はじめに
刑事事件で執行猶予付き判決を得ると、実刑を免れて社会内で生活しながら刑の執行を猶予される形となります。しかし、この猶予期間内に再犯をしてしまうと、以前の刑が取り消されて服役するだけでなく、新たな事件の刑も加算されるなど、二重の負担が生じるリスクが極めて高まります。そのため、執行猶予中の再犯防止が非常に重要な課題となります。
本稿では、執行猶予中の再犯リスクが実際にどのように扱われるのか、そしてそれを回避・軽減するためには何をすべきかを解説します。執行猶予は一度下されれば終わりではなく、猶予期間を無事に乗り切ってこそ「刑が免除」となるため、対策と注意点を正しく理解しておくことが重要です。
Q&A
Q1:執行猶予中に再犯すると、前の刑と合わせて服役しなければいけないのですか?
はい。執行猶予期間中に新たな犯罪で実刑判決が確定すると、以前の執行猶予が取り消され、前の刑も合わせて服役しなければならないケースが多いです。つまり「前の刑+新たな刑」両方を合算して刑務所に入るリスクが生じます。
Q2:執行猶予中に交通違反など軽微な違法行為をしても取り消されますか?
執行猶予取り消しの要件は「故意の犯罪行為」によって実刑判決が確定した場合(刑法27条)。単なる交通違反(反則金レベル)では取り消されません。ただし、飲酒運転など重大な違反で起訴され、有罪判決が出ると取り消しに至る可能性が高まります。
Q3:執行猶予期間が3年とされたら、3年間再犯しなければ前の刑は免除されるのですか?
そうです。猶予期間中に再犯や保護観察違反などがなければ、3年満了と同時に刑の執行は免除され、前科が消えるわけではありませんが、服役する必要はなくなります。
Q4:保護観察付き執行猶予の場合、保護観察所からの指示を無視したら取り消しですか?
保護観察付きの場合、重大な違反行為(報告拒否・失踪・命令違反など)を行うと取り消し対象となります。ただし、軽微な違反なら即取り消しではなく、注意や指導が行われた上で、その後の態度次第で取り消しが検討されます。
Q5:執行猶予中に海外旅行へ行くのは自由ですか?
法律上は基本的に自由です。ただし保護観察付きの場合、保護観察官への届け出が必要となる場合があります。逃亡の恐れがあるとみなされると問題視されることもあり、ケースバイケースです。弁護士や保護観察所に事前に相談をおすすめします。
Q6:執行猶予期間中に問題なく過ごしていても、別件で警察の取り調べを受けると取り消されることはありますか?
取り調べを受けただけでは執行猶予取り消しにはなりません。有罪判決が確定する必要があります。ただし、捜査中に勾留されるリスクは高まるかもしれません。
Q7:執行猶予中に薬物依存治療プログラムを受け、途中でやめてしまった場合はどうなるでしょう?
保護観察付きの条件としてプログラム参加が義務付けられているなら、違反と判断され取り消しを招く可能性があります。任意参加でも「再犯防止の取り組みを放棄した」と見なされ、万が一再犯した場合に量刑がさらに重くなる傾向にあります。
Q8:執行猶予が取り消されると、どのくらいの刑期を服役するのですか?
取り消された前の刑期の残りと、新しい事件の刑期が合算される可能性があります。厳密には裁判所の判断に左右されますが、執行猶予取り消し後は前の刑を含め服役するのが一般的です。
Q9:執行猶予期間を短縮してもらう制度はありますか?
日本の現行法では執行猶予期間の途中短縮制度は存在しません。一度宣告された猶予期間は基本的にそのまま満了まで続きます。
Q10:執行猶予をもらってから再犯せず期間を満了した後、また別の事件を起こしたらどうなりますか?
期間満了後の再犯では、前の執行猶予は既に終了しているため、その取り消しはありません。ただし、前科がある状態なので捜査機関や裁判所は再犯性を高く評価し、量刑を重くする可能性が高まります。
解説
執行猶予付き判決の仕組み
執行猶予付き判決は、有罪判決だが刑の執行を一定期間(1〜5年)猶予するという制度です。猶予期間中に新たな犯罪行為で実刑判決が確定すると猶予が取り消され、前の刑+新しい刑を合算して服役しなければならないリスクがあります。
- 懲役X年、執行猶予Y年
期間内に再犯なければ刑の執行を免除 - 保護観察付き
保護観察官の監督を受け、定期報告やプログラム参加を義務付けられるケース
再犯時の取り消し要件
刑法26条ないし27条によると、執行猶予取り消しが行われるのは以下の場合:
一 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。
いずれにしても、たとえ軽微でも「故意による新犯罪で実刑判決が確定」すれば取り消しされるおそれが高い。
実務上の例
- 傷害事件で「懲役1年6月、執行猶予3年」の判決を受けた人物が、猶予期間2年目に再び暴行事件を起こし、懲役8月の実刑が確定すると、前の1年6月が取り消され、合計2年2月を服役する可能性がある。
- 飲酒運転で保護観察付き執行猶予となったが、飲酒を断念しきれず再度飲酒運転で逮捕・起訴され、実刑判決になる事例も多い。
再犯リスクを下げる対策
- 生活習慣の改善:アルコール依存、薬物依存の治療プログラム参加など
- 保護観察所・家族との連携:定期面談、報告義務を守り、周囲のサポートを受ける
- 再犯防止のルール設定:免許返納、夜間外出制限、DV防止カウンセリングなど
- ストレス管理:専門カウンセラーの指導やメンタルケアを受ける
弁護士のサポート
弁護士は執行猶予中の被告人が再犯しないための環境整備や保護観察所との連絡を円滑にし、万が一トラブルが起きそうな際にも早期に適切な対処を施す。新たな事件で捜査が始まったら、すぐに弁護士へ相談して逮捕や勾留を防ぎ、無実なら早期釈放を目指す手続きが重要。
弁護士に相談するメリット
監督義務・保護観察の理解サポート
保護観察付き執行猶予の場合、保護観察官からの指示を正確に把握しなければ違反リスクがある。弁護士が中間に入り、わかりやすく説明し、保護観察違反を防止するための具体的アドバイスを提供できる。
再犯が疑われた際の即時対応
執行猶予中に警察の捜査対象となれば、逮捕回避や勾留回避の働きかけが急務。弁護士が素早く動き、示談交渉や誤解の解消を試みれば、起訴を防ぎ、取り消しリスクを抑えられる可能性がある。
更生プログラム・専門支援先の紹介
飲酒・薬物・DVなどで再犯リスクが高い場合、弁護士が専門外来やカウンセリングを紹介し、通院やプログラム参加を支援する。裁判所への報告書として使用できる可能性があり、万が一再度事件化しても量刑を抑える一助となる。
追加事件の量刑交渉
不幸にも再犯し、起訴された場合でも、弁護士が情状弁護を駆使して前の刑との合算を最小限に抑えるよう活動ができる。示談や再度の反省文を整え、裁判官の心証を良くする取り組みが求められる。
まとめ
執行猶予中の再犯リスクは、被告人が社会内で生活を続けるうえで常に意識すべき重大な問題です。猶予期間内に新たな故意犯罪で実刑判決が確定すると、執行猶予が取り消され前の刑とあわせて服役を強いられる可能性が高まります。以下のポイントを押さえて、再犯を防ぎながら猶予期間を無事に過ごすための対策を徹底することが不可欠です。
- 猶予期間中の行動制限を理解
違法行為はもちろん、保護観察の報告義務を怠ると取り消しに直結。 - 生活習慣の根本改善
飲酒運転や薬物事件なら専門治療プログラム、DVなら加害者更生プログラムなどを積極的に受講。 - 家族・職場の協力
周囲の監督体制が整っていれば、再犯の誘惑に打ち勝ちやすく、違反リスクを低減。 - 弁護士のサポート
監督義務や保護観察ルールの理解、万が一のトラブル時の迅速対応が大切。 - 逮捕・起訴を防ぎ、終了まで乗り切る
猶予満了を迎えれば刑の執行は免除となるため、期間内の行動が非常に重要。
執行猶予判決を受けた後の再犯が不安な方や、保護観察付きでトラブルを抱えている方は、弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。違反リスクの防止策や保護観察所との連携など、執行猶予を無事乗り切るためのサポートを提供いたします。
初回無料|お問い合わせはお気軽に
その他のコラムはこちら