はじめに
交通事故で死亡事故を引き起こしてしまった場合、「必ず起訴されるのでは?」と不安になる方が多いのではないでしょうか。確かに、死亡事故は人の命が失われる重大な結果となるため、捜査機関から厳しく追及される傾向があります。しかし、実務上は必ずしもすべての死亡事故が起訴されるわけではありません。事情によっては「不起訴処分」となり、刑事裁判に進まないケースも存在します。
本稿では、死亡事故における「起訴されるケース」と「不起訴処分となる可能性」について解説します。検察官がどのような観点で起訴・不起訴を決めているのか、そして不起訴処分を獲得するために重要なポイントとは何か、実務経験に基づく視点でわかりやすく整理しましたので、ご参考となれば幸いです。
Q&A
死亡事故では基本的に起訴されるものなのでしょうか?
死亡事故は重大な結果を伴うため、一般的に起訴される可能性は高いです。しかし例外的に、「被害者側にも大きな過失がある」「加害者側の過失が軽微」「すでに示談が成立しており遺族が処罰を強く望まない」などの要素がある場合には、不起訴処分となることもあります。
不起訴処分の種類とは何ですか?
大きく分けて「嫌疑なし」「嫌疑不十分」「起訴猶予」などがあります。
- 嫌疑なし:犯罪が成立しない、あるいは加害者が犯人ではないと判断される場合。
- 嫌疑不十分:犯罪の可能性はあるが証拠が不足している場合。
- 起訴猶予:犯罪成立が認められるが、情状や被害者の処罰感情、再犯の可能性の低さなどを総合考慮して起訴を見送る場合。
死亡事故における不起訴処分の多くは「起訴猶予」の形を取ることがあります。
不起訴になれば前科はつかないのですか?
はい。不起訴処分となれば刑事裁判には進みませんので、前科はつきません。ただし、警察・検察の捜査を受けた事実は記録として残る場合があります。
どうすれば不起訴処分の可能性を高められますか?
示談の成立が大きなカギとなります。被害者遺族への賠償や謝罪が十分に尽くされ、遺族が厳罰を望まず処罰感情が弱い場合は、検察官が起訴を見送る可能性が高まります。また、加害者が真摯に反省していること、再発防止策を具体的に講じていることなども考慮されます。
逆に「起訴されやすい」事故態様とは?
飲酒運転や危険運転、ひき逃げ、無免許運転など、悪質性が高い行為が認められる場合は起訴されやすいといえます。これらの場合、たとえ示談が成立していても起訴や実刑が避けられないケースもあります。
示談なしでも不起訌になる可能性はあるのでしょうか?
示談がなくても、加害者側の過失がごく軽微だったり、被害者側に大きな過失が認められる場合などは「起訴猶予」となる可能性はあります。ただし、死亡事故という重大結果を踏まえると、示談がまったく成立していない状況で不起訴を得るハードルは高い傾向にあります。
不起訴処分を獲得すれば、免許取消など行政処分も回避できますか?
免許の行政処分は刑事処分とは別に行われるため、不起訴になっても取消や停止が発生するケースは十分あり得ます。あくまで道路交通法に基づく独立した手続きなので、必ずしも連動しません。
検察官はどのような資料をもとに起訴・不起訴を決めるのでしょうか?
主に警察が作成した捜査報告書や調書、目撃証言、ドライブレコーダー映像、物的証拠などを精査します。また、被害者遺族の処罰感情や示談状況、加害者の過去の前科・反省状況、職場・家庭環境なども総合的に考慮します。
不起訴の確率を上げるために、弁護士に依頼するメリットは何ですか?
遺族との示談交渉の進め方、検察官への意見書提出など、弁護士ならではのノウハウが活かせます。早期に依頼すれば、事故態様の分析・証拠の収集・誠意ある謝罪の仕方などを効果的に行い、不起訴処分の可能性を高めることが期待できます。
解説
検察官が重視するポイント
死亡事故は、それだけで「重大な結果を招いた」という点で起訴が有力視されますが、一方で、加害者の過失度合いの大小や被害者遺族の意向が結果を左右します。検察官は、交通事故の実態や情状を総合的に判断し、厳罰が社会的に相当とされるかどうかを吟味します。特に飲酒や無免許運転などが絡むと、悪質性が高いと評価されるため、起訴を避けることは困難になります。
不起訴処分となる具体例
例えば、被害者の飛び出し行為が事故原因の大半を占め、加害者に軽微な過失しか認められない場合や、加害者が逃げずに救護・通報に尽力し、遺族と早期に示談が成立している場合は、起訴猶予となる可能性があります。示談成立時に遺族が「処罰を望まない旨」の文書を検察官に提出することも、不起訴を後押しする材料となります。
示談が果たす役割
死亡事故の示談は、賠償金のやり取りだけでなく、加害者の反省や謝意を被害者遺族に示す重要な機会でもあります。検察官としても、遺族が処罰感情を強く持っている事案より、すでに和解が成立している事案のほうが、社会的な処罰必要性が低いと判断する傾向にあります。示談交渉に弁護士が介入すれば、適切な損害賠償金額の提示や謝罪文作成のサポートなどが行われ、円満に合意を成立させやすくなります。
不起訴を得るための弁護活動
弁護士は加害者の反省や被害者遺族への謝罪姿勢、再発防止策などを具体的にまとめ、検察官に対して起訴猶予の相当性を訴えます。例えば、謝罪文や陳述書を提出し、家族や職場がサポート体制を整えていることを説明することで、再犯可能性の低さや社会的更生の見込みを示すことが考えられます。
不起訴後の流れ
もし不起訴処分が得られれば、加害者は刑事裁判に進まずに事件を終結できます。前科も付かないため、社会復帰の面で大きなメリットとなります。一方で、免許取消や停止といった行政処分は独立して進行するため、引き続き注意が必要です。
弁護士に相談するメリット
不起訴に向けた具体的戦略立案
死亡事故の場合、当初から不起訴を目指すのはハードルが高いですが、弁護士の視点から「どのような立証や示談交渉が有利に働くか」を検討することで、起訴回避の可能性を高められます。特に、過失割合や事故態様に争点がある事案では、専門家の法的分析が重要です。
早期示談の推進
実務上、示談が遅れるほど被害者遺族の処罰感情が固まってしまうケースがあります。弁護士が早期に動けば、柔軟な交渉を通じて最善のタイミングで示談を成立させることが可能です。また、示談金の準備や謝罪の方法などもサポートしてもらえるため、加害者側の精神的負担も軽減されます。
検察官への意見書提出
検察官は多忙であり、すべての事案を詳細に調べ上げる時間的余裕がない場合もあります。そこで、弁護士が作成した意見書を提出し、加害者側の事情や示談状況を整理して伝えると、検察官が起訴猶予を検討する際の判断材料として有益です。
不起訴後のサポート
不起訴になった場合でも、行政処分や保険手続きなど問題が残る可能性があります。弁護士は引き続きサポートを提供し、免許取消への異議申立や保険会社との交渉などに対応可能です。
まとめ
死亡事故においては、一般的に起訴されるリスクが高く、実刑や前科のつく可能性が現実的に存在します。とはいえ、下記のような要素があれば、不起訴処分を勝ち取れる場合があることも知っておいてください。
- 過失が軽微であること
被害者側に大きな落ち度があるなど、加害者の責任が相対的に低い場合。 - 示談の早期成立
遺族の処罰感情が和らぎ、社会的制裁の必要性が低いと評価されるケース。 - 真摯な反省と謝罪文・反省文
再発防止策の具体化など、加害者の更生可能性が十分にあると判断される状況。 - 弁護士の働きかけ
法的な理論の整理とともに適切な時期に示談交渉や意見書提出を行うことで、検察官の判断に影響を与えることが期待できる。
最終的に不起訴処分を得るかどうかは、検察官が多角的に判断を下します。死亡事故という重大事案では厳しい審査が行われますが、絶対に諦める必要はありません。事故発生後できるだけ早い段階で専門家に相談し、示談や反省文作成を進めることが、起訴回避への近道と繋がります。
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