はじめに
ご家族が突然警察から呼び出されたり、あるいはご自身が万引きなどのトラブルで警察の取り調べを受けたりした場合、「このまま逮捕されて前科がついてしまうのではないか」と深い不安を抱えられることと思います。
刑事事件の手続きは一般的に、警察から検察へ事件が引き継がれ(送検)、検察官が起訴・不起訴を判断します。しかし、すべての事件が検察官に送られるわけではありません。一定の条件を満たす軽微な犯罪であれば、警察の判断のみで事件の手続きを終わらせる「微罪処分(びざいしょぶん)」という制度が存在します。微罪処分となれば、事件は検察に送られることなく終了し、早期に日常生活に戻ることができます。
この記事では、どのようなケースで微罪処分が適用されるのか、そのための条件や、前科・前歴との関係について解説いたします。ご自身やご家族の状況が微罪処分に該当する可能性があるのかを知り、今後の適切な対応を考えるための参考にしていただければ幸いです。
Q&A:微罪処分に関するよくある疑問
ここでは、警察の捜査段階においてよく寄せられる微罪処分についての疑問にお答えします。
Q1. 微罪処分で終わった場合、前科はついてしまいますか?
微罪処分となった場合、前科がつくことはありません。
前科とは、刑事裁判で有罪判決を受けた記録のことです。微罪処分は裁判にかける前の、警察の段階で手続きが終了するため、前科として記録されることはなく、履歴書の賞罰欄に記載する義務も生じません。資格制限などの社会的な不利益を受けることもありません。
ただし、捜査の対象となったという「前歴」は警察内部の記録として残ります。
Q2. どのような犯罪が微罪処分の対象になるのでしょうか?
主に、被害が少なく悪質性の低い財産に対する犯罪が対象となります。
具体的には、少額の万引きなどの窃盗罪、放置された自転車に乗って帰ってしまったような占有離脱物横領罪、被害額の小さい詐欺罪などが挙げられます。
一方で、殺人や強盗といった重大な犯罪や、傷害罪のように人の身体を傷つける犯罪は、原則として微罪処分の対象にはならず、検察官へ送致されることになります。
Q3. すでに逮捕されて警察署にいる場合でも、微罪処分になる可能性はありますか?
はい、逮捕された後であっても微罪処分となる可能性は残されています。
逮捕後、警察は48時間以内に事件を検察官に送る(送検する)かどうかを判断します。この48時間の間に、被害者との間で示談が成立し、被害が回復されるなどの有利な事情が揃えば、警察の判断で微罪処分とし、検察へは送致せずに身柄が釈放されるケースがあります。したがって、逮捕直後の迅速な対応が重要となります。
解説
微罪処分となるための具体的な条件と手続きの流れ
微罪処分は、自動的に適用されるものではありません。どのような条件が揃えば認められるのか、その基準と流れを詳しく解説します。
1. 微罪処分の法的な位置づけ
日本の刑事訴訟法では、警察は犯罪を捜査したときは、原則として書類や証拠とともに事件を検察官に送致しなければならないと定められています(全件送致の原則)。
しかし、例外として「あらかじめ検察官が指定した一定の犯罪について、犯罪の事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続きをする必要がないと指定されたもの」については、警察限りで事件を終了させることが認められています。これを微罪処分と呼びます。
これは、検察官の負担を軽減するとともに、軽微な事件で市民を長期間の刑事手続きに巻き込まないようにするための合理的な制度です。
2. 微罪処分が適用されるための一般的な条件
微罪処分とするかどうかの判断は警察官(警察署長)に委ねられていますが、各都道府県の地方検察庁が独自の基準を設けています。一般的に、以下の条件を総合的に満たす場合に適用される傾向があります。
- 被害が軽微であること
被害額が小さいことが重要です。地域や事件の種類によって基準は異なりますが、数千円から数万円程度の少額であることが一つの目安となります。 - 被害の回復が行われている、または示談が成立していること
被害品が手元に戻っている、あるいは被害額が弁償されていることが強く求められます。被害者に対して謝罪を行い、処罰を望まない旨の「示談」が成立していると、微罪処分となる可能性が高まります。 - 初犯であること
過去に同種の犯罪による前科や前歴がないことが重視されます。何度も同じような犯罪を繰り返している場合は、再犯の恐れがあるとみなされ、微罪処分の対象外となることが一般的です。 - 犯行の態様が悪質でないこと
計画的であったり、組織的であったり、凶器を用いたりするなど、手口が悪質な場合は対象外となります。出来心による単独での犯行などが考慮されます。 - 本人が深く反省していること
自身の行いを素直に認め、反省の態度を示していることが不可欠です。事実を否認していたり、言い訳を繰り返したりしている場合は、微罪処分を得ることは困難になります。 - 身元がしっかりしており、再犯の恐れがないこと
定まった住居や職業があること、監督してくれる家族がいることなど、社会生活上の基盤が整っていることが確認されます。これは逃亡や証拠隠滅の恐れがないと判断される要素にもなります。
3. 微罪処分の手続きの流れ
事件が発生してから微罪処分として終了するまでの流れをご説明します。
- 取り調べと証拠収集
警察による取り調べが行われ、犯行の事実関係や動機などが確認されます。同時に、被害者からも事情を聴取し、被害の大きさや処罰感情の有無を確認します。 - 警察官による判断
収集された情報をもとに、警察官が微罪処分の基準に該当するかどうかを判断します。 - 訓戒と釈放
微罪処分とする旨が決定されると、警察官から「二度と同じ過ちを繰り返さないように」といった厳重な注意(訓戒)を受けます。多くの場合、ご家族などの身元引受人が警察署に呼ばれ、今後の監督を約束した上で、身柄が解放されます。逮捕されていた場合は、この時点で釈放となります。 - 検察官への報告(月報送致)
事件は個別に検察官へ送致されることはありませんが、警察は月に一度、微罪処分とした事件をまとめて検察官に報告します。これを月報送致と呼びます。報告のみで手続きは完了します。
4. 微罪処分と不起訴処分の違い
微罪処分と似た結果として「不起訴処分」があります。どちらも「前科がつかない」という点では共通していますが、判断を下す機関とタイミングが異なります。
- 微罪処分:警察が判断し、事件が検察官に送られる「前」に手続きが終了します。
- 不起訴処分:事件が警察から検察へ送られた「後」に、検察官が判断を下して手続きが終了します。
警察段階で終わる微罪処分の方が、手続きにかかる期間が短く、取り調べなどの精神的な負担や身柄拘束の期間も少なく済むという大きな利点があります。
弁護士に早期に相談・依頼するメリット
微罪処分は、前科を避け、早期に社会復帰を果たすための最も望ましい結果の一つです。しかし、条件を満たせば自動的に微罪処分になるわけではなく、警察に対して「この事件は微罪処分で終了させるのが妥当である」と理解してもらうための活動が必要です。
弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談いただくことで、以下のようなサポートを通じて微罪処分の獲得を目指します。
① 迅速かつ適切な被害者対応と示談交渉
微罪処分を目指す上で、被害者への謝罪と被害弁償、そして示談の成立は欠かせない要素です。しかし、加害者ご本人やご家族が直接被害者に連絡を取ることは、被害者の感情を逆撫でしたり、法外な要求をされたりする恐れがあります。また、警察は通常、加害者側に被害者の連絡先を教えません。
弁護士が代理人となることで、被害者の心情に配慮しながら冷静かつ適切な金額での交渉を進めることができます。早期に示談を成立させ、その結果を警察に報告することで、微罪処分の可能性を大きく高めることができます。
② 警察への的確な働きかけと状況説明
弁護士は、ご本人との接見(面会)を通じて詳しい事情を聴き取り、被害額の少なさ、本人の深い反省、家族の監督体制が整っていることなどを論理的に整理します。そして、警察官に対して、これらが微罪処分の要件を満たしていることを客観的な事実に基づき説明し、検察へ送致せずに微罪処分として終了させるよう働きかけを行います。
③ 万が一送検された場合のシームレスな対応
警察の判断により微罪処分とならず、事件が検察官に送致されてしまった場合でも、弁護士がついていれば切れ目のない対応が可能です。微罪処分のために集めた示談書や反省文などの有利な証拠をそのまま活用し、速やかに検察官との交渉に移行して「不起訴処分」を獲得するための弁護活動へスムーズに繋げます。
まとめ
警察段階で事件の手続きが終了する「微罪処分」について解説いたしました。ポイントをまとめます。
- 微罪処分とは、軽微な犯罪において、事件を検察に送らず警察の判断で終了させる手続きである。
- 微罪処分になれば前科はつかず、身柄も釈放され早期に日常生活に戻ることができる。
- 適用されるには、被害が軽微であること、初犯であること、示談が成立していることなどの条件を満たす必要がある。
- 早期の示談成立や警察への適切な働きかけなど、微罪処分を獲得するためには弁護士のサポートが有効である。
「出来心でやってしまった」「被害額は少ないから大事にはならないだろう」と安易に考えることはリスクを伴います。初動の対応が遅れれば、本来であれば微罪処分で終わるはずだった事件が検察へ送られ、長引く手続きや前科がつく可能性に直面することになりかねません。
警察から呼び出しを受けている、あるいはご家族が逮捕されてしまったという場合は、ためらわずに私たちにご相談ください。
私たち弁護士法人長瀬総合法律事務所では、刑事事件の経験を積んだ弁護士が、皆様の不安に寄り添い、状況を的確に分析した上で、微罪処分の獲得をはじめとする最善の解決に向けたサポートを提供いたします。平穏な日常を一日も早く取り戻すため、皆様からのご相談をお待ちしております。
その他の刑事事件コラムはこちら
初回無料|お問い合わせはお気軽に
