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暴行罪で被害届を出されたらどうする?示談で解決し前科を回避する方法

2025-08-03
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はじめに

カッとなって相手の胸ぐらを掴んでしまった。口論の末、相手の肩を強く突き飛ばしてしまった。あなたにとっては「暴行」というほどのつもりがなく、その場はそれで収まったかもしれません。しかし、後日、相手が警察に「暴行された」と被害届を提出すれば、事態は一変します。

あなたは「暴行罪」の被疑者として、警察から捜査の対象となり、ある日突然、警察署への出頭を求める電話がかかってきたり、場合によっては逮捕されたりする可能性があるのです。

暴行罪は、傷害罪と比較すれば軽い犯罪とされていますが、有罪になれば拘禁刑刑も定められている立派な犯罪です。前科がつけば、今後の就職や資格、海外渡航など、人生の様々な場面で不利益を被る可能性があります。

しかし、暴行罪は、事件後の対応次第で、逮捕や前科がつくといった最悪の事態を回避できる可能性が十分に残されている犯罪でもあります。

この記事では、暴行罪で被害届を出されてしまった場合に、事件を穏便に解決し、前科をつけずに済ませるための、最も重要かつ有効な手段である「示談」について、その進め方と重要性を解説します。

Q&A

Q1. 相手は怪我もしていないのに、被害届を出すなんて大げさだ。無視してもいいですか?

無視すべきではありません。 暴行罪は、相手が怪我をしたかどうかは関係なく、不法な有形力を行使した時点で成立します。胸ぐらを掴む、突き飛ばすといった行為は、典型的な暴行です。被害者が恐怖を感じ、被害届を警察に提出した以上、それは法的に有効な「被害の申告」であり、警察は捜査を開始する義務があります。これを「大げさだ」と無視し、警察からの出頭要請にも応じなければ、「逃亡のおそれあり」と見なされ、逮捕されるリスクを高めるだけです。

Q2. 暴行罪の示談金は、いくらくらい払えばよいのでしょうか?

暴行罪の場合、相手に怪我がないため、傷害事件のように高額な治療費は発生しません。そのため、示談金は、主に暴行を受けたことによる精神的苦痛に対する「慰謝料」となります。金額は、暴行の態様(執拗さなど)や、被害者の処罰感情の強さによって変動しますが、一般的な相場としては10万円~30万円程度でまとまるケースが多いです。ただし、これはあくまで目安であり、個別の事情に応じて交渉することになります。

Q3. 示談さえすれば、提出されてしまった被害届は、必ず取り下げてもらえますか?

示談交渉のゴールとして、被害届を取り下げてもらうことを目指します。しかし、法律上、一度受理された被害届を「撤回」することはできません。そのため、実務上は、被害者の方に「被害届取下書(嘆願書)」を作成してもらい、それを警察や検察に提出します。この書面には、「加害者との間で示談が成立し、円満に解決したので、加害者の処罰を望みません」といった内容を記載してもらいます。これにより、被害届が出されたままであっても、被害者には処罰意思がないことを明確に示すことができ、不起訴処分につながるのです。

解説

被害届が出されても、まだ挽回のチャンスはあります。その鍵を握る「示談」について、詳しく見ていきましょう。

1. 「被害届」が出されると、何が始まるのか?

まず、被害届が警察に提出されると、どのような事態が進行するのかを正確に理解しましょう。

  • 被害届とは?
    犯罪の被害に遭ったという事実を、被害者が捜査機関(警察)に申告するための書類です。これにより、警察は初めて犯罪の発生を公式に認知します。
  • 捜査の開始
    警察は、被害届を受理すると、原則として事件の捜査を開始します。
    • 被害者から、より詳細な事情聴取を行う。
    • 目撃者がいれば、その人から話を聞く。
    • 現場周辺の防犯カメラ映像を収集・分析する。
    • これらの捜査で、あなたが加害者として特定される。
  • あなたへのアプローチ
    あなたが特定されると、警察からあなたの元へ電話があり、「〇〇の件で、お話をお伺いしたいので、警察署まで来てください」と、任意での出頭を求められます。この要請を無視し続けると、逮捕状が請求され、逮捕に至る可能性があります。

2. 前科を回避するためのポイント 「示談」とは?

暴行罪のような、被害者のいる犯罪では、検察官が起訴・不起訴の最終処分を決定する際に、「当事者間で問題が解決しているか」「被害者が加害者の処罰を望んでいるか」という点を、きわめて重視します。

「示談」は、この検察官の判断に直接働きかける、強力なカードともいえます。

示談の目的

  • 被害の回復
    慰謝料(示談金)を支払うことで、被害者が受けた精神的苦痛を金銭的に賠償し、被害の回復を図ります。
  • 処罰感情の緩和
    加害者が真摯に謝罪し、反省の態度を示すことで、被害者の「加害者を罰してほしい」という気持ちを和らげ、許し(宥恕)を得ることを目指します。

示談成立の効果

被害者との間で示談が成立し、特に被害者から「加害者を許しますので、刑事処罰は望みません」という明確な意思(宥恕)を示してもらえれば、検察官は「もはや当事者間で事件は解決しており、国が介入して刑事罰を科すまでの必要性はない」と判断し、不起訴(起訴猶予)処分とする可能性が高くなります。

不起訴処分となれば、刑事裁判は開かれず、前科がつくことも、罰金を支払うこともありません。まさに、示談は「事件の円満な解決」そのものなのです。

3. 前科回避に向けた、示談交渉の具体的な進め方とポイント

では、具体的にどのように示談交渉を進めればよいのでしょうか。

ステップ①:【必須】弁護士を通じて、被害者の連絡先を入手する

示談交渉の第一歩にして、最大の壁です。加害者本人が警察に頼んでも、個人情報保護を理由に、被害者の連絡先を教えてもらえることは絶対にありません。弁護士が、守秘義務を負う代理人として、捜査機関を通じて被害者の方に連絡を取ることの許可を得る必要があります。

ステップ②:弁護士による謝罪と、示談金の提示

弁護士が、あなたに代わって被害者の方に連絡を取り、まずは丁重に謝罪の意をお伝えします。その上で、示談の話し合いを開始し、暴行罪の相場(10万円~30万円程度)を参考に、事案に応じた示談金を提示します。

ステップ③:法的に有効な「示談書」の作成

交渉がまとまったら、その合意内容を書面にします。この「示談書」には、以下の条項を盛り込むことが重要です。

示談金の支払いに関する条項

  • 宥恕条項
    「乙(被害者)は、甲(加害者)を宥恕し、甲の刑事処罰を望まない」
  • 被害届取下条項
    「乙は、本件に関し提出した被害届を、速やかに取り下げる」
  • 清算条項
    「本件に関し、本示談書に定めるほか、甲乙間には何らの債権債務がないことを相互に確認する」
  • 接触禁止条項
    「甲は、今後、正当な理由なく乙に連絡、接触しない」

ステップ④:示談成立の報告

示談金の支払いを完了させ、署名・押印済みの示談書を弁護士が検察官に提出することで、示談が成立したことを正式に報告します。

弁護士に相談するメリット

暴行事件の解決において、弁護士の存在は重要です。

  • 被害届が出される前の「事件化の阻止」
    被害者が警察に行く前にご相談いただければ、弁護士が直ちに被害者と交渉し、被害届を提出する前に示談を成立させ、事件化そのものを防げる可能性があります。これが最も理想的な解決です。
  • 逮捕の回避
    すでに被害届が出されている場合でも、弁護士が迅速に示談交渉を進め、その状況を捜査機関に伝えることで、「当事者間で解決の見込みがあるため、逃亡や証拠隠滅のおそれはない」と判断され、逮捕を回避できる可能性が高まります。
  • 円滑な示談交渉の実現
    加害者に対して怒りや恐怖を抱いている被害者の方と、加害者本人が直接交渉することは不可能です。第三者であり、法律の専門家である弁護士が間に入ることで、初めて冷静な話し合いの土俵が整い、円満な示談成立の可能性が生まれます。
  • 将来のトラブルを完全に防ぐ
    弁護士が作成する法的に完璧な示談書により、示談成立後に「やはり慰謝料が足りない」などと、追加の要求をされるといった、将来の民事トラブルを未然に防ぎます。

まとめ

たとえ怪我をさせていなくても、胸ぐらを掴んだり、突き飛ばしたりした行為で被害届が出されれば、暴行罪として捜査が開始され、前科がつくリスクが現実に生じます。

そのリスクを回避するための最も有効で確実な方法は、検察官が起訴・不起訴の処分を決定する前に、被害者の方との間で示談を成立させることです。

そして、その示談交渉は、あなたご自身で行うことはできません。被害届を出されたと知った、あるいは出されるかもしれないと感じたときは、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談することもご検討ください。私たちが、迅速な示談交渉を通じて、事件の穏便かつ円満な解決を実現し、あなたの未来を守ります。

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正当防衛はどこまで認められる?過剰防衛との境界線を弁護士が解説

2025-08-02
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はじめに

夜道で突然見知らぬ人物に絡まれた、酒の席で一方的に殴りかかってこられた…。このような状況で、自分や、その場にいる家族・友人の身に危険が迫ったとき、身を守るためにやむを得ず相手に反撃することがあります。

こうした反撃行為は、刑法で定められた「正当防衛」として、違法性が否定され、罪に問われない(無罪となる)可能性があります。「やられたからやり返した」という、ごく自然な自己防衛の行動です。

しかし、注意しなければならないのは、日本の法律において「正当防衛」が認められるためのハードルは、一般的に考えられているよりもかなり高いという事実です。

あなたの反撃が「身を守るためのやむを得ない範囲」を超えていると判断されれば、「過剰防衛」として処罰されたり、あるいは単なる「喧嘩」として、あなたも傷害罪の加害者として扱われたりする危険性が十分にあります。

この記事では、正当防衛が成立するための具体的な法的要件、そして多くの人が悩む「正当防衛」と「過剰防衛」の境界線はどこにあるのかを、過去の判例なども交えながら解説します。

Q&A

Q1. 相手は素手で殴りかかってきただけなのに、こちらが身近にあった傘や棒などで反撃したら、正当防衛にはなりませんか?

過剰防衛と判断される可能性が高まります。 正当防衛が認められるためには、反撃の手段や方法が、相手の攻撃に対して「相当性」を持つ必要があります。これを「武器対等の原則」と呼ぶことがあります。相手が素手であるのに対し、こちらが殺傷能力のある武器(棒、傘、石、ナイフなど)を使用した場合、それは「防衛の程度を超えた」行為と見なされやすくなります。ただし、相手が屈強な大男で、こちらは小柄な女性である、といった著しい体格差がある場合には、素手での反撃が不可能と認められ、武器の使用が正当化される余地もあります。

Q2. 口喧嘩の最中に、相手から「ぶっ殺すぞ」と言われたので、恐怖を感じて先に殴りかかりました。これは正当防衛ですか?

正当防衛とは認められない可能性があります。 正当防衛が成立するには、相手からの「急迫不正の侵害」、つまり、違法な攻撃が現に始まっているか、間近に迫っている必要があります。単なる言葉の脅し(「殺すぞ」という脅迫)だけでは、まだ具体的な身体への攻撃が始まっていないため、「侵害の急迫性」が認められにくいのです。この状況で先に手を出してしまうと、あなたの方が暴行罪・傷害罪の加害者と見なされてしまいます。

Q3. 相手が一旦攻撃をやめて逃げようとしたので、腹が立って追いかけて殴ってしまいました。これは正当防衛になりますか?

なりません。 これは正当防衛ではなく、単なる「報復」や「仕返し」と見なされます。Q2と同様、「侵害の急迫性」がすでに失われているからです。相手が攻撃をやめた、あるいは背中を向けて逃げ出した時点で、あなたに対する法益の侵害は終了しています。その後の攻撃は、防衛行為ではなく、新たな攻撃行為(違法な暴行)と評価されてしまいます。

解説

自分や他人を守るための正当な権利である「正当防衛」。その厳格な要件を、条文から読み解いていきましょう。

1. 正当防衛が成立するための「3つの要件」

正当防衛は、刑法第36条1項に定められています。

「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。」

この短い条文の中に、正当防衛が成立するための、以下の3つの重要な要件が全て含まれています。

要件①:「急迫不正の侵害」があること

これが、正当防衛が許される大前提です。

  • 不正の侵害
    法律に違反する攻撃のことです。殴る、蹴る、凶器で襲いかかるといった行為が典型例です。
  • 急迫性
    その「不正の侵害」が、現に存在しているか、または間近に迫っている状態を指します。
    • 認められない例①【過去の侵害】
      昨日殴られたことへの仕返しとして、今日相手を殴る。(報復行為)
    • 認められない例②【未来の侵害】
      「明日殴ってやる」と言われたので、今日のうちに先制攻撃を仕掛ける。(先制攻撃)
    • 認められない例③【侵害の終了後】
      相手が逃げ出した後に、追いかけて攻撃する。(追撃行為)

要件②:「自己又は他人の権利を防衛するため」の意思があること

反撃行為が、あくまで「自分や他人の身体・生命・財産などを守るため」という防衛の意思に基づいて行われたことが必要です。

もし、相手の攻撃をきっかけとして、積極的に相手を攻撃し、痛めつけてやろうという「攻撃の意思」が生まれた場合、それはもはや防衛行為ではなく、単なる「喧嘩」と評価されてしまいます。

要件③:「やむを得ずにした行為」であること

これが、実務上最も判断が難しく、争点になりやすい要件です。この「やむを得ずにした」という言葉は、さらに2つの要素に分解されます。

  • 防衛行為の「必要性」
    その反撃行為以外に、侵害を避けるための他の適切な手段がなかったこと。例えば、逃げることが容易にできたのに、あえて反撃した場合などは、必要性が否定されることがあります。
  • 防衛行為の「相当性」
    行った反撃の手段や程度が、防衛という目的を達成するために必要な範囲を超えていないこと。簡単に言えば、「やりすぎていないか」という点です。

2. 「正当防衛」と「過剰防衛」を分ける境界線

要件③の「相当性」の範囲を逸脱してしまった場合、それは「過剰防衛」となります。

過剰防衛(刑法第36条2項)とは?

「防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。」

過剰防衛は、正当防衛のように「罰しない(無罪)」とはなりませんが、通常の傷害罪などと比べて、刑が軽くなったり(減軽)、免除されたりする可能性があります。

では、その境界線はどこで判断されるのでしょうか。裁判所は、以下の要素を総合的に考慮して、社会一般の常識に照らして判断します。

  • 侵害の手段・程度 vs 防衛の手段・程度(武器対等の原則)
    相手の攻撃は素手だったか、凶器だったか。それに対し、こちらは何を使って、どの程度の力で反撃したか。
  • 侵害される法益 vs 侵害した法益のバランス
    相手が何をしようとしていたか(軽い暴行か、生命を脅かす攻撃か)。それに対し、相手にどのような結果(軽い打撲か、重傷か)を与えたか。
  • 当事者の属性
    加害者と被害者の性別、年齢、体格、格闘技経験の有無など。

例えば、屈強な男に素手で殴られ続けた小柄な女性が、とっさにカバンで反撃して相手に怪我をさせたケースは正当防衛と認められやすいでしょう。しかし、逆に屈強な男が、小柄な女性に平手打ちされたことに対し、殴り倒して骨折させたようなケースは、過剰防衛、あるいは単なる傷害罪と判断される可能性が高いのです。

弁護士に相談するメリット

「喧嘩」として扱われるか、「正当防衛」として無罪を勝ち取れるかは、捜査の初期段階での主張と立証がすべてです。

  • 一貫した「正当防衛」の主張
    事件直後の混乱した状況では、ご自身で法的に整理して状況を説明することは困難です。弁護士は、あなたから詳細な事情を聞き取り、防犯カメラ映像などの客観的証拠を分析した上で、「本件は単なる喧嘩ではなく、正当防衛である」という一貫した主張を、捜査の初期段階から警察・検察に対して行います。
  • 「喧嘩両成敗」という安易な処理への対抗
    警察は、双方が手を出していると、安易に「喧嘩」として双方を立件しようとする傾向があります。弁護士は、どちらの攻撃が「不正の侵害」の始まりであったかを法的に明確にし、あなたが「防衛者」であったことを強く訴え、不起訴処分を求めます。
  • 過剰防衛の主張による刑の減軽・免除
    たとえ反撃が行き過ぎてしまったと認めざるを得ない場合でも、弁護士は諦めません。相手の執拗な攻撃によって、あなたがどれほど恐怖し、パニックに陥っていたか、その中で冷静な判断が不可能であったことなどを詳細に主張し、「過剰防衛」の適用による、最大限有利な処分(刑の減軽や免除)を目指します。

まとめ

正当防衛は、あなたに与えられた正当な権利です。しかし、その権利が認められるためのハードルは高く、その判断はきわめて専門的です。反撃のほんのわずかな違いが、「正当防衛(無罪)」、「過剰防衛(減軽・免除)」、そして「単なる傷害罪(処罰)」という異なる結果を招きます。

やむを得ず相手に手を出してしまい、ご自身の行為が正当防衛にあたるのではないかと考えている方は、決して一人で判断せず、警察の取り調べを受ける前に、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談することもご検討ください。私たちが、あなたの正当な権利を守るために、法的な観点から最善の弁護活動を行います。

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傷害事件の示談金相場は?治療費・慰謝料の計算方法と交渉のポイント

2025-08-01
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はじめに

傷害事件を起こしてしまった場合、不起訴処分を獲得し、前科がつくことを回避するために、最も重要となるのが被害者との示談交渉です。被害者の方に誠心誠意謝罪し、与えてしまった損害を賠償することで、円満な解決を図ることが、刑事手続きにおいてきわめて有利な情状として考慮されます。

そして、その示談交渉において、最も大きな論点となるのが「示談金」の額です。

示談金は、単なる「お詫びの気持ち」として漠然と決められるものではありません。怪我の治療にかかった「治療費」、仕事を休んだことによる「休業損害」、そして何より、怪我をさせられたこと自体の精神的苦痛に対する「慰謝料」など、法的な根拠に基づいて計算されるべきものです。

「一体いくら支払えば、被害者の方に納得してもらえるのだろうか」「もし、相手から法外な金額を請求されたらどうしよう」といった、金銭に関する悩みや不安は尽きないでしょう。

この記事では、傷害事件の示談金がどのような内訳で構成されているのか、その具体的な計算方法と相場、そして交渉を円滑に進めるための重要なポイントについて解説します。

Q&A

Q1. 示談金の内訳にある「慰謝料」とは、具体的に何に対するお金ですか?

慰謝料とは、被害者が被った精神的苦痛に対して支払われるお金です。傷害事件における慰謝料は、主に「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」を指します。これは、怪我をしたこと自体の痛みや苦しみはもちろん、治療のために病院への入院や通院を余儀なくされたこと、普段通りの生活が送れなくなったこと、といった精神的な負担を金銭に換算したものです。示談金の中で、最も大きな割合を占めることが多い重要な項目です。

Q2. 相手の怪我は、病院に行ったら全治1週間の打撲と診断されました。この場合の示談金は、どのくらいが相場ですか?

全治1週間程度の比較的軽微な怪我の場合、示談金の総額は10万円~30万円程度が一つの目安となります。内訳としては、病院での診察費や薬代といった「治療費」の実費に、10万円前後の「慰謝料」を加えた金額となることがあります。ただし、これはあくまで相場であり、暴行の態様が悪質であったり、被害者の処罰感情が非常に強かったりする場合には、この金額を上回ることもあります。

Q3. 示談金は、いつまでに支払うべきですか?タイミングが重要だと聞きました。

できるだけ早く支払うべきです。 刑事手続きには、逮捕後72時間、勾留期間20日間といった時間制限があります。検察官が起訴・不起訴を決定する前に示談を成立させ、その事実を報告しなければ、不起訴処分を勝ち取ることは難しくなります。そのため、事件発生後、できるだけ早い段階で弁護士に依頼し、示談交渉に着手することが重要です。理想は、検察官が処分を決定する勾留期間の満期日までに、示談金の支払いを完了し、示談書を提出することです。

解説

示談金の適正額を知ることが、円満な事件解決への第一歩です。その内訳と計算方法を詳しく見ていきましょう。

1. 傷害事件における示談金の内訳を理解する

傷害事件の示談金は、漠然とした「迷惑料」ではありません。主に、以下の項目から構成されています。これらを一つずつ積み上げて、総額を計算していきます。

① 治療関係費

怪我の治療のために、実際にかかった費用です。基本的には、被害者の方から提出される領収書に基づいて、実費を全額支払います。

  • 診察費、検査費用、手術費用、入院費用
  • 処方された薬代、湿布代
  • 通院のための交通費(公共交通機関、タクシー代など)
  • 入院中の雑費(日用品の購入費など)

② 休業損害

被害者が、怪我の影響で仕事を休まざるを得なくなり、そのために得られなくなった収入(減収分)に対する補償です。

  • 給与所得者の場合
    会社の経理担当者などに「休業損害証明書」を作成してもらい、その記載に基づいて計算します。
  • 自営業者の場合
    前年度の確定申告書などを基に、1日あたりの基礎収入を算出して計算します。

③ 入通院慰謝料(傷害慰謝料)

これが、示談金の中核をなす、精神的苦痛に対する賠償です。金額に明確な定価はありませんが、主に治療期間(入院日数や通院期間)を基準として算定されます。治療が長引けば長引くほど、精神的苦痛も大きいと判断され、慰謝料額は高額になります。

④ その他

暴行によって被害者の物が壊れた場合には、その修理費や時価相当額も賠償の対象となります。

  • 壊れた眼鏡の修理・購入費用
  • 破れた衣服の購入費用
  • 破損したスマートフォンの修理費用 など

2. 慰謝料の計算方法と治療期間別の相場

慰謝料の額は、交渉で最も争点になりやすい部分です。その算定にあたっては、長年の実務の蓄積がある、交通事故の損害賠償で用いられる算定基準が参考にされることが一般的です。

慰謝料の額を決定する最大の要因は「治療期間」

慰謝料の額は、被害者の怪我の程度、つまり治療にかかった期間(入院・通院期間)の長さにほぼ比例します。診断書に記載された「全治〇週間」といった見込み期間や、実際に通院が終了するまでの期間が、算定の基礎となります。

治療期間別の慰謝料相場

以下に、怪我の程度に応じた慰謝料額の目安を挙げます。ただし、以下はあくまでも目安であり、実際には暴行の態様や処罰感情や資力等、様々な事情で増減します。

怪我の程度(治療期間)慰謝料の目安該当する傷病の例
全治1週間~2週間10万円 ~ 30万円軽い打撲、擦過傷、捻挫
全治1ヶ月程度30万円 ~ 50万円むちうち、比較的軽度の骨折
全治2ヶ月~3ヶ月50万円 ~ 100万円骨折、靭帯損傷、手術を伴わない怪我
全治半年以上100万円以上複数箇所の骨折、手術を伴う重傷

後遺障害が残った場合

治療を続けても症状が完治せず、「後遺障害」が残ってしまった場合は、上記の入通院慰謝料とは別枠で、「後遺障害慰謝料」が発生します。後遺障害の等級に応じて、その額は数百万円から数千万円にのぼることもあり、示談交渉はさらに複雑かつ高額になります。

3. 示談交渉を円滑に進めるための交渉術とポイント

適正な示談金を把握した上で、交渉を有利に進めるためには、いくつかの重要なポイントがあります。

  • ポイント①:何よりもまず、誠意ある謝罪から始める
    示談は、単なる金銭の支払い契約ではありません。被害者の傷ついた心を癒し、許しを得るためのプロセスです。金額の話に入る前に、まずは弁護士を通じて、加害者の真摯な謝罪の気持ちと反省の態度を、誠心誠意お伝えすることが全ての始まりです。
  • ポイント②:治療費の支払いを先行させる
    示談交渉が長引く場合でも、被害者の方は治療費を立て替え続けている状態です。その負担を少しでも和らげるため、「示談成立前ですが、当面の治療費だけでも先にお支払いさせてください」と申し出ることで、あなたの誠意が伝わり、その後の交渉が円滑に進むことがあります。
  • ポイント③:客観的な根拠(証拠)に基づいて交渉する
    被害者側から金額の提示があった際には、その内訳と根拠を明確に示してもらうことが重要です。治療費であれば領収書、休業損害であれば証明書など、客観的な資料に基づかない、感情的な高額請求に対しては、弁護士が法的な観点から毅然と交渉します。

弁護士に示談交渉を依頼するメリット

傷害事件の示談交渉は、法律と交渉の専門家である弁護士に任せることもご検討ください。

  • 法的に妥当な示談金額を算定・提示できる
    弁護士は、交通事故の賠償実務で用いられる、裁判になった場合にも通用する客観的な基準(通称「弁護士基準」)を用いて、事案に応じた適正な慰謝料額を算定します。これにより、感情論に流されず、法的な根拠に基づいた交渉が可能です。
  • 被害者の感情に配慮し、冷静な交渉を実現する
    加害者への怒りを抱える被害者に対し、第三者である弁護士が冷静に対応することで、感情的な対立を避け、円満な解決を目指すことができます。
  • 将来の紛争を完全に防ぐ、有効な示談書を作成する
    示談が成立した際には、「本件に関する民事上・刑事上の一切の問題は、本示談をもってすべて解決とし、今後、相互に何らの請求をしない」といった清算条項を含む、法的に完璧な示談書を作成します。これにより、後から追加で請求されるといった将来のトラブルを未然に防ぎます。

まとめ

傷害事件の示談金は、「治療費」や「休業損害」といった実費に加え、怪我の治療期間に応じた「慰謝料」から構成されます。その金額は、軽い怪我でも数十万円、骨折などの場合は100万円を超え、後遺障害が残ればさらに高額になる可能性があります。

このデリケートで、時に感情的な対立を生みやすい金銭交渉を、当事者だけで円満に解決することはき困難です。

傷害事件を起こしてしまったら、まずはその責任の重さを真摯に受け止め、お早めに弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。私たちが、法的な根拠に基づいた適正な示談金額を算定し、被害者の方への誠実な対応を通じて、あなたの人生の再スタートをサポートします。

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喧嘩で相手に怪我をさせたら?傷害罪で逮捕された後の流れと対処法

2025-07-31
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はじめに

酒の席での口論、路上での些細な言い争いから、ついカッとなって手を出してしまい、相手に怪我をさせてしまった…。きっかけは、ほんの些細なことかもしれません。しかし、「喧嘩両成敗」という言葉は、残念ながら法律の世界では通用しません。

相手に怪我を負わせたという事実がある以上、あなたは「傷害罪」の加害者として、警察の捜査対象となり、ある日突然、逮捕されてしまう可能性があります。逮捕されれば、会社や学校に行けなくなり、家族に心配をかけ、これまでの平穏な日常は一瞬にして崩れ去ります。

傷害罪で逮捕されてしまったら、その後はどうなるのか。どうすれば前科がつくことを回避し、社会生活への影響を最小限に抑えることができるのか。

この記事では、喧嘩が原因で傷害事件を起こし、逮捕されてしまった後の具体的な手続きの流れと、不起訴処分を勝ち取り、人生を再スタートさせるための最善の対処法について解説します。

Q&A

Q1. 喧嘩で逮捕されました。相手も殴ってきたのに、なぜ私だけが逮捕されるのですか?

喧嘩で双方が手を出している場合でも、警察が双方を同時に逮捕するケースはまれです。怪我の程度が重い方、あるいは先に手を出したと見なされた方が、一方的に逮捕されることは珍しくありません。また、相手がすぐに被害届を提出し、あなたがその場を立ち去っていた場合なども、あなたが加害者として先に逮捕される可能性があります。相手も手を出してきたという事実は、後の捜査や裁判で「正当防衛」や「過剰防衛」を主張したり、示談交渉を有利に進めたりするための重要な事情となりますが、逮捕そのものを免れる理由にはなりにくいのが実情です。

Q2. 相手の怪我は、血も出ていないような軽い打撲です。それでも逮捕されるのですか?

はい、逮捕される可能性は十分にあります。逮捕するかどうかの判断は、怪我の重さだけで決まるわけではありません。警察は、犯行態様の悪質性(凶器を使ったか、一方的だったかなど)、加害者が反省しているか、そして逃亡や証拠隠滅のおそれがあるか、といった点を総合的に考慮します。たとえ怪我が軽くても、あなたが現場から立ち去っていたり、住所不定であったり、あるいは取り調べに対して非協力的な態度をとったりすれば、「逃亡・証拠隠滅のおそれあり」と見なされ、逮捕に至るケースは少なくありません。

Q3. 傷害罪で逮捕されたら、会社に連絡されてクビになってしまいますか?

警察が、捜査の一環として会社に連絡(在籍確認など)をすることはありますが、事件の内容を詳細に話したり、逮捕の事実を積極的に伝えたりすることは通常ありません。しかし、逮捕後に勾留され、身体拘束が長引けば、必然的に会社を無断で長期間欠勤することになります。 これが原因で、就業規則に基づき、解雇(懲戒解雇など)されてしまうリスクは非常に高くなります。逮捕されても、早期に身柄が解放されれば、会社に知られることなく、あるいは穏便に処理できる可能性は残ります。そのためには、一刻も早い弁護士による対応が重要です。

解説

「ただの喧嘩」が、人生を揺るがす「傷害事件」に変わる瞬間。その後の流れと正しい対処法を学びましょう。

1. 「喧嘩」が「傷害事件」となり、逮捕に至るまで

喧嘩が傷害事件として扱われる、決定的なきっかけ。それは、相手が病院へ行き、医師から「診断書」を取得して、警察に提出することです。

  • 殴る、蹴る → 打撲、骨折、脳震盪
  • 突き飛ばす → 転倒による擦り傷、捻挫、脱臼
  • 罵声を浴びせ続ける → PTSD、急性ストレス障害

これらの「傷害」が診断書によって客観的に証明され、被害届と共に警察に提出された時点で、あなたの行為は「ただの喧嘩」ではなく、刑法204条に定められた「傷害事件」として、本格的な捜査の対象となります。

そして、前述のQ2で解説したように、怪我の程度や犯行態様の悪質性、そしてあなたの身元や態度などを考慮した上で、警察が「逮捕の必要がある」と判断すれば、逮捕状に基づき、ある日突然、あなたの日常は終わりを告げるのです。

2. 傷害罪で逮捕された後の流れ【タイムリミットとの戦い】

逮捕されてからの手続きは、法律で厳格な時間制限が定められており、まさに時間との戦いとなります。

  • 逮捕 ~ 送致(最大48時間)
    逮捕されると、警察署に連行され、留置場で身柄を拘束されます。この間、事件についての詳細な取り調べが行われます。そして、逮捕から48時間以内に、事件は検察庁に引き継がれなければなりません(送致)。
  • 送致 ~ 勾留請求(最大24時間)
    事件の送致を受けた検察官は、自らもあなたを取り調べます。そして、送致から24時間以内に、引き続き身柄を拘束して捜査する必要があるとして「勾留(こうりゅう)」を裁判官に請求するか、あるいは身柄を釈放するかを判断します。
    逮捕からここまでの最大72時間が、長期の身体拘束を避けるための最初の、そして最大の正念場です。
  • 勾留決定(最大20日間)
    裁判官が検察官の請求を認め、勾留が決定されると、原則として10日間、さらに捜査が必要な場合は最大10日間延長され、合計で最長20日間も、警察の留置場で生活しなければならなくなります。この期間が、あなたの社会生活(仕事、学校、家庭)に致命的なダメージを与えるのです。
  • 検察官による最終処分(起訴・不起訴)
    勾留期間が満了するまでに、検察官は、あなたを刑事裁判にかける「起訴」とするか、裁判にはかけずに事件を終了させる「不起訴」とするか、最終的な処分を決定します。

3. 前科を回避するための、最も有効な対処法

傷害事件で前科がつくことを回避し、平穏な日常を取り戻すためのゴール。それは、「不起訴処分(特に起訴猶予)」を勝ち取ることです。そして、そのための最も有効な鍵となるのが、被害者との示談交渉です。

① 一刻も早く、示談交渉を開始する

これが、傷害事件の弁護活動において、最も優先すべきことです。逮捕されたら、考えるべきは言い訳ではなく、まず被害者への謝罪と賠償です。

  • 弁護士に依頼する
    逮捕直後、すぐに弁護士に依頼し、被害者との示談交渉に着手してもらいます。加害者本人や家族が直接交渉することは、被害者の感情を逆なでし、ほぼ不可能です。
  • 示談の内容
    示談交渉では、誠心誠意の謝罪を伝えるとともに、怪我の治療費、慰謝料、仕事を休んだ分の休業損害などを支払うことを約束します。
  • 目指すべきゴール
    最終的に、示談書に「被害届を取り下げます」「加害者の処罰を望みません(宥恕します)」という文言を入れてもらうことを目指します。

② 勾留を阻止し、早期の身柄解放を目指す

逮捕後の72時間以内に示談交渉を開始し、たとえ示談成立まで至らなくても、「現在、弁護士を通じて誠実に示談交渉を進めています」という事実を検察官や裁判官に示すことができれば、「当事者間で解決の見込みがあるなら、あえて身柄を拘束する必要はない」と判断され、勾留を阻止できる可能性が高まります。早期に釈放されれば、会社や学校への影響も最小限に抑えることができます。

③ 自分に有利な事情を主張する

示談交渉と並行して、あなたにとって有利な事情を法的に主張することも重要です。

  • 正当防衛・過剰防衛
    相手から先に攻撃されたという事実があれば、その点を主張します。
  • 喧嘩の経緯
    相手側にも挑発などの非があったことを、客観的な証拠(目撃者の証言など)に基づいて主張します。
  • 反省の態度
    深く反省し、二度と過ちを繰り返さないという誓約書や、家族による監督計画書などを提出します。

弁護士に相談するメリット

傷害罪で逮捕されたという危機的状況において、弁護士はあなたの味方となります。

  • 逮捕直後の迅速な接見と的確なアドバイス
    逮捕後、ご家族ですら面会できない空白の時間に、弁護士はすぐに駆けつけ、取り調べへの対応策を授け、孤独と不安の中にいるあなたを精神的に支えます。
  • 被害者との円滑な示談交渉
    加害者に対して強い怒りや憎しみを抱いている被害者との間に、冷静な第三者である弁護士が入ることで、初めて話し合いのテーブルが設定されます。弁護士は、被害者の心情に最大限配慮しながら、円満な示談成立を目指します。
  • 勾留阻止による早期の社会復帰
    弁護士は、示談交渉の進捗状況をリアルタイムで検察官や裁判官に伝え、意見書を提出するなどして、勾留を阻止し、あなたの早期の身柄解放を実現するために全力を尽くします。
  • あなたに有利な法的の主張の組み立て
    喧嘩の状況を詳細に聞き取り、防犯カメラ映像などを分析した上で、正当防衛や過剰防衛といった、あなたに有利な法的主張を組み立て、捜査機関に訴えます。

まとめ

ほんの些細なきっかけで始まった喧嘩が、傷害罪での逮捕という、あなたの人生を根底から覆しかねない事態に発展します。逮捕後の手続きは、刻一刻と、あなたに不利な方向へと進んでいきます。

その流れを食い止め、前科をつけずに事件を解決するためのポイントは、検察官が起訴・不起訴を決定する前に、いかに早く被害者との示談を成立させられるか、という点になります。

そして、その専門的かつ繊細な示談交渉は、あなたご本人やご家族では決して行うことができません。カッとなって手を出してしまったという事実を真摯に受け止め、深く反省したのなら、一刻も早く弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。それが、あなたの人生をやり直すための第一歩です。

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暴行罪と傷害罪の違いとは?刑罰の重さと慰謝料の相場を弁護士が比較解説

2025-07-30
Home » コラム » ページ 2

はじめに

お酒の席での口論がエスカレートして相手の胸ぐらを掴んでしまった、路上で些細なことから言い争いになり、カッとなって相手を突き飛ばしてしまった…。私たちの日常では、このようなトラブルがきっかけで、相手に手を出してしまうことがあります。

このような行為は、刑法上の「暴行罪」や「傷害罪」に問われる可能性があります。この2つの犯罪は密接に関連していますが、「どこからが暴行で、どこからが傷害なのか」「科される刑罰の重さや、支払うべき慰謝料の額はどれほど違うのか」を正確に理解している方は多くありません。

「殴ったけれど、相手に怪我はなかったはずだ」「物を投げつけたが、相手には当たらなかった」といったケースでは、果たしてどちらの罪が適用されるのでしょうか。

この記事では、暴行罪と傷害罪の運命を分ける決定的な違い、それぞれの刑罰の重さ、そして民事上の責任である慰謝料(示談金)の相場について、具体的な事例を交えながら、弁護士法人長瀬総合法律事務所が徹底的に比較・解説します。

Q&A

Q1. 相手の身体に全く触れていなくても、暴行罪になることはありますか?

はい、なる可能性があります。 暴行罪における「暴行」とは、人の身体に対する不法な有形力の行使を指しますが、これは必ずしも物理的な接触を必要としません。判例では、人の耳元で太鼓を連打する、石を投げつける(ただし当たらなかった)、狭い室内で日本刀を振り回すといった行為も、暴行罪にあたるとされています。相手の身体に直接危険を及ぼすような不法なエネルギーの作用があれば、暴行と見なされる可能性があるのです。

Q2. いわゆる「喧嘩」で、相手も手を出してきました。この場合、私の罪は軽くなりますか?

「喧嘩両成敗」という言葉がありますが、刑事事件では、相手も暴力を振るってきたからといって、ご自身の罪が自動的に軽くなったり、なくなったりするわけではありません。ただし、相手の攻撃に対して身を守るためにやむを得ず反撃した場合は「正当防衛」が成立し、罪に問われない可能性があります。また、反撃が行き過ぎた場合でも「過剰防衛」として、刑が軽くなることがあります。どちらの暴行が先に始まったか、攻撃の程度など、具体的な状況によって判断が異なるため、専門家である弁護士に相談し、法的な主張を組み立てることが重要です。

Q3. 暴行罪と傷害罪では、被害者に支払う示談金の相場はどのくらい違いますか?

大きく異なります。暴行罪の場合、相手に怪我がないため、示談金は純粋な迷惑料・慰謝料となり、10万円~30万円程度が一つの相場です。一方、傷害罪の場合、この慰謝料に加えて治療費休業損害などが加算されるため、示談金は高額になります。例えば、全治1ヶ月の怪我であれば、慰謝料だけで30万円~50万円、そこに治療費などが上乗せされます。後遺障害が残るような重傷の場合は、数百万円以上にのぼることもあり、両者の差は歴然です。

解説

「暴行」と「傷害」。似ているようで全く違う、この2つの犯罪の境界線を詳しく見ていきましょう。

1. 暴行罪と傷害罪の決定的な違いは「傷害という結果」の有無

暴行罪と傷害罪を分けるたった一つの、しかし決定的な違い。それは、あなたの行為によって、相手が「怪我(傷害)」をしたかどうかという結果の有無です。

暴行罪(刑法第208条)とは?

暴行罪は、「人の身体に対し暴行を加えた者が、傷害するに至らなかったとき」に成立します。

ポイントは、相手が怪我をしなくても、暴行行為そのものがあれば成立するという点です。ここでの「暴行」は、一般的に考えられているよりも広い意味を持ちます。

  • 物理的な接触がある例
    • 殴る、蹴る
    • 胸ぐらを掴む、髪を引っ張る
    • 腕を強く掴む、身体を突き飛ばす
  • 物理的な接触がない例(有形力の行使)
    • 相手をめがけて石や物を投げつける(当たらなくても成立)
    • 耳元で大声やサイレンを鳴らす
    • 自動車で幅寄せをして、衝突の危険を生じさせる

これらの行為の結果、相手が怪我をしなければ「暴行罪」にとどまります。

傷害罪(刑法第204条)とは?

傷害罪は、「人の身体を傷害した者」が処罰の対象となります。

つまり、上記の暴行罪にあたる行為の結果として、相手に「傷害」という結果が発生した場合に、暴行罪から傷害罪へと罪名がステップアップするのです。

ここでの「傷害」とは、人の生理的機能に障害を与えることを指し、これもまた広い意味で解釈されます。

  • 切り傷、打撲、骨折、捻挫といった外傷
  • 心的外傷後ストレス障害(PTSD)、うつ病、不眠症といった精神疾患
  • 病原菌に感染させる行為

暴行罪がいわば「傷害未遂」のような位置づけであり、傷害という結果が発生したか否かで、両罪は明確に区別されます。

2. 比較すれば一目瞭然!刑罰の重さの違い

適用される罪名が違うということは、科される刑罰の重さも全く異なります。

  • 暴行罪の刑罰
    → 2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料
  • 傷害罪の刑罰
    → 15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金

両者を比較すると、その差は歴然です。暴行罪の拘禁刑の上限が2年であるのに対し、傷害罪は15年と、きわめて重い刑罰が定められています。罰金刑の上限も、30万円と50万円で差があります。

この法定刑の違いは、逮捕後の勾留の判断や、最終的な判決(実刑か執行猶予か)に大きく影響します。

3. 民事上の責任「慰謝料(示談金)」の相場比較

刑事上の刑罰とは別に、加害者は被害者に対して、与えた損害を賠償する民事上の責任を負います。その中心となるのが「慰謝料」です。

暴行罪の場合の示談金相場:10万円 ~ 30万円程度

暴行罪では、相手に怪我がないため、原則として治療費は発生しません。そのため、示談金は、暴行を受けたことによる精神的苦痛に対する「慰謝料」がその主な内訳となります。金額は、暴行の態様や時間、被害者の処罰感情などによって変動しますが、10万円から30万円程度でまとまるケースが多いです。

傷害罪の場合の示談金相場:数十万円 ~ 数百万円以上

傷害罪の示談金は、暴行罪よりもはるかに高額になります。その内訳は、主に以下の3つから構成されます。

  1. 治療関係費
    病院での治療費、薬代、入院費、通院交通費などの実費。
  2. 休業損害
    怪我で仕事を休んだために得られなくなった収入。
  3. 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
    怪我の治療のために通院・入院を強いられたことによる精神的苦痛への賠償。この金額は、治療期間が長くなるほど高額になります。 例えば、全治1ヶ月なら30万~50万円、全治3ヶ月なら70万~90万円、といった形が目安となります。

さらに、治療を続けても完治せず、後遺症が残ってしまった場合は、「後遺障害慰謝料」として、別途数百万円から数千万円の賠償が必要になることもあります。

4. 暴行のつもりが傷害罪に?「結果的加重犯」の恐怖

傷害罪には、もう一つ知っておくべき重要な性質があります。それは、傷害の結果を生じさせるつもりがなくても、暴行の故意さえあれば傷害罪が成立する、という点です。これを「結果的加重犯」といいます。

例えば、「ちょっと懲らしめるつもりで、軽く肩を突き飛ばしただけ」だったとします。この時点では「暴行の故意」しかありません。しかし、もし相手がその勢いで転倒し、頭を打って重傷を負ってしまった場合、あなたは「傷害罪」の責任を問われます。「そんな大怪我をさせるつもりはなかった」という言い訳は通用しないのです。

自分の意図を超えた重い結果について、重い刑事責任を負わされるリスクが、暴行・傷害事件には常に潜んでいます。

弁護士に相談するメリット

カッとなって手を出してしまった場合、早期に弁護士に相談することで、事態の悪化を防ぎ、有利な解決を目指すことができます。

  • 傷害罪ではなく、暴行罪での処理を目指す
    相手の診断書の内容を精査し、怪我の程度が極めて軽微であることや、あなたの暴行と相手の怪我との間に因果関係がないことなどを主張し、傷害罪ではなく、より軽い暴行罪として扱われるよう、捜査機関に働きかけます。
  • 早期の示談交渉による円満解決
    暴行・傷害事件では、何よりも被害者への謝罪と賠償(示談)が重要です。弁護士が代理人として迅速に示談交渉を開始し、被害届の取下げや、当事者間の円満な解決を目指すことで、不起訴処分となる可能性を大きく高めます。
  • 適正な慰謝料額での示談成立
    被害者側から法外な示談金を請求された場合でも、弁護士が過去の裁判例や法的な根拠に基づき、適正な金額での解決を図ります。感情的な対立を避け、冷静な交渉が可能です。
  • 正当防衛・過剰防衛の主張
    事件の状況を法的に分析し、相手からの「急迫不正の侵害」があったと認められる場合には、正当防衛として無罪を主張します。また、反撃が行き過ぎた場合でも、過剰防衛として刑の減軽・免除を求めます。

まとめ

暴行罪と傷害罪。この2つを分けるのは、相手が怪我をしたかどうかという、紙一重の結果の違いです。しかし、その違いによって、科される刑罰の重さ、支払うべき慰謝料の額は、天と地ほども変わってきます。

そして、一度手を出してしまえば、自分ではコントロールできない深刻な結果を招き、傷害罪という重い罪に問われるリスクと、常に隣り合わせです。

もし、あなたがカッとなって手を出してしまい、相手に暴行を加えてしまったら、どうか一人で悩まず、すぐに弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。事件が大きくなる前に、迅速かつ誠実な対応を始めることが、あなたの未来を守るための最善の一手です。

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痴漢冤罪で捕まったらどうする?無実を証明するためのガイド

2025-07-28
Home » コラム » ページ 2

はじめに

「私は、やっていない!」

心の中ではそう叫んでいても、満員電車の中で被害を訴える人の震える声と、周囲からの疑惑の眼差しの中で、あなたの声は誰にも届かない…。痴漢事件は、明確な物証が乏しく、「被害者の供述」が決定的な証拠となりやすいため、冤罪(えんざい)が起こりやすい犯罪類型の典型例として知られています。

もし、あなたが痴漢の犯人だと濡れ衣を着せられ、その場で誤った対応をしてしまえば、無実であるにもかかわらず有罪判決を受け、人生に「前科」という拭い去れない汚点を刻まれてしまう可能性があります。失われるのは、職や社会的信用、そして大切な家族との平穏な日々です。

この記事では、万が一、あなたが痴漢冤罪という悪夢に巻き込まれてしまった場合に、どう行動し、どうやって自らの無実を証明していくべきか、そのための具体的な防御策と戦い方を解説します。

Q&A

Q1. やっていないのですから、警察で正直に、誠実に話をすれば、いつかは信じてもらえますよね?

その考えは危険です。警察は、あなたを「犯人である」という前提(被疑者)で取り調べを行います。あなたの話に耳を傾けるふりをしながら、供述の些細な矛盾点や曖昧な部分を突き、巧みに誘導して、あたかも罪を認めたかのような供述調書を作り上げようとします。警察は、あなたの味方ではありません。 やっていないのであれば、安易に供述するのではなく、「弁護士が来るまで一切話しません」と黙秘権を毅然と行使することが、あなたを守るための重要な防御策です。

Q2. 無実なのに、弁護士から「示談した方が早く解決する」と勧められることはありますか?応じるべきですか?

ありえないことであり、また応じるべきではありません。 無実であるにもかかわらず示談をするということは、やっていない罪を自ら認めることに他なりません。それは「解決」ではありません。

Q3. 痴漢冤罪を晴らすには、どのくらいの時間がかかりますか?費用も心配です。

残念ながら、痴漢冤罪を証明する戦いは、長期戦になることが少なくありません。捜査段階で不起訴になれば数ヶ月で終わることもありますが、起訴されて裁判で無罪を争うことになれば、判決まで1年以上かかることも珍しくありません。身体拘束が続けば、その間の精神的・経済的負担は計り知れません。だからこそ、捜査の初期段階でいかに早く身柄を解放させ、的確な証拠収集を行えるかが重要になります。費用についても、長期化すればそれだけ高額になる可能性がありますが、あなたの人生を取り戻すための、必要な費用とお考えください。

解説

無実の罪から人生を守るための戦い。その具体的なステップと戦略を解説します。

ステージ1:事件発生直後 ~ 逮捕【絶対に守るべき鉄則】

始まりは、痴漢を疑われたその瞬間です。ここでの対応が、その後の運命を決定づけます。

  • 鉄則①:絶対に罪を認めない、謝らない
    パニックや恐怖から、「すみません」「当たったかもしれません」といった言葉を発してはいけません。前述の通り、これは「自白」と見なされます。たとえ相手が興奮していても、冷静に、しかし断固として「私はやっていません」と伝え続けてください。
  • 鉄則②:「弁護士を呼びます」と宣言する
    「弁護士が来るまで、これ以上お話しすることはありません。」この一言が、あなたを守る盾となります。すぐにスマートフォンを取り出し、刑事事件、特に痴漢冤罪の弁護経験が豊富な弁護士を探し、電話をかけてください。
  • 鉄則③:その場から逃げない
    逃走は「犯人だから逃げた」と判断されるだけです。たとえ身の危険を感じても、その場に留まり、弁護士の到着を待つか、警察の到着を待ってください。

ステージ2:捜査段階【無実を証明する証拠を集める】

逮捕されてしまった場合、弁護士は直ちに以下の活動を開始し、不起訴処分による早期解決を目指します。

① 勾留の阻止

弁護士は、逮捕直後からあなたと接見し、取り調べへの対応を徹底させるとともに、検察官や裁判官に対し、「客観的証拠がなく、逃亡や証拠隠滅のおそれもない」として、勾留請求しないよう、あるいは勾留請求を却下するよう、働きかけます。身体拘束からの早期解放は、その後の戦いのために重要です。

② 客観的証拠の収集と分析

痴漢冤罪の弁護活動は、まさに「探偵」のような地道な証拠収集活動です。

  • 防犯カメラ映像の徹底的な精査
    駅や車両内のあらゆる防犯カメラ映像を入手・分析し、あなたの手の動きをコマ送りで確認します。手がカバンやスマホ、つり革にあったことを証明できれば、それが無実の鉄証となります。
  • 携帯電話の解析
    犯行時刻とされた時間帯に、あなたがウェブサイトを閲覧していた履歴、メールやLINEの送受信履歴、ゲームのプレイ履歴などがあれば、それも「痴漢行為は物理的に不可能だった」ことを示す証拠となります。
  • 被害者や目撃者の供述の矛盾点の洗い出し
    弁護士は、捜査で得られた供述調書を精査し、「最初に言っていたことと話が変わっている」「客観的な状況(電車の揺れなど)と矛盾している」といった、供述の信用性を揺るがす矛盾点を探し出します。

ステージ3:刑事裁判【法廷で無罪を勝ち取る】

残念ながら検察官が起訴に踏み切った場合、戦いの舞台は法廷に移ります。法廷に移行した後も、弁護活動は重要です。痴漢冤罪事件は、裁判官も慎重に審理する傾向にあり、無罪判決の可能性はあります。

  • 証拠に基づく的確な主張
    捜査段階で収集した、あなたに有利な客観的証拠(防犯カメラ映像など)を、法廷で裁判官に示します。
  • 反対尋問による、被害者供述の切り崩し
    弁護士が、法廷で被害者や目撃者に対し、直接質問(反対尋問)を行います。供述の曖昧な点や矛盾点を鋭く追及し、裁判官に「この人の証言だけでは、有罪とは断定できない」という心証を抱かせます。
  • 被告人質問での主張
    最後に、あなたが被告人として、自らの言葉で、潔白であること、事件当日の具体的な状況を、自信を持って堂々と述べます。

裁判官が、検察官の挙げる証拠に対し、「合理的な疑いを差し挟む余地がある」と判断すれば、あなたに「無罪」判決が言い渡されます。

痴漢冤罪に巻き込まれた際の弁護士の必要性

無実のあなたが、たった一人で国家権力である警察・検察と戦うことは非常に困難です。痴漢冤罪の戦いにおいて、弁護士は以下のような、あなたにとってパートナーとなります。

  • 「精神的支柱」
    逮捕され、社会から隔離され、「犯罪者」として扱われる中、誰もがあなたを疑いの目で見ます。そんな絶望的な状況で、あなたの無実を信じ、最後まで共に戦ってくれる弁護士の存在は、何物にも代えがたい精神的な支えとなります。
  • 専門家としての「証拠分析能力」と「法廷技術」
    防犯カメラのわずかな光の反射から手の位置を特定したり、被害者供述の心理的な矛盾を指摘したりといった専門的な分析や、証人の嘘や誇張を指摘する反対尋問の技術は、痴漢冤罪事件の経験を積んだ弁護士でなければ持ち得ません。
  • 警察・検察と渡り合う「交渉力」
    弁護士は、法律の専門家として、捜査機関に対して不当な取り調べの中止を求めたり、有利な証拠の開示を要求したりと、対等な立場で交渉することができます。あなたの権利が不当に侵害されるのを防ぎます。
  • 「社会復帰サポート」
    冤罪によって失われた名誉を回復し、不当な解雇などの不利益を被った場合には、その回復のための法的措置もサポートします。

まとめ

痴漢冤罪は、誰の身にも突然降りかかる可能性のある、恐ろしい災厄です。もし、あなたがその悪夢に巻き込まれてしまったら、覚えておいてください。あなたの運命は、事件直後のあなたの行動にかかっています。

「絶対に罪を認めない。安易に謝らない。そして、一秒でも早く、痴漢冤罪を戦い抜く覚悟と経験のある弁護士を呼ぶこと。」

無実を証明する道は、長く、険しく、孤独な戦いです。しかし、正しい知識を持ち、信頼できるパートナーと共に、諦めずに戦い続ければ、必ずや暗闇を抜け出し、潔白を証明できる日が来ます。

もしあなたが、やっていない痴漢の罪で苦しんでいるのなら、どうか一人で抱え込まないでください。弁護士法人長瀬総合法律事務所は、あなたと共に戦うことをお約束します。

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痴漢・盗撮の再犯防止策|具体的な取り組みと弁護士のサポート

2025-07-27
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はじめに

痴漢や盗撮は、残念ながら再犯率が高い犯罪類型の一つとして知られています。その背景には、単なる性欲の問題だけではなく、ストレスや孤独感、認知の歪みといった、根深い問題が潜んでいることが少なくありません。いわば、「性依存症」という病理的な側面を持っているのです。

そのため、一度事件を起こして逮捕されたり、示談が成立して不起訴になったりしたとしても、その根本的な原因と向き合わなければ、再び同じ過ちを繰り返してしまう危険性が常に伴います。そして、再犯の場合は、もはや執行猶予などの寛大な処分は望めず、実刑判決という取り返しのつかない事態に直面することになります。

刑事手続きにおいても、検察官や裁判官は「口先だけの反省」を信用しません。「二度とやりません」と誓うだけでなく、「どのようにして再犯を防ぐのか」という客観的で具体的な取り組みを示すことが、不起訴処分や執行猶予付き判決を勝ち取るために重要なのです。

この記事では、痴漢・盗撮の再犯を防ぐための具体的な方法と、その更生への取り組みを、弁護士が法的な観点からどのようにサポートしていくのかを解説します。

Q&A

Q1. 痴漢や盗撮は「病気」なのでしょうか?病院に行けば治るものですか?

全てがそうとは言えませんが、多くのケースで「性依存症(性的嗜好障害)」という、精神疾患の一種が背景にあると考えられています。これは、アルコール依存症やギャンブル依存症と同じく、自分の意思だけではやめられない「コントロール障害」です。適切な治療を受けなければ、自分の意思の力だけで「治す」ことは困難です。しかし、逆に言えば、専門の医療機関で認知行動療法などの適切な治療やカウンセリングを受けることで、症状をコントロールし、再犯のリスクを低減させることが期待できます。

Q2. 家族として、本人の再犯を防ぐために何ができますか?

ご家族のサポートは、再犯防止においてきわめて重要です。具体的には、①本人が専門クリニックに通うことを理解し、支えること、②スマートフォンの使用状況を定期的にチェックしたり、GPSで行動を把握したりするなど、物理的に犯行が困難な環境を作ること(監督体制の構築)、③本人のストレスや悩みに耳を傾け、孤立させないこと、などが挙げられます。こうしたご家族の具体的な取り組みを「監督計画書」などの書面にまとめ、弁護士を通じて捜査機関や裁判所に提出することは、有効な情状活動となります。

Q3. 再犯防止の取り組みは、いつから始めればよいですか?

事件が発覚したら、直ちに始めるべきです。 早ければ早いほど、あなたの反省の深さと更生意欲の強さを示すことができます。逮捕されている場合でも、弁護士を通じて家族に専門クリニックの予約を取ってもらい、釈放されたらすぐに通院を開始する、といった迅速な対応が望まれます。示談交渉と並行して再犯防止の取り組みを進めることが、不起訴処分を獲得するための鍵となります。

解説

「反省」を、口先だけでなく「行動」で示す。それが、寛大な処分を得て、人生をやり直すための道です。

1. なぜ繰り返してしまうのか?痴漢・盗撮と「依存症」の関係

痴漢や盗撮の背景にある「性依存症」は、単に「性欲が強い」こととは異なります。そこには、以下のような複雑な心理メカニズムが働いていると言われています。

  • ストレスからの逃避
    仕事や家庭での強いストレス、対人関係の悩み、孤独感などから逃れるための、不適切な対処行動として現れる。
  • 歪んだ認知
    「これくらいならバレない」「相手もまんざらではないはずだ」といった、自分に都合のよい考え方(認知の歪み)が根付いている。
  • スリルへの依存
    「捕まるかもしれない」という緊張感と、それを乗り越えて行為を遂行した時の興奮が、やがてスリルそのものを求める依存状態につながる。

これらの問題は、本人の「だらしなさ」や「意志の弱さ」だけで片付けられるものではなく、専門的なアプローチによる「治療」が必要な領域なのです。

2. 刑事手続きで評価される、具体的な再犯防止策

検察官や裁判官に「この人は本気で更生しようとしている」と認めてもらうためには、客観的で具体的な取り組みが重要です。

① 専門の医療機関・カウンセリング機関での治療

これが、再犯防止策の中で最も重要かつ効果的な方法です。

  • 性犯罪専門のクリニック・精神科
    医師による診断を受け、必要に応じて薬物療法や、専門的な治療プログラム(認知行動療法など)を受けます。認知行動療法では、自分がどのような状況で犯行に及んでしまうのか(思考・感情・行動のパターン)を客観的に分析し、それを健全な行動に変えていくためのトレーニングを行います。
  • 自助グループへの参加
    同じような問題を抱える人々が集まり、互いの体験を分かち合い、支え合うグループに参加することも有効です。

弁護士は、これらの治療実績が豊富な専門機関を紹介し、ご本人やご家族が適切なサポートを受けられるよう橋渡しをします。

② 家族による具体的な監督体制の構築

ご家族の協力は、本人が社会内で更生していくための土台となります。

  • 物理的な監視
    スマートフォンのフィルタリング設定や使用履歴の共有、GPSアプリによる行動管理、門限の設定など、物理的に犯行の機会を奪う環境を整えます。
  • 精神的なサポート
    本人が治療に前向きに取り組めるよう励まし、孤立させずに日々の悩みを聞くなど、精神的な支えとなります。

これらの具体的な監督プランを、ご家族が連名で「監督計画書」や「陳述書」として書面にまとめ、弁護士が意見書と共に提出することで、検察官や裁判官に「家族一丸となって更生を支える体制が整っている」と強くアピールできます。

③ 犯行につながる環境からの物理的な隔離

本人の意思で、痴漢・盗撮の引き金となる環境を自ら断ち切ることも重要です。

  • 通勤ルート・手段の変更
    満員電車での痴漢であれば、時差出勤や自転車通勤、リモートワークへの切り替えなどを会社に相談する。
  • スマートフォンの機種変更
    高機能なカメラ付きスマホから、カメラ機能のない、あるいは性能の低いガラケーなどに変更する。
  • 転職・転居
    職場のストレスが原因であれば、環境を変えるために転職を検討する。

3. 弁護士は、あなたの更生を「法的な構成」に変える

これらの再犯防止への取り組みは、それ自体が尊いものですが、刑事手続きにおいては、それを検察官や裁判官に効果的に伝えなければ意味がありません。弁護士は、あなたの更生への努力を、寛大な処分を勝ち取るための「法的な構成」へと昇華させます。

不起訴処分を目指す場面で

示談交渉を進めると同時に、専門クリニックの診断書や通院証明書、ご家族の監督計画書などを収集します。そして、これらを添付した弁護士の意見書を検察官に提出し、「本件は示談も成立しており、本人もこれだけ真剣に再犯防止に取り組んでいる。刑事罰を科すよりも、社会内での治療を継続させることが、真の更生につながる」と主張し、起訴猶予処分を求めます。

刑事裁判で執行猶予を目指す場面で

起訴されてしまった場合、裁判では「再犯のおそれが低いこと」を立証することが、執行猶予付き判決を得るための鍵となります。そのために、

  • 主治医やカウンセラーに情状証人として出廷してもらい、治療の経過や今後の見通しについて、専門家の立場から証言してもらう。
  • 家族に情状証人として出廷してもらい、今後の監督体制について、法廷で具体的に誓約してもらう。

といった活動を行います。弁護士は、これらの証人尋問が効果的に行われるよう、事前に綿密な打ち合わせを行います。

まとめ

痴漢・盗撮という過ちを犯してしまったとき、刑事手続きのゴールは、単に軽い処分を得ることだけではありません。真のゴールは、二度と同じ過ちを繰り返さない人間になること、つまり「更生」です。

そして、刑事手続きにおいては、その更生への真摯な「取り組み」こそが、あなたの未来を切り拓く有力な手段となります。専門家による治療、家族の支え、そして生活環境の改善。これらの具体的な行動が、検察官や裁判官の心を動かし、あなたにもう一度、社会でやり直すチャンスを与えてくれるのです。

弁護士は、法律の専門家であると同時に、あなたの更生への道のりをサポートし、その努力を法的な主張へと結実させるパートナーです。過ちと真摯に向き合い、具体的な一歩を踏み出す決意ができたなら、ぜひ弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。私たちが、その道のりを共に歩みます。

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駅や商業施設での盗撮。後日逮捕の可能性と逮捕を防ぐ方法

2025-07-26
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はじめに

駅のエスカレーターや階段、多くの人が行き交う商業施設や書店。こうした場所での盗撮事件は、後を絶ちません。もし、あなたが出来心でスマートフォンを向けてしまったとして、その場で誰にも気づかれず、捕まらなかったとしたら。「バレなかった、もう大丈夫だ」と、胸をなでおろしているかもしれません。

しかし、その安心は、誤りと言わざるをえません。

現代社会は、私たちの想像以上に「監視カメラ社会」です。あなたの行動は、駅や街の至る所に設置された無数の防犯カメラによって、詳細に記録されています。被害者が後から盗撮の事実に気づき、警察に被害届を提出すれば、警察はこれらの映像を駆使して捜査を開始し、ある日突然、逮捕状を手にあなたの自宅のドアを叩く、後日逮捕の可能性が十分にあります。

この記事では、駅や商業施設での盗撮が、どのようにして発覚し、後日逮捕に至るのか、その具体的な捜査プロセスと、逮捕という最悪の事態を回避するための有効な方法について解説します。

Q&A

Q1. マスクや帽子で顔を隠していれば、防犯カメラに映っても特定されないのではないでしょうか?

特定される可能性はあります。警察は、顔が完全に映っていなくても、服装、体格、髪型、持ち物(カバンや靴)、歩き方の癖など、様々な特徴から人物を追跡します。駅の改札を通る際の防犯カメラ、店舗の出入り口のカメラ、周辺の街頭カメラなど、複数の映像をリレー方式で解析することで、あなたの移動ルートや交通手段を割り出します。最終的に、自宅最寄り駅のカメラ映像などから、個人を特定するケースは少なくありません。

Q2. 被害者がその場で全く気づいていないようでした。それでも後から被害届を出されることはありますか?

はい、あります。被害者自身は気づかなくても、周囲にいた他の乗客や買い物客があなたの不審な行動に気づき、後から被害者に「今、盗撮されていませんでしたか?」と教えてくれるケースがあります。また、被害者自身が後から「何かおかしいな」と感じ、警察に相談した結果、防犯カメラの映像から盗撮の事実が発覚することもあります。被害者がその場で騒がなかったからといって、事件化しないとは限りません。

Q3. 警察から「〇月〇日の件で、少しお話を聞きたい」と電話がありました。どうすればよいですか?

これは、警察があなたを被疑者として特定し、捜査を進めている可能性が高い状況です。無視すべきではなく、一人で安易に出頭するのも危険です。 まずは「弁護士に相談してから、改めてこちらから連絡します」と伝え、その場での詳しい話は避けましょう。そして、直ちに刑事事件に強い弁護士に相談することをご検討ください。弁護士があなたに代わって警察に連絡を取り、事件の概要や警察の意図を確認した上で、取り調べに同行するなど、準備を整えてから出頭することが、その後の不利益を避けるために重要です。

解説

「バレなかった」は、希望的観測に過ぎません。後日逮捕の現実と、その回避策を見ていきましょう。

1. 「バレない」は幻想。後日逮捕に至る警察の捜査プロセス

駅や商業施設での盗撮事件が、どのようにして個人の特定と後日逮捕につながるのか。その典型的な捜査の流れは以下の通りです。

ステップ①:被害の覚知と被害届の提出

被害者が盗撮された事実に気づき(あるいは第三者から知らされ)、警察署に相談に訪れます。警察官は、被害者から詳細な状況(日時、場所、犯人の特徴など)を聞き取り、「被害届」または、より処罰意思の強い「告訴状」を受理します。これが捜査のスタートです。

ステップ②:証拠収集と被疑者の追跡

警察は、被害者の供述に基づき、客観的な証拠の収集に乗り出します。

  • 防犯カメラ映像の徹底的な解析
    犯行現場とされる場所のカメラはもちろん、被疑者がそこに至るまで、そしてそこから立ち去った後の足取りを追跡するため、駅構内、改札、周辺店舗、街頭など、考えられる限りの防犯カメラ映像を収集し、リレー方式で解析していきます。
  • ICカード(Suica、PASMO等)の利用履歴照会
    被疑者が改札を通過した時間が特定できれば、その時間帯に通過したICカードの履歴を鉄道会社に照会します。記名式のカードであれば、それだけで個人が特定できます。無記名式でも、チャージした際の防犯カメラ映像や、普段の利用パターンなどから、利用者を絞り込んでいきます。
  • 聞き込み捜査
    現場周辺で、被疑者や犯行の様子を目撃した人がいないか、聞き込みを行います。

ステップ③:被疑者の特定と逮捕状請求

これらの捜査によって、あなたの氏名や住所が特定されると、警察はそれまでの捜査で得た証拠をまとめ、裁判官に対して「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、逃亡または証拠隠滅のおそれがある」として、逮捕状を請求します。

逮捕状が発付されれば、警察はいつでもあなたを逮捕できる状態になります。そしてある日の早朝、複数の捜査員があなたの自宅を訪れ、後日逮捕(正式には「通常逮捕」)に至るのです。

2. 後日逮捕を回避するための策「自首」

「いつ逮捕されるか」という恐怖に怯えながら生活を続けることは、精神的にきわめて大きな苦痛です。この状況から脱し、逮捕という最悪の事態を回避するための最も有効な手段、それが「自首」です。

自首とは?

自首とは、まだ捜査機関に犯罪事実や犯人が誰であるかが発覚する前に、自ら警察署などに出頭し、自分の犯した罪を申告して、その処分を委ねることを言います。

自首がもたらすメリット

  • 逮捕回避の可能性
    自ら出頭するという行為は、「逃亡する意思がない」ことを示す強力な証拠となります。また、正直に罪を申告することで、「証拠隠滅のおそれも低い」と判断されやすくなります。その結果、警察が逮捕の必要なしと判断し、身柄を拘束しない「在宅事件」として捜査を進めてくれる可能性が生まれます。これが、自首の最大のメリットです。
  • 刑の減軽
    刑法第42条には、自首した者については「その刑を減軽することができる」と定められています。これは任意的な減軽ですが、裁判になった場合に、刑罰が軽くなる可能性があります。
  • 深い反省の情を示す
    自首は、検察官や裁判官に対して、あなたが自分の犯した罪と真摯に向き合い、深く反省しているという強いメッセージを伝えることができます。これは、後に不起訴(起訴猶予)処分や執行猶予付き判決を得る上で、有利な情状となります。

自首を成功させるためのポイント

自首は、ただ一人で警察署に行けばよいというものではありません。うまく事情を説明できず、かえって疑いを深められ、その場で逮捕されてしまうリスクもあります。

自首を成功させ、逮捕を回避するためには、事前に弁護士に相談し、同行してもらうことが重要です。

弁護士に相談するメリット

後日逮捕の不安を抱えている方にとって、弁護士は心強い味方となります。

  • 自首への同行と、警察との事前交渉
    弁護士は、あなたが一人で警察署に行く前に、まず担当の警察署に連絡を入れます。「被疑者が深く反省しており、自ら出頭して全てをお話ししたいと望んでいる。弁護士である私が責任をもって出頭させるので、逮捕の必要はないはずだ」と、事前に交渉を行います。これにより、逮捕のリスクを低減させることができます。
  • 取り調べへの適切な対応
    弁護士が自首に同行することで、取り調べの際に不当な圧力を受けたり、不利な供述調書を作成されたりするのを防ぎます。あなたに代わって、事件の状況を法的に整理して捜査官に説明することも可能です。
  • 被害者との早期示談への道筋
    自首をすることで、警察の捜査に協力する姿勢を示し、被害者の特定を早めることができます。被害者が特定され次第、弁護士は速やかに示談交渉に着手します。「自首」と「示談成立」の2つが揃えば、不起訴処分となる可能性は高まります。

まとめ

駅や商業施設での盗撮は、あなたが思う以上に簡単に発覚し、個人の特定につながります。「バレなかった」という一時的な安堵は、後日逮捕という、より深刻な事態の前触れに過ぎません。

その恐怖に怯え続けるのではなく、自らの過ちと向き合い、人生を再スタートさせるための、最も賢明で勇気ある一歩が「自首」です。そして、その一歩を成功に導き、逮捕という最悪の事態を回避するためには、刑事事件の専門家である弁護士のサポートが重要です。

もしあなたが、過去の盗撮行為によって後日逮捕の不安に苛まれているのなら、どうか手遅れになる前に、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。私たちが、あなたの勇気ある決断を、全力で支え、守ります。

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盗撮の示談金相場はいくら?被害者と示談を進めるための具体的な方法

2025-07-25
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はじめに

駅のエスカレーターや会社のトイレなどで、出来心から盗撮行為に及んでしまった…。もし、その事実が発覚すれば、2023年7月に施行された「撮影罪」という重い罪によって、あなたの人生は大きく変わってしまう可能性があります。

このような危機的状況において、前科が付くことを回避し、社会生活への影響を最小限に抑えるために、最も重要かつ効果的な手段が「被害者との示談」です。示談を成立させ、被害者の方から許し(宥恕)を得ることができれば、検察官が不起訴処分とする可能性が大きく高まります。

しかし、盗撮は被害者のプライバシーと尊厳を著しく侵害する卑劣な行為であり、被害感情はきわめて強いのが通常です。そのため、「示談金は一体いくら支払えばいいのか」「どうすれば被害者の方に謝罪し、話し合いのテーブルについてもらえるのか」といった切実な疑問と困難が伴います。

この記事では、盗撮事件における示談金の具体的な相場、そして困難を極める示談交渉を円滑に進めるための具体的な方法と流れについて解説します。

Q&A

Q1. 示談金が高すぎて、とても一括では払えません。減額交渉や分割払いは可能ですか?

はい、可能です。被害者の方が提示する示談金額が、過去の裁判例などから見て著しく高額である場合には、弁護士がその妥当性について交渉し、減額を目指します。また、どうしても一括での支払いが困難な経済的事情がある場合は、その旨を弁護士から丁寧に説明し、被害者にご理解いただいた上で、分割払いの合意形成を目指します。ただし、示談は被害者の方の感情に大きく左右されるため、真摯な謝罪と反省の態度が前提となります。

Q2. 被害者が未成年者の場合、誰と示談交渉をすればよいですか?

被害者が未成年(18歳未満)の場合、示談契約などの法律行為を単独で行うことはできません。そのため、交渉の相手方は、その親権者であるご両親となります。未成年の子どもが被害に遭ったご両親の怒りや悲しみは計り知れず、交渉は成人被害者のケース以上に困難となります。加害者本人が接触するべきではなく、児童・思春期の問題に理解のある、経験豊富な弁護士による、慎重な対応が求められます。

解説

盗撮事件の解決に不可欠な「示談」。その相場と具体的な進め方を詳しく見ていきましょう。

1. 盗撮事件における示談の重要性

盗撮事件において、示談は単なる「お詫び」以上の、決定的な意味を持ちます。

刑事処分への影響

検察官が起訴・不起訴を判断する際、最も重視する要素の一つが「被害者の処罰感情」です。示談が成立し、示談書の中に「加害者を許します(宥恕します)」「加害者に対する刑事処罰を望みません」という文言(宥恕条項)を入れてもらうことができれば、検察官は「被害者の被害感情は回復され、当事者間での解決も済んでいる」と判断し、不起訴(起소유예)処分とする可能性が高くなります。前科を回避するためには、示談の成立が重要条件と言っても過言ではありません。

民事上の賠償責任の完了

盗撮は、被害者のプライバシー権や肖像権を侵害する不法行為であり、加害者は民事上の損害賠償責任を負います。示談は、この損害賠償問題を、裁判外の話し合いで一括して解決する意味も持ちます。示談書に「本件に関して、当事者間には本示談書に定めるもののほかに何らの債権債務関係がないことを相互に確認する」という清算条項を入れることで、後から追加で損害賠償請求をされるといったトラブルを防ぎます。

2. 盗撮の示談金、その相場と金額を左右する要因

示談金の額に法的な決まりはなく、あくまで当事者間の合意によって決まります。しかし、過去の多くの事例から、ある程度の相場観が存在します。

盗撮の示談金相場

一般的に、20万円~100万円程度が目安となります。ただし、あくまでも目安に過ぎず、個別の事例によって異なります。

  • 比較的軽微なケース:~ 50万円
    (例:駅のエスカレーターで、服の上から一度だけスカート内を撮影した、など)
  • 悪質なケース:50万円 ~ 100万円以上
    (例:トイレや更衣室、自宅に侵入しての撮影、長期間・多数回の撮影、裸体を撮影した、など)

示談金額を変動させる主な要素

上記の相場は、以下のような要素によっても変動します。

  • 撮影場所のプライベート性
    駅や商業施設といった公共の場所よりも、トイレ、更衣室、試着室、自宅、ホテルの客室など、通常、人が裸になったり無防備になったりする、プライベート性の高い空間での盗撮は、悪質性が格段に高いと判断され、示談金も高額になります。
  • 撮影された内容
    下着姿、あるいは裸体など、肌の露出度が高いほど、被害者の精神的苦痛は大きいとされ、示談金は高額になります。
  • 撮影の回数・期間・計画性
    一度きりの突発的な犯行よりも、小型カメラを仕掛けるなど計画的であったり、長期間にわたり多数の盗撮を繰り返していたりした場合は、常習性・悪質性が高いと見なされ、高額になります。
  • 撮影データの拡散の有無
    盗撮したデータをインターネットのサイトに投稿したり、他人に譲渡したりした場合、被害は不特定多数に、かつ半永久的に拡散されることになり、被害は甚大です。この場合の示談金は数百万円以上に跳ね上がることもあり、そもそも示談交渉自体が不可能になるケースも少なくありません。
  • 加害者と被害者の関係性
    見ず知らずの相手への盗撮も悪質ですが、会社の同僚、友人、隣人など、信頼関係にあった相手への盗撮は、裏切りの要素が加わるため、被害者の精神的苦痛はより大きいとされ、示談金も高額になる傾向にあります。

3. 弁護士が進める、盗撮示談の具体的な方法と流れ

被害感情の強い盗撮事件の示談交渉は、慎重に進める必要があります。

ステップ①:弁護士による、被害者への連絡許可の取り付け

全ての始まりは、弁護士が検察官などの捜査機関に対し、「加害者が深く反省し、謝罪と賠償を尽くしたいと望んでいるため、示談交渉の機会をいただきたい」と申し入れ、弁護士限りで被害者の方の連絡先を教えてもらうことです。このプロセスなくして、示談交渉は始まりません。

ステップ②:弁護士から被害者への、丁寧なアプローチ

弁護士は、被害者の方の心情に最大限配慮しながら、電話や手紙で最初のコンタクトを取ります。加害者の代理人として謝罪の言葉を伝えるとともに、示談の話し合いに応じていただけるよう、丁寧にお願いします。

ステップ③:具体的な示談条件の交渉

被害者の方が話し合いに応じてくださった場合、具体的な条件の交渉に入ります。

  • 示談金額の協議
    相場や事案の悪質性を踏まえ、双方が納得できる金額を探ります。
  • 盗撮データの完全な破棄の約束と実行
    前述の通り、弁護士の監督下でデータを復元不可能な形で破棄し、その証明を行うことを約束します。
  • 宥恕条項等の獲得交渉
    不起訴処分のために最も重要な「加害者を許す」という宥恕文言を示談書に盛り込んでもらえるよう、粘り強く交渉します。

ステップ④:法的に有効な示談書の作成・締結

合意した内容を、後々のトラブルを完全に防ぐための条項(被害届の取下げ、接触禁止、清算条項など)を網羅した、法的に有効な示談書として作成し、双方で署名・押印します。

ステップ⑤:示談金の支払いと、捜査機関への報告

示談書を取り交わした後、速やかに示談金を支払い、示談書一式の写しを検察官に提出して、示談が円満に成立したことを報告します。

弁護士に示談交渉を依頼するメリット

盗撮事件の示談は、弁護士なしでは困難です。弁護士に依頼することで、以下のようなメリットが得られます。

  • 交渉のスタートラインに立てる
    そもそも、弁護士でなければ被害者の連絡先を知ることができず、交渉の機会すら得られません。
  • 被害者の強い処罰感情に対応できる
    加害者を憎む被害者に対し、冷静な第三者である弁護士がクッション役となることで、感情的な対立を避け、話し合いの場を設けることが可能になります。
  • 適正な金額での解決に導く
    弁護士が法的な観点から交渉することで、相場からかけ離れた高額な示談金の支払いを回避し、妥当な金額での解決を目指せます。
  • 被害者の二次被害への不安を解消できる
    弁護士がデータ破棄に責任をもって関与することで、被害者の最も大きな不安を解消し、信頼関係を築きやすくなります。

まとめ

盗撮事件で逮捕されたり、捜査を受けたりした場合、あなたの未来は、被害者との示談が成立するかどうかにかかっていると言っても過言ではありません。示談金の相場は数十万円から100万円程度が一つの目安ですが、事案の悪質性によって大きく変動します。

そして、その示談交渉は、被害者の強い処罰感情やプライバシーへの配慮から、専門家である弁護士のサポートなしに進めることは困難です。

もしあなたが盗撮という過ちを犯してしまい、人生の岐路に立たされているのであれば、どうか一人で抱え込まないでください。直ちに、盗撮事件の示談交渉に精通した弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。私たちが、あなたに代わって被害者の方と真摯に向き合い、事件の円満な解決とあなたの社会復帰をサポートします。

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盗撮の刑罰は?「撮影罪」の新設でどう変わったか罰金・懲役刑を解説

2025-07-21
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はじめに

スマートフォンのカメラ性能が向上し、小型カメラが安価で手に入るようになった現代社会。それに伴い、スカートの中やトイレの中などを狙った「盗撮」は、後を絶たない深刻な社会問題となっています。

これまで、こうした盗撮行為は、主に各都道府県の「迷惑防止条例」によって取り締まられてきました。しかし、条例では撮影場所が「公共の場所」などに限定されているため、自宅やオフィス内での盗撮に対応できないといった「処罰の穴」が指摘されていました。

この問題を解決するため、2023年7月13日、盗撮行為そのものを罰する新しい法律、通称「撮影罪(性的姿態撮影等処罰法)」が施行されました。これにより、盗撮に対する取り締まりと刑罰は厳格化されました。

この記事では、新しく設けられた「撮影罪」とはどのような犯罪なのか、従来の迷惑防止条例による処罰と何が違うのか、そして盗撮行為に科される罰金や懲役刑について解説します。

Q&A

Q1. 「撮影罪」ができたことで、これまでの迷惑防止条例はもう使われないのですか?

いいえ、今後も迷惑防止条例が適用されるケースはあります。「撮影罪」は、主に「性的な姿態」を対象としていますが、迷惑防止条例はより広く「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為」を規制しています。そのため、撮影罪の構成要件を満たさないような、例えば衣服で覆われている部分を執拗に撮影するようなケースでは、引き続き迷惑防止条例違反として処罰される可能性があります。どちらの法律を適用するかは、捜査機関が事案の悪質性などを考慮して判断することになります。

Q2. 盗撮しただけで、誰にも見せていませんし、ネットにも上げていません。それでも罪になりますか?

はい、撮影しただけで犯罪は成立します。 「撮影罪」は、性的な姿態などをひそかに「撮影」する行為そのものを罰するものです。撮影したデータを誰かに見せたり、インターネットに公開したりしなくても、撮影ボタンを押し、データとして記録した時点で犯罪は既遂となります。もちろん、そのデータを第三者に提供したり、ネットにアップロードしたりすれば、さらに別の罪(頒布罪、提供罪)として、より重く処罰されることになります。

Q3. 法律ができる前の古い盗撮行為が、今になって新しい「撮影罪」で罰せられることはありますか?

いいえ、それはありません。法律には「刑罰法規不遡及の原則」があり、法律はその施行日以降の行為に対してのみ適用されます。「撮影罪」が施行されたのは2023年7月13日ですので、それ以前の盗撮行為に対して、新しい撮影罪が適用されることはありません。 ただし、当時の迷惑防止条例違反などの罪に問われる可能性は、時効が完成していない限り残ります。

解説

盗撮は、「軽い出来心」では済まされない重罪です。新設された「撮影罪」を中心に、その厳しい内容を見ていきましょう。

1. 盗撮を取り締まる法律の新しい枠組み

これまで、盗撮は主に各都道府県の迷惑防止条例で対応されてきました。しかし、条例には以下のような限界がありました。

  • 場所の限定
    規制場所が「公共の場所・乗物」などに限られ、個人の住居や会社のオフィス、ホテルの客室などでの盗撮に対応できない。
  • 手段の限定
    規制される行為が「通常衣服で隠されている下着又は身体」を対象としているため、巧妙な手口に対応しきれない。
  • 罰則の不均衡
    都道府県によって罰則にばらつきがある。

こうした「処罰の穴」を埋め、盗撮行為に厳しく対処するために創設されたのが、全国一律の法律である「撮影罪(性的姿態撮影等処罰法)」なのです。

2. 「撮影罪」の厳しい刑罰と成立要件

「撮影罪」の正式名称は、「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の映像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」といいます。この法律は、主に以下の2つの行為を処罰の対象としています。

成立要件①:性的な姿態を「盗撮」する行為

  • 何を?
    性的な姿態」を撮影すること。具体的には、人の胸部や臀部、性器といった部分、またはこれらを覆う下着などが該当します。
  • どうやって?
    相手の同意なく、ひそかに「撮影」すること。カメラだけでなく、スマートフォンやその他の機器による録画も含まれます。
  • どこで?
    場所に限定はありません。これまで規制が難しかった、自宅、学校、会社、ホテルの客室、個室トイレなど、あらゆる場所での盗撮が処罰対象となります。

成立要件②:16歳未満の者への「無承諾撮影」など

  • 誰を?
    16歳未満の者を対象とすること。
  • 何を?
    たとえ相手が撮影に同意していたとしても、わいせつ目的で性的な姿態を撮影する行為。また、自分が監督・保護する立場にある18歳未満の者に対し、撮影を要求する行為も罰せられます。これは、子どもを性的な搾取から守る、いわゆる「グルーミング」対策として盛り込まれた規定です。

撮影罪の刑罰

撮影罪の刑罰は、従来の迷惑防止条例よりも大幅に厳しくなっています。

  • 撮影、要求などの行為
    3年以下の拘禁刑(または懲役)または300万円以下の罰金
  • 撮影した映像を提供、頒布、陳列する行為
    5年以下の拘禁刑(または懲役)または500万円以下の罰金

「拘禁刑」とは、2025年6月から施行される、刑務作業の義務がない新しい刑罰ですが、それまでは懲役刑が適用されます。罰金刑の上限が300万円と非常に高額であり、懲役刑も定められていることから、きわめて重い犯罪と位置づけられていることが分かります。

3. 迷惑防止条例違反との比較

撮影罪の新設により、盗撮に対する罰則がどれほど厳しくなったか、東京都の迷惑防止条例と比較してみましょう。

撮影罪(新設)迷惑防止条例(東京都)
刑罰3年以下の拘禁刑/300万円以下の罰金1年以下の懲役/100万円以下の罰金
場所限定なし公共の場所・乗物などに限定
対象性的な姿態通常衣服で隠されている下着・身体
その他映像の提供・頒布も処罰撮影行為が主

このように、法定刑の上限が引き上げられ、適用範囲が大きく広がったことで、警察もより積極的に捜査・立件しやすくなりました。

弁護士に相談するメリット

盗撮は、被害者のプライバシーと尊厳を著しく侵害する犯罪であり、発覚した場合、加害者は厳しい社会的制裁を受けることになります。もし、盗撮行為をしてしまった場合、直ちに弁護士に相談することが、事態の悪化を防ぐ道です。

被害者との迅速な示談交渉

盗撮事件で最も重要なのは、被害者への謝罪と賠償、そして示談を成立させることです。しかし、被害者は加害者に対し強い嫌悪感や恐怖心を抱いており、直接の交渉は不可能です。弁護士が代理人として間に入ることで、被害者の心情に配慮しながら、冷静かつ円滑に示談交渉を進めることができます。

不起訴処分の獲得による前科の回避

示談が成立し、被害者から許し(宥恕)を得ることができれば、撮影罪という重い罪名であっても、検察官が不起訴(起訴猶予)処分とする可能性が高まります。前科がつけば、人生に大きな制約が生まれます。不起訴処分の獲得は、弁護活動の最大の目標です。

再犯防止に向けた具体的な取り組み

盗撮は、性依存の一環として、繰り返してしまう傾向が強い犯罪です。弁護士は、専門のクリニックへの通院を促したり、カウンセリングを受けさせたりするなど、具体的な再犯防止策を指導します。そして、こうした取り組みを客観的な証拠として検察官や裁判官に示すことで、本人が深く反省し、更生しようとしていることを主張し、寛大な処分を求めます。

盗撮データの適切な破棄

盗撮してしまったデータをどう扱うかは、非常に重要な問題です。弁護士の監督の下、専用の機材やソフトを用いてデータを完全に復元不可能な形で消去し、その事実を被害者や捜査機関に報告することで、反省の態度と証拠隠滅の意思がないことを示すことができます。

まとめ

2023年7月の「撮影罪」施行により、盗撮は、「出来心」や「興味本位」では決して済まされない、紛れもない重罪となりました。その刑罰は厳しく、適用範囲も広がり、これまで以上に逮捕・起訴されるリスクが高まっています。

たった一度の過ちが、あなたの社会的信用、キャリア、そして大切な家族との関係、そのすべてを破壊する可能性があります。

もし、あなたが盗撮という過ちを犯してしまった、あるいはその疑いをかけられてしまったのなら、事態が取り返しのつかないことになる前に、一日も早く、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。被害者への誠実な対応と、あなた自身の更生に向けた一歩を、私たちがサポートします。

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