はじめに
刑事事件で加害者となった場合、被害者への謝罪や示談交渉などで直接やり取りしなければならない場面が出てくることがあります。しかし、無用心に被害者に近づくと、感情的対立が激化したり、場合によってはストーカー行為や報復とみなされる恐れもあります。さらに、性犯罪やDVなどでは加害者と被害者の接触自体が保護命令や接触禁止によって法的に制限されている場合もあり、違反すると執行猶予取り消しなど重大な結果を招きかねません。
本稿では、被害者との接触や連絡を行う際の注意点と、示談をスムーズに進めるための方策、加えて禁止命令に違反しないためのポイントを解説します。被疑者・被告人として被害者に真摯な謝罪や補償をしたい場合でも、ルールやマナーを守らなければ逆効果になりかねません。適切な方法と手順を心得ることが不可欠です。
Q&A
Q1:被害者に直接会って謝罪したいのですが、問題ないでしょうか?
事件の種類や状況によります。性犯罪やDV事件などで接触禁止命令が出ている場合、直接会うこと自体が違法となり、加害者として更に不利な立場になり得ます。また、被害者が拒否しているのに押しかけるのは、ストーカー行為や威迫とみなされる危険もあります。基本的には弁護士を通じた連絡が安全です。
Q2:電話やメール、SNSなどで被害者に連絡するのはいいですか?
被害者が連絡を望んでいるかどうか、法律上の制限がないかを確認すべきです。たとえSNSであっても、被害者が拒否しているのにメッセージを送れば迷惑行為とされる可能性があります。示談交渉をしたい場合でも、弁護士を仲介するのがトラブル回避に有効です。
Q3:すでに示談交渉中なら、被害者宅を訪問してもよいのでしょうか?
原則として、示談の詳細は弁護士同士の協議で決めるのが通常です。加害者本人が勝手に被害者宅を訪問すれば、被害者の不安感や怒りを増幅しかねず、示談が失敗するリスクも高まります。公判でも「反省が足りない」と評価されかねません。
Q4:DV事件で保護命令が出ている場合、メールや電話で謝罪してもいいですか?
保護命令には、「加害者から被害者への接近禁止・連絡禁止」が含まれることがあります。これに違反すると法令違反となり、執行猶予取り消しや別途処罰の対象です。弁護士を通じて相手の意向を確認しながら動く必要があります。
Q5:加害者が被害者に謝罪文を直接郵送するのは許される?
被害者が連絡自体を拒絶していない、かつ接触禁止命令などがない場合は可能です。しかし、弁護士を通じて送付した方が安全です。被害者の心情を逆撫でするおそれがあるため、専門家のチェックを受けるのが望ましいといえます。
Q6:被害者家族に連絡を取るのはどうでしょうか?
被害者本人を避けて家族に連絡する方法もありますが、家族が事件に深く関わっているなら心理的抵抗が大きい場合も考えられます。無理に接触するとトラブルに発展しやすく、被害者への配慮にも欠ける面もあり得ます。
Q7:示談がまとまった後でも、被害者と交流を続けるのは問題ですか?
示談書の内容によります。示談で「今後一切連絡しない」旨が盛り込まれている場合、違反すると再度のトラブルにつながります。被害者が心の傷を抱えている場合、加害者からの接触自体がストレスになる可能性があり、慎重な判断が必要です。
Q8:職場や学校で被害者と顔を合わせる状況ですが、どう対処すればいいですか?
DVやストーカー事案などで接近禁止命令が出ていない限り、普通に勤務・通学する権利はあります。ただし、被害者とトラブルが再燃するような行動は避け、必要最小限の接触にとどめるべきです。
Q9:被害者から逆に連絡が来たらどうすればいいですか?
保護命令等がない限り、応じても法的には問題ありませんが、誤解や感情的対立が再燃しないよう注意が必要です。示談交渉や謝罪であれば弁護士を通す方が安全です。相手から誘導尋問される可能性もあり、発言が事件で不利になるおそれも考えられます。
Q10:被害者との接触で不安や疑問があるとき、どのタイミングで弁護士に相談すればいいですか?
迷ったらすぐ弁護士に相談してください。事後報告では手遅れになりかねません。接触予定があれば事前に連絡し、どう振る舞うべきかアドバイスを受けることもご検討ください。
解説
被害者との接触で生じうるトラブル
- 感情的対立の激化
加害者が軽率に接近し、被害者が恐怖や怒りを増幅して示談が破談に - ストーカー・報復とみなされる
繰り返し電話や訪問をすれば、逆に被疑者が別の罪で追及されるリスク - 証拠に不利な発言
会話やメールの内容が裁判で利用され、加害者が不利になる場合
示談交渉時の基本ルール
- 弁護士を仲介:プロが冷静に金額交渉・謝罪を段取りし、感情的衝突を回避
- 焦らない:無理に急かすと被害者の不信感を招きやすい
- 誠実さ:被害者の被害実態を十分理解し、真摯に向き合う姿勢を行動・文章で示す
- 秘密保持:示談内容を第三者に漏らさないよう注意
接触禁止命令(保護命令)
DVやストーカー被害では、裁判所が加害者に保護命令を出して接近・連絡を禁止するケースがあります。これを破ると加害者が逮捕・起訴されうる厳しい措置です。例えば「半径何メートル以内に近づかない」「電話・メールをしない」など具体的に規定されます。
公判中の被害者接触
- 弁護士が示談交渉を行い、被告人は直接関与しない形が望ましい
- 被害者参加制度がある場合、被害者が法廷で意見陳述を行う。被告人が接触・反論しようとすると混乱を招くため注意
再犯防止との関連
被害者に無断で近づき、言い訳や軽い金銭で解決しようと試みる行為は「反省が足りない」と裁判所が判断しやすい。きちんと弁護士のサポートを得て被害者に接触し、示談・謝罪を行う方が「再犯しない」「誠意がある」と受け止められやすいです。
弁護士に相談するメリット
安全な連絡方法を設計
弁護士が被害者の意向を確認し、どう連絡を取り、どの程度の謝罪文を送るのかなどを話し合える。加害者本人が直接コンタクトするより、トラブル回避の可能性が高まります。
保護命令・接触禁止を確認
保護命令や接見禁止などが出ている場合、弁護士がその内容を正確に把握し、違反行為にならないよう加害者にアドバイスします。万が一、被告人が誤って禁止事項を破ると処分が厳化される危険があります。
示談成立へのスムーズな交渉
弁護士が第三者として法的根拠や過去の類似事例を提示し、被害者に賠償額や謝罪方法を納得してもらいやすい。書面での交渉を中心に進めることで、感情的対立を最小限に抑えられます。
裁判所への情状弁護
示談が成立している場合、弁護士が公判でその事実を効果的に主張し、量刑の軽減を説得力をもって訴えられます。また、被害者との「不要なトラブルがなかった」点を強調し、反省・誠意をアピールできます。
まとめ
被害者との接触や連絡は、一歩間違えれば感情的対立の激化や違法接触となり、示談が破綻したり、さらなる罪状を招いたりしかねないデリケートな問題です。正しいルールを踏まえ、弁護士を仲介して安全なコミュニケーションを図ることが最も重要と言えます。以下のポイントを押さえ、加害者としては慎重に行動しましょう。
- 勝手に訪問・連絡は危険
被害者が拒否している場合はストーカー化や脅迫と認定されるリスク大。 - 保護命令や接触禁止命令に従う
違反するとさらに罪が重くなる。 - 示談交渉は弁護士を通す
感情的衝突を避け、安全かつ冷静に条件を整える。 - 謝罪文や反省文も安易に直接送らない
相手が受け取る意思があるか確認し、弁護士の添削を受ける。 - 再犯防止にも資する正しい手続き
接触禁止命令や保護観察の下で違反があれば執行猶予取り消しなど厳罰化の危険。
もし被害者とのやり取りをどう進めるか迷っている、または接触禁止命令が出ている状況で謝罪や示談をしたいとお考えの場合は、弁護士法人長瀬総合法律事務所へ一度ご相談ください。トラブルを回避しつつ、示談成立や情状弁護を確保するためのサポートを提供いたします。
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