はじめに
刑事事件で有罪判決が確定すると前科がつき、それ以後の人生に多大な影響を及ぼすことは既に述べてきました。とりわけ、再度事件を起こした場合(再犯)には捜査機関や裁判所が「常習的」と判断しやすく、逮捕・勾留・量刑すべてで不利な扱いを受ける可能性が高まります。また、就職・転職での不利益や、社会的信用の低下など、前科の事実が引き起こす弊害は広範囲にわたります。
本稿では、過去の前科がある場合に何が問題となり、どのような場面で不利に扱われやすいのか、そしてそれに対抗するための方策や弁護士の役割について解説します。前科があるからといって絶望する必要はありませんが、次回事件を起こすと厳罰化されるリスクが高くなる傾向にあります。適切な示談や更生対策を講じることが、前科を持つ方にとって重要な課題となります。
Q&A
Q1:前科があると、次の事件で逮捕されやすいのですか?
前科がある人は、捜査機関が「再犯リスクが高い」と判断する傾向が強いため、逮捕状を請求しやすい・勾留の必要性が認められやすいと言えます。つまり、同じ内容の事件でも初犯と比べて逮捕される可能性が上がるおそれがあります。
Q2:前科の情報は企業にも共有されるのでしょうか?
一般的に、前科情報は警察や検察など公的機関が管理し、プライバシー保護の観点から企業に共有されるわけではありません。しかし、マスコミ報道や社内調査などで明らかになる場合があります。特定の業種(警備業や教職など)では自主的に身元調査を行う企業も存在します。
Q3:前科があるとビザ取得や海外渡航にも影響があると聞きましたが、本当ですか?
多くの国でビザ申請や入国管理の際に犯罪歴を問われます。前科があると、渡航許可が下りにくい、追加書類の提出が求められるなどの問題が生じる可能性があります。
Q4:前科の事実を削除・抹消できる制度はありますか?
日本では、前科抹消の法制度は存在しません。一定の年数が経過しても、前科は刑事記録として残り続けます。未成年時の処分(少年事件)については前科にはならない形で扱われるものの、まったくの痕跡が残らないわけではありません。
Q5:前科があっても就職できる職種はありますか?
前科があっても法的に制限されない職種は多数あります。
Q6:前科がある人が再犯したら、量刑は必ず実刑ですか?
「再犯だから必ず実刑」という定まったルールはありませんが、前科あり=「常習性」あると判断され、執行猶予がつきにくく、実刑に処される確率が高まります。示談成立や反省の深さなど別の要素をどう示せるかがポイントです。
Q7:前科が一つだけあっても、普通に生活していれば問題ないですか?
一般的には、普通に生活している限り大きな問題が生じない場合もあるといえます。ただし、再就職や海外渡航、保険契約などで履歴を問われたときに不利益が出る可能性はあります。警察に職務質問された際にも「前科あり」の事実が照会され、捜査態度が変わる場合があります。
Q8:前科があることを隠して就職して、後で判明したら解雇されますか?
就業規則に「前科を隠しての入社」を禁止している場合や、履歴書に虚偽記載を行った場合は解雇が正当化される可能性があります。企業の採用ポリシーにもよりますが、発覚時に解雇や契約解除となるリスクは否定できません。
Q9:前科を持つ人が再犯しないためにできる対策はありますか?
カウンセリングや更生プログラムへの参加、家族や支援団体の協力を得て生活環境を改善するなどが有効です。弁護士も再犯防止の具体策を公判で示すことで、もし再び事件が起きても最悪の事態を回避できる可能性があります。
解説
前科の影響範囲
前科があることで直接的・間接的に様々な制限や不利が生じます。特に以下の領域で問題となるケースが想定されます。
- 就職・転職
履歴書への記載義務はないものの、企業が独自調査や身元保証を求める場合は不利になる - 資格・免許
弁護士・教員・公務員などは法律上「欠格事由」になる場合がある - 海外渡航(ビザ)
入国審査で犯罪歴を申告しなければならない国が多い - 社会的信用
銀行口座開設や保険契約などで審査が厳しくなる可能性
再犯時の厳罰化
前科がある人が同種または異種の犯罪を起こすと、捜査機関・裁判所は累犯や常習性を疑い、逮捕や勾留の可能性が高まります。裁判でも量刑を決める際、初犯よりもはるかに重い処分(実刑・長期懲役など)を科す傾向が強いです。
前科抹消制度がない
欧米では一定期間無犯罪なら前科を封印する制度がある国もありますが、日本ではそのような公式制度が存在しないため、一度前科がつくと原則的に一生残ります。ただし、刑が終了して長期間が経過すれば捜査・量刑判断で加味されにくくなる場合もあるとされています。
前科が明るみに出る場面
- 企業の採用・昇進:就業規則や採用試験の身元調査
- マスコミ報道:再犯時に前科の存在を報じられる
- 警察の職務質問・取り調べ:前科が確認され、態度が変わることもある
- 海外入国審査:ビザ申請や入国カードで犯罪歴を問われる
対策と注意点
- 再犯防止策の強化
飲酒運転や薬物依存の場合は専門プログラムを受講し、万全の対策 - 職場や周囲への説明戦略
弁護士と相談し、無用なトラブルを避けるための適切なコミュニケーション - 削除要請・弁護士対応
ネット上での前科報道や誹謗中傷が広がるなら、弁護士が削除請求や名誉毀損訴訟を検討
弁護士に相談するメリット
再犯防止策と情状弁護
前科がある依頼者が再度事件を起こしてしまった場合、弁護士が示談や更生プログラムを提示することで、裁判所に「今回こそ社会内での更生が可能」と判断させ、実刑回避の可能性を高める。累犯であっても情状弁護を尽くすことで量刑を抑えることができる。
就職・転職への支援
弁護士は職場との交渉で不当解雇を防ぐ手続きを取ったり、就職先の紹介や再就職をサポートする支援機関とのパイプを持つ場合もある。前科が理由で不当に扱われないよう法律的知識でサポートする。
名誉毀損・プライバシー侵害への対応
報道やネット投稿で不当な誹謗中傷を受けている場合、弁護士が削除請求や損害賠償請求を進める。前科があっても不正確な情報が拡散されるのを放置して良いわけではなく、法的手段でプライバシー保護を図る。
まとめ
過去の前科がある場合、再犯リスクとみなされ、捜査や裁判で不利に扱われる可能性が非常に高まります。また、社会生活においても就職や海外渡航などで数多くのハードルが生じるのが現実です。以下のポイントを理解し、必要に応じて弁護士と連携して対策を進めることが必要不可欠です。
- 前科は消えない
一度有罪判決が確定すると、抹消制度がないため生涯残る。 - 再犯すれば量刑加重
捜査機関・裁判所とも「常習」と見なしやすく、実刑のリスクが大幅上昇。 - 就労等に支障
雇用面で不利になりやすく、ビザ審査でも犯罪歴が問題となる場合あり。 - ネット・報道による差別や誹謗中傷
過去の前科が再度クローズアップされると社会的制裁が重なる。 - 弁護士との協力
再犯防止策や示談を早期に整え、量刑を抑えたり、社会復帰の道を探る必要がある。
もし前科がある状態で新たな事件を起こしてしまった、あるいは前科を理由に職場や社会で差別的扱いを受けている場合は、弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。再犯時の情状弁護、就労やプライバシー保護の問題など、法的サポートを通じて依頼者の権利と更生を守るために尽力いたします。
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