はじめに
刑事事件で一度依頼した弁護士に対し、「どうも相性が合わない」「十分な活動をしてくれない」などの不満を抱えることは珍しくありません。また、事件の進行度合いによっては、当初私選弁護士を選んだが費用的に国選に切り替えたい、逆に国選弁護人に不満があって私選弁護人を改めて雇いたい、といったニーズが生じる場合もあります。いずれにせよ、刑事事件の途中で弁護士を変更することは法律上可能であり、被疑者・被告人の権利として認められています。
本稿では、刑事事件中に弁護士を変更する際の手続きや、どのようなタイミング・事情で変更が行われるのか、また変更時に注意すべきポイントを解説します。弁護士選びは事件の結果を大きく左右する重要事項であるため、合わないと感じたら遠慮せず見直しを検討することも十分考慮すべきです。
Q&A
Q1:弁護士を途中で変更するには、どのような手続きが必要ですか?
旧弁護士との委任契約を解除し、新たな弁護士と改めて委任契約を結ぶ形となります。国選弁護人から私選弁護人に切り替える場合も、国選弁護人を辞任させる手続きを取り、私選弁護人を新たに選任する流れです。裁判所や検察に「新弁護士が就任した」旨を通知します。
Q2:国選弁護人を解任して私選にする場合、何か費用はかかりますか?
国選弁護費用は国が負担しているため、解任しても特に違約金などはありません。ただし、私選弁護に切り替えた後は私選弁護士の着手金・報酬が発生します。事件の進行状況によっては高額になることもあるので、事前に見積もりを確認しましょう。
Q3:逆に私選弁護人を解任して国選にするのは可能ですか?
被疑者・被告人が経済的に困窮し、国選弁護の要件(勾留中など)を満たせば切り替え可能です。私選弁護人との契約を解除し、国選弁護人選任を裁判所に申請します。ただし、解任した私選弁護士に対しては契約に基づく清算や違約金が発生する場合もあり得ます。
Q4:弁護士を変更すると、進行中の裁判はリセットされるのでしょうか?
裁判自体は継続しますが、新弁護士が事件内容を把握し、準備する時間が必要となるため、公判日程の延期が認められることがあります。ただし、無制限に先延ばしが許されるわけではなく、裁判所が合理的と判断する範囲での猶予になります。
Q5:弁護士が全く連絡してこない、打ち合わせも満足にできない場合でも解任できますか?
被疑者・被告人は弁護士を解任請求することができます。「弁護活動に不満がある」「コミュニケーション不足」などが理由で十分です。ただし、解任後すぐに別の弁護士を探さないと、時間が経ってから新弁護士の着手までに手遅れになるリスクもあるので注意が必要です。
Q6:弁護士が途中交代すると、追加で弁護士費用がかさみませんか?
旧弁護士への報酬清算や、新たな弁護士の着手金・報酬が必要となる場合が多く、二重にコストがかさむ可能性はあります。ただし、弁護士との相性や活動状況が悪いまま続けるより、変更して結果が向上するなら価値はあるかもしれません。
Q7:裁判直前や公判途中で変えるのはやめた方がいいのでしょうか?
公判直前や途中でも問題なく変更できますが、新弁護士が事件内容を把握するための時間が限られるため、かなり急ぎの作業になるのがデメリットです。事件が複雑な場合、事前に十分な協議期間を確保できるかがポイントとなります。
Q8:弁護士の交代で検察官から嫌な反応を受けることはありますか?
交代自体は被告人の権利であり、検察官が直接口出しする権限はありません。ただ、交代後に準備のため公判延期を申し立てたりすると、検察官が「時間稼ぎだ」と思う場合もあります。裁判所と検察がそれを疑わないよう、適切なタイミングと理由を示す必要があります。
Q9:弁護士変更後、過去の国選弁護や前の私選弁護士が集めた証拠や資料はどうなるのですか?
基本的には依頼者(被告人)のために収集した資料なので、新弁護士へ引き継ぎできるのが通常です。旧弁護士に対し、資料・記録の返還を請求し、スムーズな移管を図りましょう。
Q10:弁護士の変更を検討しているが迷っています。まず何をすればいいでしょうか?
まず現在の弁護士に不満点を率直に伝えて相談し、それでも改善が見込めないなら別の弁護士へセカンドオピニオンを取りましょう。問題が深刻なら交代を実行し、新弁護士を選定します。弁護士法人や弁護士会に問い合わせれば、複数の弁護士と面談して比較も可能です。
解説
弁護士変更の理由
- コミュニケーション不足:連絡が遅い、アドバイスが得られない
- 方針の不一致:示談や無罪主張など、戦略で合わない
- 費用問題:費用が高額すぎる
- 信頼関係の破綻:言動や対応に疑問が生じ、もはや任せられない
変更のタイミング
- 逮捕直後:国選がつく前に、すぐ私選弁護士を依頼する
- 捜査段階:国選弁護人に不満があれば私選に切り替え
- 公判前整理手続き中:戦略に納得いかないとき
- 公判途中:相性が悪い、十分な弁護活動をしてくれない
- 判決後の控訴審:一審の弁護士方針に不満があれば切り替え
解任・変更の手続き
- 旧弁護士との契約解除:口頭でも可能だが書面で明確に伝えるのが望ましい
- 新弁護士との契約:着手金・報酬金を含めた費用合意
- 裁判所・検察への通知:弁護士が「受任届」を提出し、旧弁護士は辞任する
- 記録・証拠の引き継ぎ:旧弁護士が収集した資料を新弁護士へ移管
費用とリスク
- 重複コスト:解任した弁護士への支払い、さらに新弁護士への着手金
- 時間的ロス:新弁護士が事件を把握するまでに時間がかかり、裁判の日程が押す
- 裁判所の心証:あまりに頻繁に弁護士を変えると「戦略的引き延ばし」と疑われる可能性も
弁護士変更で得られるメリット
- 適切な方針:不満を解消し、より経験豊富な弁護士による弁護活動
- コミュニケーション改善:親身に対応してくれる弁護士を選ぶ
- 戦略の再構築:示談や無罪主張、量刑交渉などを再度見直し有利に進める
弁護士に相談するメリット
セカンドオピニオン
他の弁護士の意見を聞くことで、現在の弁護方針が妥当か確認できる。重大な方針転換が必要かもしれないし、実は現弁護士が最適だったと再確認する場合もある。
トラブルの回避
弁護士変更に際して、旧弁護士との費用清算や資料引き継ぎで揉めることがある。新弁護士が仲介し、スムーズに手続きを進められるためトラブルを最小限にできる。
新たなネットワークと専門知識
重大事件や複雑な案件では、専門知識や特定領域に強い弁護士を私選で探す意義が大きい。最新判例や交渉実務に通じた弁護士を選べば示談や公判戦略で有利になる可能性がある。
タイミングの管理
弁護士が適切なタイミングで裁判所に事情説明を行い、公判日程や保釈請求などを調整することで、被告人の権利を最大限に守る。急な弁護士変更でもスケジュール調整がスムーズに行われれば、裁判に悪影響を与えにくい。
まとめ
刑事事件の途中で弁護士を変更することは、被疑者・被告人の正当な権利であり、弁護活動に不満がある場合や費用上の理由などで選択されるケースが少なくありません。変更に伴うコストや時間的ロスといったデメリットを考慮しつつも、最適な弁護士と協力して事件を進める意義は大きいといえます。以下のポイントを踏まえ、弁護士の交代が必要かどうか慎重に見極めましょう。
- 弁護士とのコミュニケーションが重要
不満があればまず直接改善を求め、それでも解決しないなら交代を検討。 - タイミングと費用に注意
公判直前や途中変更では、新弁護士の準備期間や追加費用が発生。 - 旧弁護士との契約解除・新弁護士との契約
書面で手続きを取り、裁判所・検察に通知して混乱を防ぐ。 - 記録や証拠の引き継ぎ
旧弁護士が収集した資料をスムーズに移管できるよう、弁護士同士で協力。 - 弁護士の専門性や相性
大切な刑事事件だからこそ、自分が信頼できる弁護士を選び、納得のいく弁護活動を目指す。
もし現在の弁護士との関係に疑問を抱いている場合は、弁護士法人長瀬総合法律事務所へお気軽にセカンドオピニオンをお求めください。事件内容と弁護方針を丁寧に見直し、より良い結果を目指せるよう最適なご提案をいたします。
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