慰謝料額は高くなります。

⑤ 逸失利益(いっしつりえき)

後遺障害によって労働能力が低下(または喪失)したために、将来にわたって得られるはずだったのに、得られなくなってしまった収入に対する補償です。逸失利益は、以下の非常に専門的な計算式で算出されます。

逸失利益 = 基礎収入額 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

  • 基礎収入額
    事故前の被害者の年収。
  • 労働能力喪失率
    後遺障害等級ごとに定められた、労働能力が何パーセント失われたかを示す割合(例:14級で5%、1級で100%)。
  • ライプニッツ係数
    将来の収入を前倒しで受け取ることによる利益(中間利息)を控除するための、法律で定められた係数。

このように、逸失利益の計算はきわめて複雑であり、法律の専門家でなければ正確な算出は困難です。

【等級別】後遺障害慰謝料の相場

後遺障害慰謝料の算定基準にはいくつかありますが、弁護士が示談交渉や裁判で用いる「弁護士基準(裁判基準)」が最も高額で、法的に正当な基準とされています。以下に、その一部をご紹介します。

後遺障害等級慰謝料の目安(弁護士基準)後遺障害の例
第14級約110万円むちうち等で局部に神経症状を残すもの
第12級約290万円鎖骨に著しい変形を残すもの
第10級約550万円1手の母指の機能に著しい障害を残すもの
第8級約830万円1下肢を5cm以上短縮したもの
第5級約1400万円1腕を手関節以上で失ったもの
第3級約1990万円1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの
第1級約2800万円両眼が失明したもの、要介護の植物状態

ご覧の通り、後遺障害慰謝料だけで、示談金は数百万円から数千万円という単位になります。これに、逸失利益やそれまでの治療費などが加算されるため、示談金の総額はきわめて高額になります。

弁護士に相談するメリット

後遺障害が残るような重大な傷害事件では、加害者が単独で対応することは不可能です。弁護士のサポートが必要となります。

賠償額の適正な算定と交渉

逸失利益の計算や、慰謝料の算定はきわめて専門的です。弁護士は、法的な基準に基づいて、客観的かつ妥当な賠償額を算出します。被害者側から提示された金額が、法外に高額であったり、計算に誤りがあったりした場合、その点を的確に指摘し、適正な金額での解決を目指して交渉します。

後遺障害等級の妥当性の検討

場合によっては、被害者側で認定された後遺障害等級が、実際の症状よりも重く評価されているケースも考えられます。弁護士は、医療記録を精査し、協力医の意見を聞くなどして、認定された等級の妥C当性自体を検討することもあります。

刑事・民事両面での総合的な解決

高額な賠償金をどう支払っていくかという民事上の問題と、加害者自身の刑事処分をどう軽くしていくかという刑事上の問題を、弁護士は両輪で考え、総合的な解決を目指します。例えば、賠償計画を具体的に立てて被害者に示すことで、刑事裁判における有利な情状として主張します。

加害者の経済状況を踏まえた交渉

加害者に支払い能力がない場合、ただ「払えません」では交渉になりません。弁護士は、加害者の経済状況を証明する資料(給与明細、預金通帳など)を被害者側に開示した上で、長期の分割払いや、保証人をつけるといった、現実的な和解案を提示し、粘り強く交渉します。

まとめ

傷害事件によって、被害者の方に後遺障害が残ってしまった場合、加害者が負うべき責任は、通常の傷害事件とは比較にならないほど重く、賠償額も数百万円から数千万円という高額なものになります。

その算定や交渉はきわめて複雑かつ専門的であり、法律の専門家である弁護士の助けなくして、適切な解決はありえません。

もし、あなたの行為によって相手に深刻な後遺障害を負わせてしまったという、取り返しのつかない事態に直面しているのであれば、その責任の重さを真摯に受け止め、すぐに弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。被害者の方の将来にわたる損害と、誠実に向き合い、あなたができる限りの償いをしていくための道を、私たちが共に考え、サポートします。

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